プラスサイズモデルという偏見に物申す!
ナオミ・シマダの美の価値観
太陽のようなハッピーでポジティブなオーラを放つ女性、ナオミ・シマダ。モデルであり、アクティビスト(活動家)として活躍しながら、弱った者にみなぎる自信を与えてくれる。笑顔の美しい彼女が、母国・日本へ届けたい「美」に対する考え方、その新しい価値観を語ってくれた。(「ヌメロ・トウキョウ」2018年11月号掲載)
やっと変わってきた、美への定義
秋めいた快晴が心地よいロンドンで、ビタミンカラーの鮮やかな装いに身を包むナオミが、言葉を慎重に選びながら話し出した。モデルやアクティビスト(活動家)として大きな影響力を持つ彼女が考える、いまだ痩せていることが美しいとされる日本の慣例、そして欧米から伝わった「プラスサイズ」というジャンルへの偏見について。 「まず、私はプラスサイズモデルではないわ。日本では違うかもしれないけど、ロンドンで私は平均サイズだし、ここ3年間はプラスサイズモデルとして撮影をしていない。そもそもプラスサイズという言葉自体、あまり使われなくなっているのが現状。こういった会話は、日本ではとても遅れていると思うの。ただ今年、日本へ帰った際、渋谷で渡辺直美さんの広告ヴィジュアルを見て、市場が求めている要素が変わってきていると初めて感じた。私のキャリア史上初めて下着ブランドから声がかかったのも驚いたわ。私が日本でモデルを始めた当初、周りは外国人モデルばかりで、その後ハーフモデルが主流に。それから長い間なにも変化を感じられなかったけど、今回日本で新しい動きを感じ取ったわ。それはもしかしたら、誰もがインターネットを駆使する時代になって、世界各国で情報共有できるようになったからかもしれない。私はプラスサイズの服には興味ないけど、渡辺直美さんの「PUNYUS」はすごいと思う。デザインもとても素敵だし、何よりあのブランドはプラスサイズではなくて、ただサイズが普通のブランドよりも多めにあるというだけ。少しずつ彼女が日本の古風な価値観を変えてきている気がする。直美さんはお笑い芸人だけどモデルもして、クールな活動をたくさんしている。体が大きい人の共通した悩みは、時に自分の体型を笑いに変えないといけないことだけど、直美さんはその域を超えてファッションアイコンとなり、日本を改革しているから本当に素晴らしいと思う」
──日本にルーツをお持ちですが、日本に住んだ経験はありますか?
「六本木の日赤病院で生まれたわ。11歳で引っ越したけど、私は生粋の東京ガールよ。よく『ナオミは何人?』 って聞かれるけど、私は日本人って答えるわ。自分はとても日本人的だと思っている。日本の方たちから受け入れられないかもしれないけど、そんなの気にしない。私は日本人よ」
──モデル、アクティビストなどナオミさんにはたくさんの肩書きがありますね。いま携わっているプロジェクトを教えてください。
「モデル、ライター、そして最近は映像制作活動をしているの。人は私の事をアクティビストと呼ぶわ。実は一度もそういった肩書を名乗ったことはないんだけど、私が自分なりの意見をしっかりと持っているのは事実。そしてそれが人生における大事な選択をするときに役立っているし、何より自分を突き動かしているわ。これからも私の信条を伝えて奮闘し続けたい。自分をアクティビストと呼ぶのは恐れ多いけど、私が世の中で何かを少しでも変えていると感じてくれる人がいるのはとても光栄よ。今後はより大きなスケールでたくさんの人を励ましたい。困った人に手を差し伸べるのは、誰にとってもゴールであるべきだから。
最近、編集者の友人と共同で、インターネット社会に関しての本を書き始めたの。ネットについては賛否両論あって、多くの情報を得ることができる素晴らしいメリットがある反面、人を苦しめる要素もある。ネット上で自分に合ったコミュニティに出会い、刺激をもらう機会も多いけど、同時に情緒不安定になったり、鬱病を発症してしまう人も増えている。ネット上だと人は偽りのイメージを纏い、自分をがんじがらめにする癖があるから。私の本ではインターネットが誕生してから変化した人とのコミュニケーション、愛や、友情、仕事や死、メンタルヘルス、そしてセックスについて語るつもり。将来誰かが私の本を読んだ時に、当時の私たちが何を感じていたか理解できるように、より人間味をこめて表現したい。きっと世界中の人が共感できる本になると思う。特に電車や食事中など四六時中携帯を見ている日本人にはね!」
日々時間をみつけては、さまざまなダンスレッスンに通っているという。自分らしい体型作りのために、音楽を聴きながら踊ることで、心も体もヘルシーをキープ。
夢は、ありのままの自分をいたわるワークショップの企画
──過去には、体型に悩み、様々なダイエットをした経験も?
「体が成長し始めた10代後半から20代にかけて、それまでの体形を維持するためにありとあらゆることをしたわ。すでにモデル業で生計を立てていたから必死だった。でも結局なにも効果がなかったし、逆にダイエットのせいでひどいストレスを抱え込んでしまったの。日本でもこれは大きな問題よね。私も実際に経験しているからこそ、いつか女性向けのワークショップを開きたいの。日本ではお手本を見せない限り受け入れられないし、誰も後に続かない。だから私は『あなたの体型で十分だし、それでいいんだよ』と身をもって伝えたい。
世界の中でも、特に日本は太ることに罪悪感を感じさせる場所だと思う。例え、輝かしい高学歴で、世界を救うような功績を持った女性でも、体重が増えればまず『太ったね』と言われてしまう。年齢に関してもそう。日本は時に理不尽で偏見だらけだわ。あとリアルな会話をしていないのも問題よ。『元気?』と声をかければ、必ず本音を隠して『元気です』と答えてしまう。誰一人として『実は今とても落ち込んでいるの』なんて打ち明けてくれないわ。だから天気や体重の話、誰が結婚したか…みたいな陳腐な噂話といった話題に絞られてしまう。
私は日本と欧米の独特の文化や価値観などどちらも理解できるから、今後、日本人が抱えがちなコンプレックスに焦点を当てたドキュメンタリーも制作したいと考えている。世界で起こりつつある社会問題が既に日本で露わになっているともいえるけど、少子化問題やセックスレス、そして恋愛さえ面倒くさい人が増えているなんて異常でしょう? 先進国の中でも特に日本は子育てに不向きで、いまだに男尊女卑のせいで仕事を取るか、子どもを取るか選択しないといけないなんて有り得ない。
私は日本で『まだモデルをやってるの?』と問われることがある。12歳からこの仕事で自立して世界中を飛び回っているのに、太ったから、まだ結婚していないから私は価値がない女性と見なされる。これまで積み上げてきた実績に目を向けず、固定概念で人を判断する悪い癖を持った人にはすごく落胆するわ。でも私はもう何を言われても傷付かないから、日本で体型や恋愛、そしてセックスについて語れるワークショップや番組を作りたいの。だって日本人はこういった問題にやっと耳を向ける準備ができてきているのだから」
モデルという仕事がら世界各国を飛び回ることも多いが、ドイツやトルコ、イタリアなどヨーロッパ各所を巡り、リフレッシュしている様子がインスタグラムからもうかがえる。
人に優しくなれるのは、痛みや苦しみの味を知っているから
──ナオミさんのポジティブなオーラは、どこから生まれるのですか?
「私の人生の中で、これまでたくさん過酷なことが起きたからよ。でも喜びは痛みを経験しないとわからないもの。苦しいときがあるからこそ幸せを感謝できる。私は生きていることが大好きよ。音楽を聴くことや食べること、人との出会いや会話もね。大変なことが山ほどあったからこそ全てに感謝できるの。それが人生の浮き沈みだし、私は常にリアルでありたい。毎日をベストに生きていたいと心がけているの」
──つらかった経験を公にシェアすることは、時に苦しくないですか?
「そうね。でも私はとてもオープンだし、これから本を書くから素直でなくてはいけないわ。私はこれまで自然と自分の人生や意見を赤裸々に全て公開してきた。でもそのおかげで良いことばかり起きたわ。今以上に体が大きかった頃も、私は世間の目を気にせず自分がしたいスタイルを貫いたの。なぜなら『太っていたら可愛い格好ができない』『スタイリッシュでありたいのであれば、細くないといけない』という概念に嫌気が差したから。積極的な抵抗というか、行動で示すことで『私はあなたよりもお洒落よ』と言いたかった。最初はそういった不満を訴えるためのものだったけど、徐々にいろんな人が私を注目してくれた。だからこそ今があるわ。特にインスタグラムは、自分の個性を思い切り出せるツールだと思ってる」
──以前はスーパーモデルのような超人的な美しさが流行っていましたが、最近では一般の方を起用するなど、美しさ以上に強い個性やアイデンティティが求められている気がするのですが…。
「私もそう思うわ。世界中で実際に存在する面白い人材が浮き彫りになってきたし、それは素晴らしいことよ。でもこの多様性が商用化されないといいけど。こういった動きが勢力を強めて、多方面に広がってほし い。例えば日本だったら女性フォトグラファーが男性に比べたらまだまだ少ないから、そこをサポートするなど、うわべだけでなく多種多様な要素を浸透させるべく、みんなが一丸となって働きかける必要があるわ」
──自分自身を満たすために心がけるべきことはなんだと思いますか?
「自分が喜ぶことを見つけて、それを毎日与えてあげること。お金はいつかなくなってしまうけど、好きなことは自分に残るから」
──今後の目標を教えてください。
「本を仕上げて、世界を旅して、もっと日本で時間を過ごしたい。でも人生は変わっていくものだから、ゴールを絞るのはよくないとも思う。逆にプレッシャーになるでしょ? 私はいつかどこかに素敵な家を買って、 子どもを持ちたい。あと料理をもっと上手になりたい。特に和食!」
Photos:Piczo Hair:Tommy Stayton Makeup:Yae Pascoe Interview&Text: Kyoko Yano Edit:Yukino Takakura