筒井ともみ × 壇蜜 対談
映画『食べる女』とタフな女たち
脚本家で作家の筒井ともみと、タレントの壇蜜。映画『食べる女』を通して出会った二人が映画のテーマでもある食べることとセックスについて語り合う。(「ヌメロ・トウキョウ」2018年10月号掲載)
復讐はしない、傷ついた女たちのレボリューション
──映画『食べる女』は女性がおいしそうに食べるシーンが印象的でした。 筒井ともみ(以下筒井)「女優たちが、みんな揃って食いしん坊だったんです。小泉今日子さんは食べることが好きだし、前田敦子さんもそう。鈴木京香さんは料理が好きだし、沢尻エリカさんはお母さまが料理のプロ。本当に偶然だったのだけれど」──壇蜜さんは子どもを持ち、夫と別居中のツヤコを演じています。
壇蜜「台本を読んでツヤコのエピソードは、娘のミドリが主役なんだろうと感じました。小学生のミドリが同級生と一緒に下校する途中、道路のアスファルトに耳をつけて、地面の奥の水の気配を感じるシーンがあるんです。それを母から教わったと彼女は言うんですが、きっと母であるツヤコもお母さんから教わったはずで、そうやって伝えること、母から娘につないでいく世界観を提供できばいいなと思って演じました」
筒井「道路に耳をつけるのは、私が実際によくやっていたことなんです。この星の表層がたとえ都市や砂漠や戦乱の地であっても、地底には同じ地球(テラ)が抱く水の気配がある。その音を聞くことができる子どもたちに、それを忘れてしまった大人たちが教えてもらうんです。小泉今日子さんが演じる敦子(トン子)の家には井戸があります。それは、太古の昔から現在までつながる場所であり、そこには死者も生者も存在する。敦子の家はサンクチュアリなんですね。私はそこに集まった女たちが、寄り添って食べることから始まる『レボリューション』の物語にしたかった。それを女優たちに伝えると、みんなすぐに理解してくれたけれど、男性スタッフには何度説明しても理解を得るのが難しかった。私は男女の区別には興味がないんだけれど、今回だけは違いを感じました」
──女たちの「レボリューション」とはどういうことですか?
筒井「この作品に登場する女たちは『ひとりひとり』。彼女たちは自己の選択を他人に相談したり委ねたりはしないんです。他人の話を聞くことはあっても。だから集まって食べることでつながり、お互いに励まし合う。この世界が今より少しでもタフで優しくなることを願って。そういうレボリューションなんです」
壇蜜「この作品では、女性たちが愛に傷つき、コテンパンにやられてしまった人もいるけれど、誰も相手に復讐しようとは考えずに、自分で立ち上がろうとしますね」
筒井「そうなの。復讐しようという気持ちが一粒もないんです。壇蜜さんからしたら、淡白に見えるかしら」
壇蜜「いいえ、その逆です。今は、ネットでもテレビでも『やった、やられた』」『やり返してスッキリ』という、リベンジありきの物語が多いのですが、ここにはそれがないのがうれしくて。傷ついた女性たちが、相手を貶めて立ち直るのではなく、相手の過ちや傷ついたこと全てを包み込んで立ち直るんだと強く感じたんですよ。やり込め系の物語に疲れた人は欲する世界観だと思いました」
こころとからだのすべてで感じられる細胞を育てる
──本作は「食べること」とともに「セックス」も大きなテーマですね。
筒井「大事なことだから。今でもやはり、性について語ることを避ける傾向がありますよね。とある女子大に、この作品のティザーポスターを貼ってもらおうとお願いしたら『セックスという文字が入ったポスターを張ることはできない』と断られたんです。セックスは恥ずかしいことではないし、フェアに扱われるべきことなのに。壇蜜さんは世間的にはセックスと近い存在と思われていますよね」
壇蜜「世に売り出している方法として、どんな男性にも『俺が誘ってもセックスに持ち込めるだろう』思ってもらうことが仕事ではありますが、それは商品としての自分であって、現実はセックスから遠いんです。取材で『セックスレスの夫婦にアドバイスを』と求められても『お互いに信頼し合って夫婦になっているので、毎日セックスしなくてもいいんじゃないでしょうか』と答えてしまうくらい。セックス観は年齢によって変わっていくものだと思いますが、30代の今は遠いもの。でも、出会いがあった人と与え合うことができる時間があれば、素敵なことだと思います」
筒井「与え合う、対等な関係じゃなければダメよね。『食べること』『セックス』で大事なのは、自分が何を求めているのか把握すること。ジャンクなものでも、素材の丸かじりでもいい。今、何が食べたいか、どんなセックスが好きなのか、それを心と体のすべてで感じることが大切なんじゃないかしら。セックスにおいては、相手を育てることにもつながるし、自分が『どんな世界を望むか』をイメージすることでもあります」
──最近では、かつての援助交際のような「パパ活」も話題ですが。
壇蜜「私は援助交際ブームど真ん中の世代なのですが、いつの時代もありますね。でも、単にお金が欲しいからではない気がするんです。男性に求められることで自分に価値があると気づき、そこにアイデンティティを感じてしまう。作品に登場するあかり(広瀬アリス)のように『私の上で男が喜ぶのがうれしい』というのと同じ感覚です。『君には価値がある』と言ってくれる人に付いていくことは否定も肯定もできないけれど、本当にそれ以外の価値が自分にないのか、考えてみてほしいとは思います」
筒井「寂しさを感じた子が、求められるとうれしくなっちゃうのよね。いつの時代もみんな寂しいから。ただね、妊娠を望まないセックスなら、コンドームは使うべき。病気のこともあるし。どんなに気が強い子もセックスでは『コンドームをつけて』と言えなくなるんです。それで妊娠・出産し、母子家庭になって、貧困に陥ることも少なくない。もう日本は豊かな国ではないから、なおさらです」
壇蜜「ショックなことかもしれないけれど、望まない赤ちゃんを持った人がどうなるのかは、大人が子どもに語り継ぐべきことですね」
筒井「日本の性教育は遅れているからね。だから、自分が何を欲しているのかを自分で感じられる心と体の細胞を育てるためにも、おいしいと思えるものをちゃんと食べたほうがいいんですよ」
壇蜜「食べることはガッツの素です。女には立ち向かわなきゃいけないことが多すぎますから、しっかり食べてガッツをつけることは重要です」
自分でご飯を作り続ける。一年たてば自信につながる
筒井「私は食べること以上に作ることが好きだから、あまり外食をしないんです。お米も玄米で買って精米機で白米や五分づきにして、そこで出た糠(ぬか)で糠漬けを作ります。これも習慣になると、大したことではないんですよ。パートナーも私以上に作るのも食べるのも好きなので、家で作らないのは手打ちそばと鰻くらい。外で食べる楽しみは残しておかないとね」
壇蜜「私も今『外食するものを潰していこう週間』なんですよ。先日は焼き鳥を作りました。一つずつ串に刺してロースターで焼いて。ピザも焼いたんです。結果、フォカッチャみたいになったけど(笑)。私が考える『ていねいな暮らし』とは、コンビニご飯を否定して五穀米を選ぶことではなく、自分に残された課題や明日の自分に対して正直でいること。それを読み違えると苦しくなる気がして。それにしても、五穀米が白米よりも高いのは納得いきません。白米の方がおいしいですよね」
筒井「人生の最期にいただくなら、おいしい米と水がいいと思ってます」
壇蜜「神棚みたいになりますね」
筒井「あら、そうね(笑)」
壇蜜「昔は人が亡くなると、白米を竹筒に入れて故人様の耳元でチャッチャッと振ることもあったそうです。そうすると『米が食べたい!』と生き返った人がいたんだとか」
筒井「お米の力ね。お米は本当においしいもの。私は二十数年間、毎日、その日の献立を紙に手書きして張り出しているんです。夜にお酒を飲みながら1週間分の献立を考えることが最大の趣味なの」
壇蜜「料理を組み立てることは、思考の訓練にもなりますよね」
筒井「残り物が出ないように計算したり。その献立も10年日記につけているんです」
壇蜜「献立でその時に何を考えていたのか思い出せますね。記録と継続は大事ですよね。たった1分、その日のことを振り返る時間を作る。それを積み重ねていくと一年後に自信のある自分に近づける気がします」
筒井「難しいことではなく、バリエーションもたくさん覚える必要はない。セックスもたくさんの人と経験する必要はないのと同じです。しても自由だけど。パスタなら、ペペロンチーノ、カルボナーラ、アラビアータ の3種類が作れたら、あとは自分で応用すればいい。旬の素材を使って、とにかく毎日作ることを毎年繰り返せば、いつの間にか食材と仲良しになれる。それが大事なことなんじゃないかと思います」
『食べる女』
小泉今日子演じる、東京の古い日本家屋の女主人、敦子(トン子)。 雑文筆家兼古書店店主である彼女のおいしい料理に、書籍編集者、料理のできない主婦など、傷ついた女たちが集まって……。2児の母であるパーツモデル役として壇蜜が出演。
監督/生野慈朗
企画・原作/筒井ともみ
出演/小泉今日子、沢尻エリカ、前田敦子、広瀬アリス、山田優、壇蜜、シャーロット・ケイト・フォックス、鈴木京香
URL/www.taberuonna.jp/
全国公開中
Photo: Ayako Masunaga Interview & Text: Miho Matsuda Stylist: Hiroko Okuda(Dan Mitsu) Hair & Makeup: Katsuhiro(Dan Mitsu) Edit: Sayaka Ito