佐藤健×高橋一生 対談「お金と幸せの価値観」
川村元気の同名小説を『るろうに剣心』シリーズの大友啓史監督が映画化した『億男』が10月19日公開。失踪した兄の借金を肩代わりした一男と、起業して億万長者となり、一男が宝くじで手に入れた3億円を持って失踪した九十九(つくも)。大学時代の親友同士を演じた佐藤健と高橋一生が、普段はあまり話すことのないお金に対する価値観を語る。「ヌメロ・トウキョウ」2018年11月号掲載のインタビューの拡大版でお届け。
役として自然とそこにいてくれる力強さ
──初共演のお二人。共演前と共演後の印象を聞かせてください。
佐藤「“ザ・役者”みたいな。芝居で食ってます!という方なのかなと」
高橋「あはは! なにそれ(笑)」
佐藤「手に職がある印象ですね」
高橋「健くんは、もうずっと見ている人というか、非常に華がある方だと思っていて。実際お会いしてみると、一人で真摯にお芝居に向き合われていて、とても素敵な方だと思いました」
佐藤「原作を読んでいて、まず九十九のキャラクターを一生さんがどう表現するんだろう?と想像がつかなかったんです。もし自分がやれと言われたら、お手上げ状態になるだろうなというくらいの難しい役だったし、一生さんは、九十九よりもシュッとされているイメージがあったので。でも実際、初めて共演させてもらって、目の前でお芝居をしたときから、もう九十九だったんですよ。すとんと落ちたというか。小説のイメージ通りだし、ナチュラルにこういう人いそう……と思った。初日からすごく衝撃を受けましたね」
高橋「僕も同じような感覚なんですけれど、健くんの今までの感じとはまた違う、一男くんとしてそこにちゃんといてくれるという心強さがありました。九十九って、一男くんのことが本当に大好きで。その本当に好きに値する一男くん像を健くんが作ってくださっていて、一男くんが健くんで本当によかったと思いました」
お金の使い方には人が表れる
──二人のお金に対する価値観をお伺いできますか?
佐藤「僕はあまり物欲がないほうなので、何か欲しいって思うことが珍しいんです。だから、もし欲しいって思ったら手に入れます。それが仮に高いものだとしても、それぐらいのスタンスでお金を使おうと思っています。今は無理でも、頑張っていつか手に入れようという」
高橋「僕は、欲しいと思うものが年々なくなっていくのを感じているので、反対に要らないものをガンガン買うようにしています(笑)」
佐藤「税金対策? 」
高橋「いやいや(笑)。例えば空間を埋めたいから家具を買うのか、家具が欲しいから空間が欲しいのか。『どっちが先の目的だったっけ?』というときに、空間を埋めたいというだけの無駄なほうを選んだりする。テイストと違うものも買ってみて、『失敗した!』って思いたいんです(笑)。そうすると自分に合う合わないが身に染みてわかるから」
佐藤「僕は欲しいと思えるものに出合ったら、買うという感じですね。そもそも欲しいものがないのに買い物にはまず行かないので」
高橋「やっぱり出合いだと思います、そういうものも。その時の気分にもよりますし。僕は『窓理論』と呼んでいるんですが、風って部屋の一つの窓を開けていても、反対側の窓が開いていないと抜けていかず空気が淀んでしまう。お金に関しても、どれだけ入ってきても出ていくものだと思っておかないと固執が始まってしまうので、窓を開けっ放しにするようにしています(笑)」
佐藤「とらわれたくはないですよね」
高橋「そう。お金は自分が所有しているものであると同時に、共有するもののような気もするから。」
──周りの人と具体的なお金の話をしたりしますか?
高橋「話をしなくても、たぶん透けて見えてくる気がします。友人であろうと知らない人であろうと、身なりや交わす会話などから」
佐藤「僕もするとしたら『どこまで払うか』みたいな話ですね。例えば金銭感覚が違う人たちとご飯に行くときに『どういう店選ぶ?』とか『払う? 割り勘する?』とか。そういう相談をすることはあります」
──お金を渡すということは上下関係を生むことになるとも思うんですけど、男性が女性にご馳走することはどう考えています?
佐藤「男性同士だったら確かに上下関係、優劣みたいなのはあるかもしれないけど、男女間でそれはない気がしません? 奢ったとしても自分が優位に立ったとは思わないし」
高橋「僕はお互いが自分の居心地のいいようにしたらいいと思います。あまり払う、払わないのやり取りを繰り返すのは見苦しい感じがして」
佐藤「そうですね。でも僕、女性が『いや、出します』がトゥーマッチなのはちょっと残念と思うかも」
高橋「そうそう。なんか面倒くさいってなってしまう」
佐藤「『ありがとう。他のことで返すね』みたいに返してくれるのが、一番いい女という気がします」
──奢られるのが当たりと思っている女性にも肯定的?
佐藤「それは……」
高橋「なんとも言えないです」
佐藤「一応……、財布を出そうとするそぶりはやっておいてもよいかと」
高橋「それこそお芝居だ(笑) 」
佐藤「『私出すよ』『いや、大丈夫だよ』って言ってから、1、2回は『いや、いいよ』があってもいいけど、3回以上は多い」
高橋「わかる。基本的に、あるほうが自主的に出せばいいと思います」
佐藤「素敵にいたいですよね。出さない側にいても出す側にいても」
──結婚したら、家計は別々にする派ですか?
高橋「それは、なってみないとわからないです」
佐藤「僕もわからないけど、子どもの頃から、旦那さんが奥さんからお小遣いをもらってるみたいな話を聞くたびに『あなたが稼いでるんじゃないの?』って思ってた。そこにすごく違和感を感じていましたね」
高橋「僕もお小遣いシステムには違和感を感じます」
佐藤「多分、財布のひもは全部開きっぱなしで、お互いに好きにやっていいよというのがいいのかな」
高橋「僕もそれがベストだと思う。どのぐらいお金を使ってしまったかというのがわかりますから。やっぱり、クリアにしておくほうがいいと思います」
佐藤「そう。それで、とんでもない使い方をするような人だと、嫌だよねっていう話だと思う」
ブレない自分でい続けるということ
──お二人が精神的に豊かでいるためにしていることは?
佐藤「服を着た時にバシッと決まった瞬間とか、その時食べたいものがバシッと食べられたタイミングだとか、そういう時は満たされるというか、豊かになりますし、俳優という仕事も基本的には豊かさを常に感じながらやっています」
高橋「仕事をしていることが精神的な豊かさにつながっています。ふと間違えかけてしまうのが、他者に本質的な自分の価値を委ねることだと思っていて、偏りすぎるとパッと離された時に訳がわからなくなってしまう。お芝居が楽しいという純粋な部分にもちゃんとフォーカスを当てて自家発電できる感覚も持っていないと。自分と他者の間で常にヤジロベエみたいに揺れていることは変わらないけれど、バランスを取ろうとはしています」
佐藤「全体的に共感します」
──では仕事とプライベートでオンオフみたいな感覚はあまりないんでしょうか?
佐藤「オンオフよく聞かれるんですけど、してる実感がないですね」
高橋「そう、ないんです」
佐藤「まあ知らない間にオンオフされているのかは知らないですけど、意識的にそういう感覚は本当なくて、いつも一緒というか……」
高橋「芝居をする時は、解き放たれています(笑)。解放しないと芝居じゃないですから。そうでないと、仕事をしているとすごいストレスが溜まるみたいになってしまいますし。ただ、普段から解放しているという意識はないとは思います。健くんがオンオフないって言うのはすごくわかる」
佐藤「けっこう聞かれると戸惑う。多分……、もう逆を言うと、常にオンなんだと思います」
高橋「ははははは(笑)」
佐藤「“人生=役者”みたいなスタイルなんだと思う。だからストレスもないし、別にプラベートでも普通に自然と芝居のことを考えるし」
──他者の目が常にあるお仕事をされていて、窮屈に感じることは?
高橋「ありません。好きでやっていることですから。自分の置かれている状況によっても変わると思いますが、それも想定内というか。ある意味、達観していないとできないお仕事ではあると思います。例えば、お金のことは生々しいから話すのは嫌だ、恥ずかしいと思っても、そういうお仕事だから話さなきゃいけない(笑)。そういう瞬間もあるから、それに慣れてしまっているというか……」
佐藤「うん、シンプルに慣れた」
高橋(笑)
佐藤「もちろん窮屈に思う瞬間はあるけど、別に慣れますね」
高橋「それはそれという感じ。だから、二人とも休むということに対する感覚もあまりない。やっぱりお芝居のことを考えちゃいますよね、という話はさっきもしていました」
お金で人は変わってしまうのか問題
──消費することに気持ちよさはあんまり感じないんですね。
佐藤「怖いこと言いますね。そんな、そんなところで気持ちよさを感じる……人間っているんですか?」
高橋「あははは(笑)。それはちょっとおっかない」
佐藤「『気をつけろ』と言いたい」
高橋「もし、そういう考えがあったとしても、通過儀礼であってほいです。結論であってほしくない」
佐藤「どっちかって言うと僕は、お金をガーッて使ったとしたら、ちょっと怖くなるかな。『気持ちいい!』とかじゃないですね」
高橋「怖いです」
佐藤「『大丈夫かな?』みたいな」
高橋「物理的に考えます。『要る?』『要らない?』というようなことは悩むというか」
佐藤「そうそう」
──お金で人は変わると思う?
佐藤「いや、人が変わること絶対あると思いますけど、まあ自分は大丈夫だろうとも正直思っています。今のところは。今、仮に大金が手に入ったとしても大丈夫だと思ってる。ただ、仮に僕が一億円の借金を抱えるという環境に落ち入った時に大金が手に入ったら、どうなるか分かんないですね。環境次第だと思います」
高橋「極端な状況だったら変わるかもしれないけれど、変わらない気がする。多分、僕は小学生くらいから変わっていないと思います。小学校の頃から付き合っている友人たちがいるということは、考え方が変わっていないって証拠(笑)。人の性格は、何か加味されたり、ちょっとだけ引かれたりすることはあるけれど、根本的なところは変わらないように感じます」
佐藤「全面的に共感します(笑)。僕は、中学ぐらいからかな、とは思うけど、変わらないのは。小学校は記憶がない。今会っても、『変わんないね』って言われるし」
──九十九と一男も会っていなくても変わらない友人同士でい続けていますよね。
高橋「僕にも、15年ぐらい連絡を取ってないけれど、親友だと思っている人はいるし、いっぱい遊んで楽しむ友達と、何か困った時に本当に一言欲しいと思う友達は質が違う気がするんです。この映画って、時間に連続性がない。もちろん人物造形は繋がっていて、時代の流れも感じるんだけれど、彼らはいつでも現代から学生時代に旅をしたモロッコに永遠にアクセスできる。不思議な非連続性が、この映画のすごいところだと僕は思っています」
──最後に、映画を通じて、学んだお金にまつわる教訓は?
佐藤「これまでは『3億円が手に入ったら何に使いますか?』って質問に、はっきりとした答えが出せないでいたんです。でも、この映画の中で一つの正解を提示できたかなと。それが見つかった時に、映画としてちゃんとゴールテープが切れるなと思えましたね」
高橋「僕は『使う人が重くも軽くもする』という台詞に集約されているんじゃないかと思いました。お金を使ってみると、その重さは端から見ているだけでもわかりますし、何か大きな買い物をした時に、額面じゃなく『あ、重かった、今の』と実感できるというか。ある意味それが、一つの答えなんじゃないかと思います。映画に登場する人々の生き方はある意味すべて正解で、どこをピックアップするかを、見てくださる人たちが感じられる部分があると思うんです。どれが悪いという描き方もしてないし、ただお金によって変わってしまった人たちと、変わってなかったかもしれない人たちがいる。そういうふうに見えたらいいんじゃないかと思っていて。僕はそこを学んだ気がします」
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Photos:Shingo Wakagi Styling:Atsushi Hashimoto(Takeru),Shogo Hesaka(Issey) Hair&Makeup:MIZUHO(Takeru),Mai Tanaka(Issey) Inteview&Text:Tomoko Ogawa Edit:Masumi Sasaki