地上の楽園、ホテル イル ペリカーノで過ごす夏
イタリア・トスカーナ州にあるモンテ・アルジェンターリオ半島の海辺に建つホテル イル ペリカーノ。1965年に誕生して以来、クラシカルな魅力を放ちながら、より洗練されたモダンな空間へと進化を続け、訪れたゲストを極上のホテルエクスペリエンスへと誘う。(「ヌメロ・トウキョウ」2019年6月号掲載)
ホテル イル ペリカーノとは
1965年アメリカ人とイギリス人のカップルにより建てられ、会員制クラブとしてヨーロッパに住む米英人の社交の場としての役割を担っていた。その後1979年、常連客で唯一のイタリア人であったロベルト・シオがホテルを継承。現在は彼の愛娘マリー=ルイーズ・シオがCEO兼クリエイティブディレクターとして手腕を振るう。プライベートビーチ、ミシュラン星獲得のレストラン、ハイセンスなアイテムを揃えたブティックなど、彼女のこだわりが細部にまで行き届いたラグジュアリーな空間を堪能できる。
「まるで魔法にかけられたような特別な体験を届けたい」
ファミリービジネスを引き継ぎ、CEO兼クリエイティブディレクターとしてホテル イル ペリカーノの細部に至るまで、独自の美意識を注ぎ込む才女、マリー=ルイーズ・シオ。サマーハウスとして過ごした幼少期を経て、伝統を守りながら革新を進める彼女の手腕に迫る。
──マリー=ルイーズさん一家とこのホテルの出合いは?
「ここは1965年にアメリカ人とイギリス人のカップルによって建てられたの。イタリア人の父はこの湾をクルーズ中に偶然このホテルの存在を知って。でもその頃のイル ペリカーノは、アメリカ人やイギリス人のための会員制サロンのような形で経営されていたため、滞在可能か聞こうと父はホテルを訪ね(ちなみに、ホテルの入り口でチャーリー・チャップリンとすれ違ったんですって!)、オーナーと話すうちに、すっかり打ち解けてゲストに加えてもらったそう。父はとても明るくてチャーミングな性格なの(笑)。ちょうど同じ頃、父はアメリカ出身の母と出会い、ロマンティックで英語が通じるこのホテルをよく利用するようになって。だからここは父と母が愛を育んだ場所でもあるの」
──その後、イル ペリカーノを所有することになったのですね。
「70年代後半にホテルの売却を検討していたオーナーから、父に引き継いでほしいと話が来て。父は彼らが知っている唯一のイタリア人で、この土地のこと、そしてホテルの持つ文化も熟知している。オーナーの手から離れた後も、伝統と文化をきちんと受け継いでほしいと願っていたのよ」
──あなたにとって幼い頃のイル ペリカーノでの思い出とは?
「ここは毎年夏を過ごす場所だったの。美しい海で泳ぎ、心地よい空間で生活する日々は特別だったと今でも感じる。そしてスーパーエレガントでシックな人々との出会いがたくさんあったわ。ここでの日々は、魔法にかかったようだった」
──多くの人がイル ペリカーノに惹かれ続ける理由とは?
「唯一無二の場所だからだと思う。会員制サロンではないけれど、サロンのようなムードがいまだにあるの。それでいて、まるで自宅のように過ごせる安心感もある。何かをひけらかすようなこともなく、誰もが自然体でいられる。訪れた人々の心を癒すことができる場所だからこそ愛されているのだと思うわ」
──現在、CEO兼クリエイティブディレクターとして大切にしていることは?
「私の仕事はホテルのあらゆる要素をキュレートすること。ライブラリーに置いてある本やフィルムのセレクションから、レストランで使うナプキン、ホテルのウェブサイトまですべてのことを。私が選ぶものは私が心から愛するものだけ。愛を持ってキュレートしているからこそ、人々はそれを受け取ってくれる。そして最も大切なのは、シーツやファブリックのクオリティにこだわるだけでなく、イル ペリカリーノが生み出すカルチャーをどう伝えるかということ」
──家業を引き継ぐことを考えていましたか?
「Never(笑)! 私は建築を学んでいたし、建築家としてのキャリアを描いていたから。だからファミリービジネスに携わることは、私にとって最後の選択肢だと思っていたの。けれども人生はわからないものね。ある日、父からホテルを継いでほしいと言われた。そのきっかけは、建築家としてホテルのバスルームのリフォームを手がけたことだった。そこからリビングルームや他の部屋、ホテルのカタログなどのグラフィック、ブティックもと手がけていくうちに、結局ホテルのすべてに関わることになって(笑)」
──建築に興味を持ったきっかけは?
「幼い頃からものを作ることが好きだった。今でも建築を学んでよかったと思っているわ。ホテルビジネスとして、空間デザインを考えるときにも非常に役立っているし、新たに建築家を雇う
必要もないし(笑)」
──ホテルで過ごした日々は、あなたの美意識に影響を与えたと思いますか。
「もちろん。幼少期を過ごした環境は感性に刺激を与えてくれたと思うけれど、豊かな文化を持つイタリアの地に生まれ育ったこと自体、特別なことだと思うわ。イタリア特有の色合い、プロポーション、そういったものが私の美意識を育てたといえるわね」
──ブティックで展開するコレクションにも独自性を感じます。
「もし私がゲストだったら、バカンスで訪れたホテルのブティックでどこにでも売られているお土産を欲しいとは思わない。でも、ほとんどのホテルのショップで売られているのは灰皿やベースボールキャップでしょ(笑)。旅先でも、もっと洗練されたスタイリッシュな服や小物が欲しいと思わない?!そうしてミッソーニやヴィクトリア・ベッカム、A.P.C.などのブランドを買い付けるようになったの。幸いなことに多くのゲストから好評を得ているわ」
──影響を受けているクリエイターやアーティストは?
「伊東豊雄やフランク・ロイド・ライトなど影響を受けた建築家は数え上げればきりがないわ。ほかにもカミンスキーやシンディ・シャーマン、デイヴィッド・ホックニー、デヴィッド・リンチなどの作品からもたくさんのインスピレーションをもらっている」
──ではファッションデザイナーは?
「私はサンローランのビッグファン。もちろん今のサンローランも好きだけれど、ヴィンテージのサンローランはかなりコレクションしているわ。パコ・ラバンヌのジュリアン・ドッセーヌ、ルイ・ヴィトンのニコラ・ジェスキエールも天才ね! 若手のデザイナーのイリス・ヴァン・ヘルペンやアレックス・イーグルなども好きよ」
──イル ペリカーノでの好きな過ごし方は?
「ここを訪れる素晴らしい人々と出会い、さまざまなことを話し合うことね。友達のそのまた友達など多彩な人とつながっていくことができる。私も仕事でさまざまな場所を訪れるけれど、旅をしていないときでも、ここにいれば世界中のいろんな人と出会うことができて、今まで知らなかったようなことや素晴らしいストーリーを聞くことができる。この仕事の一番の醍醐味といえるかもしれないわ。もちろん美しいビーチで泳ぐことも大好き」
──キャリアウーマンとして多忙な日々を送るマリー=ルイーズさんの時間のマネジメントのコツは?
「確かに忙しいけれども、好きなことしかしていないから、苦に感じることはないわね。ただ、本当に日々のちょっとしたこととして、朝は早く起き、毎日メディテーションをして、心のバランスを取るように心がけているわ」
──今後予定している新プロジェクトは?
「ビルケンシュトックとのコラボレーションの発表を5月に控えているし、チンティ・アンド・パーカーとの美しいカシミヤアイテムを展開予定よ。日本のロンハーマンでポップアップショップを展開できることも本当に楽しみにしているわ」
イル ペリカーノの気分をロンハーマンで!
イル ペリカーノのブティックには、マリー=ルイーズ・シオの審美眼によって選ばれたアイテムが並ぶ。この夏ロンハーマンでブティックの一部アイテムを展開。ラグジュアリーなバカンスムードを手に入れたい。
Cutout Photos : Daisuke Kusama Text:Etsuko Soeda Edit:Michie Mito