服づくりの概念を崩す注目デザイナー「Doublet」井野将之
斬新なアプローチでファッション界を揺るがす、新世代のデザイナーたち。「LVMHプライズ」で日本人初のグランプリを獲得し、今最も注目を集めるブランド「Doublet(ダブレット)」デザイナー、井野将之が貫く服作りの姿勢とは?(「ヌメロ・トウキョウ」2018年10月号掲載)
「グランプリを獲れるとは想像していませんでしたが、僕たちとは全く違うラグジュアリーの世界との隙間に入り込めたのかな、とは思っています。時代が自分たちの方向に興味を出し始めていることもあり、うまく歯車が噛み合ったのではないでしょうか。ただ、“LVMHプライズを獲ったブランド”としてまず認知する人が圧倒的に増えるのは少し怖い。彼らは、すぐ興味をなくしてしまいそうな気がするんです。一発屋芸人みたいになることだけは危険だ、と思っています(笑)」
見たことありそうでないユーモア溢れる服
井野が言う「自分たちの方向」とは、時に「ストリート系」と称されることがある。しかし、それは断固否定する。
「カテゴライズされたくないんです。“○○系”から抜けたくなる。だから皆がやっていないことに挑戦するようにしています」
LVMHプライズで発表された最新コレクションには水で戻す固形状のTシャツやシャツがカップ麺風の容器に入っていたり、ハンガーの形になっている。確かにこれまで誰も考えついていないようなアイデアだ。
「“見たことありそうでないもの”ということを心がけています。誰も知らないものを作っても、それはSFで、感動が少ないと思います。皆が知っている話の中でちょっとだけずれたことをやると言葉で説明しなくても世界中の人に伝わる。それに、着るためには水に浸さなければならない、という面倒くさいプロセスが一つ入ることが、ワンクリックで簡単に服が買えてしまう便利な時代だからこそ面白がってもらえるのでは、と思ったんです」
そして、必ずと言っていいほど、思わず笑ってしまうような要素があるのもダブレットの特徴の一つだ。
「ブランドを続けていくうちに、笑ってくれるかなと想像しながら僕が楽しく作ったものはお客さんに自信を持って伝えられるということがわかりました。それに、世界にすさまじい数のブランドがある中で、ユーモアが自分のオリジナリティになるのではと思ったんです。僕にはそれしかできないし、じゃあ、そこを思いっきり頑張っちゃおうと」
人との関係性を大切にした噓のない物づくり
世界中からオファーが殺到するようになったが、取材はこれまでやり取りのある媒体を優先的に対応し、取引先も急激に広げることはしなかった。長年付き合いのある相手との関係を大事にするその姿勢は、これからも日本を拠点にしていこうと決めていることにもつながる。
「日本には良い関係性を築けているたくさんの方がいます。自分一人では服ひとつ作れません。工場の人たちと試行錯誤しながら作り上げていくのは楽しいし、パタンナー、グラフィックデザイナー、PRなどに本当に助けられています。それに、日本で育った自分が慣れ親しんでいることや実体験をデザインに生かしたいんです。そうじゃないと無理してしまって噓っぽい服になってしまう」
ローカルな感性でものづくりをしながらも、グローバルに活躍の場を広げるダブレット。クリエイターは自らの世界に陶酔しがちなものだが、井野は常に相手のことを考えている。だからお返しに助けてあげたいと、たくさんの人が支えてくれるし、誰にでも楽しんでもらいたい、というサービス精神溢れるものづくりに世界中に支持者が増え続けているのだろう。これからも、きっとダブレットの周りには常にたくさんの人だかりができるに違いない。
Interview&Text:Itoi Kuriyama Edit:Yukino Takakura