「Bella Freud」ニットに込めたメッセージと意外な裏話
シグネチャーでもあるキャッチーなロゴニットが人気の英国生まれのブランド「ベラ フロイド(Bella Freud)」。海外ではケイト・モスやアレクサ・チャンといったスタイルアイコンも愛用していることでも有名だ。精神分析医フロイトを曾祖父に、画家ルシアン・フロイドを父に持つ、デザイナー、ベラ・フロイドに、ウィットの効いたコレクションにまつわるエピソード、影響を受けたカルチャー、家族について尋ねた。
イギリス人デザイナー、ベラ・フロイドが来日した。1990年に自身の名前を冠して立ち上げたブランドは、ロゴが目を引くシンプルなニットが代表作。「Ginsberg is GOD」や「Je t’aime Jane」など、どこか文学や音楽との結びつきを連想させる格言めいたロゴの面白さもあいまって、ロングランな支持を獲得。ケイト・モスやアレクサ・チャンといったスタイルアイコンが愛用していることでも有名だ。一方、パーソナルな側面に目を向ければ、精神分析医のフロイトを曾祖父に持ち、父は画家のルシアン・フロイドというバックグラウンドにも惹かれる人物。そんなベラ・フロイドのクリエイティビティと人柄にアプローチする。
バイカーガールに焦点を当てた新シーズン
──2019春夏シーズンはどんなイメージでコレクションを展開しましたか?
「コレクションのベースになっているのは、そうね、70年代のバイカーガールといったところかしら? そもそもの出発点は、セネガルのマーケットを訪れた際に見つけた一着のバイカースーツ。本当に偶然出会ったものなのだけれど、フロントがジップアップスタイルのデザインになっていて、セクシーに着こなしたらきっと素敵だと直感的に思ったのよ。それ自体はハードな印象の服だというのに。そんな出来事から、今回のコレクションは生まれたの。そこへ、フランソワーズ・アルディやバイク乗りたちのガールフレンドを撮った写真を見てさらなるインスピレーションが湧いてきたわ。写真に溢れる彼女たちの魅力的な姿に、美しいストーリーを見出したのね」
──おなじみのニットに描かれているロゴも、レトロなデザインですね。
「そう、『24h』や『HOT RACING』などは、古き良き70年代のガソリンスタンドにあったようなロゴをイメージしたわ」
──ブランドの女性像はどんなイメージですか?
「私は、毎シーズンのコレクションに取り掛かるために確固としたテーマを設けるタイプではないわね。もっとぼんやりとしていて普遍的。言うなれば、思い浮かべるイメージの中に、いつも変わることのない2、3の女性像が存在していて、その女性像をさまざまなシーンに当てはめているといった感じ。それでも、変わらずに惹かれるのは、タフネスの中の女性らしさ。バイカーガールをモチーフにした19年春夏は、その要素が特に強調されているわ」
──あなたの原点についてですが、ファッションの世界へと進んだきっかけは?
「子どもの頃からいつも、自分が自分らしくいられる服、違和感のない服を着ているととても守られているという安心感があった。最初はとても感覚的なフィーリングだったけれど、成長するにつれてファッションへの興味は確固たる意志に変わっていった。父が画家だったからアートにまつわる教育も受けたことがあったけれど、いつしか、ファッションの道に進む以外は考えられなくなったの」
アイコニックなニットの誕生エピソード
──ブランドの代表作でもあるロゴニットはどのようにして生まれたのでしょう?
「90年代の終わり頃、とあるレゲエのレコードジャケットに書かれているメッセージに惹かれることがあって、それをニットに取り入れたのがはじまり。Tシャツならメッセージをロゴにしたものがたくさんあるでしょう? そういう感覚だった。もともと私はニットウエアを勉強していたけれど、当時からテーラーリングが好きだったから、テーラードのスーツやジャケットの下にニットを着るというスタイルの提案をしていたのよ。現在のコレクションの内容は、シャツやドレスなども増えているから、テーラーリングの要素はそういったアイテムに注入しているわ」
──とりわけ有名な「Ginsberg is GOD」というロゴについては?
「初期の頃、コレクションの発表のためにショートフィルムを作っていた時期があった。ジョン・マルコビッチと一緒に3作品を撮ったんだけど、その3つめのテーマがビートニクガールを描いた“Hideous Man”というタイトルのもの。そこで、アレン・ギンズバーグをモチーフにしたロゴをデザインをしたのよ。それに、古いTシャツで「CLAPTON is GOD」というロゴがあったのを覚えていて、バンド風に見えるのもいいと思えた。
そうしたら後日、そのニットを見たジェーン・バーキンのエージェントから連絡がきて、『ジェーンがあなたの作ったゲンズブールのニットを見て気に入っている!』と言うの! 実際のロゴはギンズバーグだから、『さて、どうしよう?』となるわよね。そこで、フロントには“Je t’aime Jane”、バックには“Gainsbourg is GOD”のロゴを入れたニットを新たに作ったというわけ。そんな様子を見ていた周りが、『誰でもGODになれるんだね』とか『GOD をひっくり返すとDOGだよね。どっちがどっちなんだ?』なんて話していた。そういうちょっとしたおふざけみたいなところや、ロゴを見る人によって受け取り方や意味合いが違ったりするのも、面白いと思った」
──1970と描かれたニットもありますが、70年代というのは、ブランドにおけるひとつのキーモチーフなのでしょうか?
「“1970”のロゴニットのアイデアが生まれたのはだいぶ前。デビューコレクションを作っている時だった。ふと目にしたカタログの隅に『1970/71』と書かれているのを見つけて、拡大してコピーを取っておいたの。心に残っていて、グラフィックに取り入れたのよ。白いラインを引いてね。なぜかわからないけど、この拡大コピーに心を惹かれたのを覚えているわ。70年代はとても鮮烈なイメージやフィーリングを持っている時代。パンクの時代であり、戦争もあって、……多くの印象深い出来事が起こった。実際に、多くの人々が70年代と聞いたなら、すぐに確固たるイメージを思い浮かべることができるでしょう? たとえその時代を目の当たりにしていなくても。不思議なのよね、当時はまだ子供だった私でさえ、1970と聞けばよく知っているような気持ちになるもの(笑)。ファッションにおいても、70年代というトレンドは繰り返しやってくるわよね。今は90sのスタイルが注目を集めているけれど、その中には90年代当時のトレンドだった70sの要素が含まれていたりもするから面白いと思う」
──先ほどフランソワーズ・アルディの名前が出てきましたが、フレンチ・ウーマンに惹かれるところがあるのでしょうか?
「フランスの女性には、特別な自信や高貴さ、エレガンスがあると感じるわ。昔のフランス映画に登場するカトリーヌ・ドヌーヴなどが象徴的だけど、今の女性たちにも同じような雰囲気が見て取れると思う。私自身の育った環境がとても規律のあるものだったから、それと矛盾するような彼女たちの無頓着さに引き付けられるところがあったと思う」
スタイルを裏打ちするポリシーや哲学
──高名な精神分析医や画家のファミリーを持っていることに、どんな影響を受けてきましたか?
「正直なところ影響を受けたという実感はないの。父のルシアンとは、長い間離れて暮らしていたこともあって。ただ、成長して父をよく知るようになってからは学ぶところがあったと思う。例えば私には、クリエイションを形にすることは時に難しく、だからこそ自分を律して、投げ出さずに取り組み続けることが大事だという信念があるのだけれど、これは作品にひたむきに取り組む父の姿を見て感じたことよ」
──クリエイティブなインスピレーションはどこから?
「そうね、ギリシャ神話や音楽、ユースカルチャー……。あとはすべての詩人たちをリスペクトしているわ。アートや音楽や言葉は、時に人々の意志や主張、人間としての在り方を代弁するもの。私は、そうやって生まれるムーブメントにとても惹かれるし、突き動かされる。そして自分も、ファッションを通してそういった表現をしていきたいと強く感じるわ。素晴らしいアイデアがどんなふうに世界を変えるのかということには、いつも興味があるし、とてもワクワクする」
──これからの時代におけるブランドの在り方について、どう考えていますか?
「発信する手段などについては、常に吟味している。ファンの方々に今の時代らしい形式で世界観を体感してほしいという思いがあるので。でもその一方で、ブランドそのものがもっている魅力に目を向けることが、今、改めて大事だと感じているのも事実。時代のスピードが加速して、いろいろなことが瞬間的になっている今、人々は本質的なものの価値に目を向け始めていると思う。だから、ベラ・フロイドというブランドの変わることのないアイデンティティをこれからも大事にしていきたいわ」
Bella Freud
ステディ スタディ
TEL/03-5469-7110
URL/www.bellafreud.com
Portraits:Shoichi Kajino Interview&Text:Chiharu Masukawa Edit:Masumi