エキセントリックな音の魔術師 ルイス・コール インタビュー | Numero TOKYO
Interview / Post

エキセントリックな音の魔術師 ルイス・コール インタビュー

クインシー・ジョーンズ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、フライング・ロータスらがこぞって賞賛する噂のシンガーソングライター&プロデューサー、ルイス・コール(LOUIS COLE)。2018年8月に〈ブレインフィーダー(BRAINFEEDER)〉から最新作『Time』をリリースし、12月に行ったジャパンツアーはソールドアウトという人気急上昇中の実力派アーティスト、ルイス・コールとは? そのシュールかつポップな世界観を探る。

2018年夏、SONICMANIAにて日本を沸かせたことも記憶に新しいイギリスの気鋭レーベル< ブレインフィーダー(BRAINFEEDER)>。主宰するフライングロータス(FLYING LOTUS)やサンダーキャット(THUNDERCAT)など、才能溢れるアーティストが所属するこのスターレーベルから、ひとりのアーティストがデビュー。超絶ドラムスキル、DIYスタイルの音楽・映像制作、そしてシュールなダンスを得意とするひょろりと長身な彼の名は、ルイス・コール(LOUIS COLE)。2018年8月にアルバム『タイム(Time)』をリリースし、年末にはソロ公演のため来日したが、チケットは即ソールドアウトになったことからも、その注目度の高さが窺える。飄々とミステリアスなたたずまいの彼に、インタビューを敢行した。

──お父さんがジャズミュージシャンとのことで、音楽が身近な環境で育ったのではと思いますが、音楽に魅了された瞬間や曲は?

「17歳の頃くらいに、トニー・ウィリアムスの『エマージェンシー』というアルバムを聴いたこと。このアルバムは僕にとっては欠かせない存在で、自分でもこんなふうに演奏してみたい、と強く思ったんだ。それまでにも曲を作ったりドラムを叩いたりはしていたけれど、どのくらい本気で音楽をやっていきたいか、ということはあまり考えていなかったから」

──少し前には、参加しているノウワー(KNOWER)としても来日していましたね。ノウワーでの相方、ジュヌヴィエーヴ(・アルターディ)もあなたのソロに参加していますが、それぞれはどんなプロジェクトですか?

「大きな違いは、うーん、なんだろう(笑)。まずノウワーには強いパーソナリティを持ったジュヌヴィエーヴがいて、サウンドがエレクトロニックでキラキラしているところはあると思う。僕についてはどちらも自分だからあまり意識したことはないけど、ソロのほうがダークなのかも?」

──LA育ちで、今でも活動拠点ですが、そこには何か理由が?

「どうだろう。でも、親しい友人や才能あるミュージシャンたちが近くにたくさんいるから、LAを離れる理由のほうがないかもしれない」

──ソロとしては久々のアルバムリリースとなる最新作『タイム』のタイミングで加入したブレインフィーダーは日本でも人気レーベルです。参加してみて、何か変化はありましたか?

「それが、全くないんだ!彼らは僕の音楽に興味を持ってくれて、クリエイティビティを信じてくれている。やりたいようにやらせてくれるのがハッピーだね」

──お互いのアルバムに参加し合っている、レーベルメイトのサンダーキャット(ステファン・ブルーナー)とはどんな関係ですか?

「そうだなあ、彼はいつもヘンな写真ばかり送ってくるね。唐突に動物の写真とか、知り合いの黒歴史とか、ここでは言えないようなものとか。僕も送り返したりするけど、それが彼のコミュニケーション方法なのかも(笑)。それぞれに感性は違うけれど、シェアしている部分があるんだろうね」

──『タイム』はどんなアルバムにしようと思っていましたか?

「特にコンセプトはなく、作りたい曲を作っていっただけなんだけど、ストリングを大々的に使う曲もあれば、スローでダークな曲もある、といったように色々なタイプの曲を入れたいとは思っていたよ。僕の好きなサウンドを詰め込んだ、という感じで」

──いろいろなタイプの曲を意識していたとのこと、アルバムというフォーマットについてはどう思いますか?

「もちろん一曲ずつリリースすることも今なら簡単になっているけれど、アルバムには作者のある時期のフィーリングが切り取られているよね。リスナーとしてもその感覚が好きなんだ」

──ポップなサウンドにつられて口ずさむと実はすごくアイロニカルだったり、歌詞にもダークなユーモアを感じます。歌詞の世界で表現したいことは?

「曲作りでは大体において、まずサウンドが浮かび、そこにリリックをあてはめていくんだ。僕は普段からシリアスな話題にジョークを交えたりもするし、自分らしさが出るように、とは思っているかな」

──持ち前のファルセットヴォーカルに加え、時にビブラートをきかせるなど、ヴォーカルスタイルも広がりを見せていますね。

「僕にとって歌うことは簡単ではないんだけど、たくさん歌ううちに少し声量も出てきたことで、歌い方に選択肢も出てきたのかも。今もハイトーンで静かに歌うことが心地よくはあるけれど、歌もだんだんブラッシュアップしていきたいね」

──Youtubeで発表されている「Bank Account」は、ファンキーなサウンドと、「I’m too scared to check my bank account」というフレーズのコントラストが印象的ですね。この曲もそんなプロセスで生まれたのですか?

「その通り。キーボードの練習から生まれた曲で、当時は本当に歌詞通りの状態だったからね(笑)。そういえばあのビデオを最終的に編集して公開したのは、東京にいた時なんだ」

──映像制作もDIYスタイルなんですね。もう、銀行口座への恐怖心は克服したのでは?いま、怖いものはありますか?

「あのYoutubeがきっかけで僕を知ってくれた人も多いみたいだし、『Bank Account』曲のおかげで恐怖を克服できたとも言えるね(笑)。今も怖いものはたくさんあるけれど、一番はクリエイティビティやインスピレーションを失ってしまうことかな」

──常に創作していたいタイプなんですね。そして今も話しながらスティックでビートを刻んでいますが、スティックはあなたにとってお守りのような存在?

「特に移動中なんかは身体が固まってしまうような感覚があるので動かしたいのと、ドラムはもっともっとうまくなりたいからね。子どもの頃、家族でドライブに行く時にもスティックを持って出たりして、ママに『こんな時にまで!』なんて言われたりしたよ」

──ドラムやキーボードの他、さまざまな楽器を演奏されていますが、今後、挑戦してみたい楽器はありますか?

「まず、ギターはもっとうまくなりたいかな。今まで使ったことのない楽器でいうと…、トロンボーンみたいな管楽器をクレイジーに演奏してみたいね」

──「F it Up」や「Thinking」のMVでは、一軒家にビッグバンドがすし詰めになって演奏しているのが圧巻です。各楽器のアレンジはあなたが担当しているのですか?

「そうだね、全部自分でやっているよ。あのビデオのアイデアとしては、とにかく僕はスタジオで録音するのがしっくりこなくて、リビングやキッチンを使うほうが楽しいし、正しいと感じるんだ」

──これら2曲のMVも観ていて面白かったですし、「When You’re Ugly」でも破壊シーンを物陰から女の子が覗いている演出がシュールでした(笑)。

「あれは編集していた時に後から気付いて驚いたんだ。あんなところから見られていたなんて!あ、壊したポストは撮影のために自分で用意したものだよ(笑)」

──そうじゃないと(笑)。自身でビジュアルディレクションされることも多いと思いますが、映像ではどんなものが好きですか?

「1980年代のSF映画『トロン』やスタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』にはインスパイアされたね。いろいろな映像を面白く編集しているnoisepuppetというYoutubeチャンネルも好きだよ」

──金のハーレムパンツ、筋肉プリントのシャツ、マクドナルドの制服など衣裳にもこだわっていますね。今日のレモン柄のパンツも目を引きますが、どんなところで探してくるのでしょうか?

「eBay!クレイジーなものがたくさんあるんだよ。特にビデオを作ってる時には、おかしなものを見るとつい買ってしまって(笑)。このレモンパンツもeBayでセレクトしたんだよ」

ルイス・コール『タイム』情報こちら

ルイス・コールが選ぶお気に入りミュージック

Tony Williams『Emergency』

「自分の音楽を次のレベルに到達させたい、もっと演奏がうまくなりたい、と思わせてくれたアルバム。ローファイでダークで、怖いとさえ思えるようなサウンドながら、燃えるようなエネルギーにあふれている」

Boards Of Canada『Old Tunes vol.2』

「楽器の音一つ一つがすごく美しくて、楽器が奏でる音には深みを持たせられることを教えてくれた作品。コードやメロディだけでなく、楽器の音自体が曲をより良いものにできる、ということを」

James Brown『Love Power Peace.(Live)』

「ジェームズ・ブラウンのライヴ盤なんだけど、僕が今まで聴いた中で最もグルーヴ感のあるアルバム」

Photos:Wataru Fukaya Interview&Text:Minami Mihama Edit:Masumi Sasaki

Profile

Louis Cole (ルイス・コール) LAを拠点に活動するシンガーソングライター、プロデューサー、ドラマー/マルチ・プレイヤー。楽器演奏や作曲・アレンジの多くを鍵盤/管楽器奏者の父から学び、南カリフォルニア大学でジャズを学ぶ。ドラマーとして、ブラッド・メルドー (Brad Mehldau) やラリー・ゴールディングス ( Larry Goldings ) 、故 Austin Peralta (オースティン・ペラルタ) らとセッションを重ねる凄腕。ジェネヴィーヴ・アルターディ(Genevieve Artadi)とのエレクトロ・ポップ・ユニット「ノウワー(KNOWER)」としても活動する中、ソロでは、サンダーキャット(Thundercat ) の大ヒット作品『Drunk』にも楽曲提供。2018年アルバム『TIME』( Brainfeeder )をリリースし、12月来日公演を果たす。

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