ホッとできる優しい料理と出合える、女性シェフの店
食通のゲストセレクターを迎え、いま注目の“食の世界”をおすすめのレストランとともに紹介するフード連載。Vol.11は、料理と器をこよなく愛する広告プロデューサー田矢優子が、女性シェフが作るレストランをピックアップ。(「ヌメロ・トウキョウ」2019年9月号掲載)
女性料理人が作る、「優しい」料理が好き
幼い頃、背丈がまだ流し台に届かないときから母の腰にまとわりついてキッチンにいたように思います。「ママはここまで作ったから、最後のお味は優ちゃんが決めてね」。火を扱える前からの私の係。メバルの煮付けは思い切って甘くしたほうがおいしいこと、カレーには酸味があった方が味の輪郭がはっきりすること、等々をいつの間にか覚えました。
亡くなったから美化するわけではないけれど、母は料理の天才。和・洋・中、母の味のセンスを越える料理に出合うことはない、とわかっていながらも追い求める。おいしいお店を探し、自分も料理をし続け、母のレシピを再現する。だから女性の料理が好き。男性料理人の包丁一本的な「覚悟」は感じられなくとも、ホっとできる優しさがある。
女性が切り盛りするお店のドアを開ける瞬間、心躍ります。料理の道へ進む勇気がなかった自分の姿を重ね合わせ、生まれ変わったらこういうお店を持ちたいなと夢見ます。そんな私は『みをつくし料理帖』(高田都著・ハルキ文庫)にのめり込み、今は『居酒屋ぜんや』(坂井希久子著・ハルキ文庫)のお妙に首ったけで次巻を待ちわびています。
MANNA
江ノ島電鉄の由比ヶ浜駅からすぐ、住宅街の中にひっそりと佇む「MANNA」は、シェフの原優子さんが一人でキッチンを切り盛りするリストランテ。すぐに予約で埋まってしまうほどの人気だが、その理由は足を運べばわかる。
近くで採れた新鮮な食材をふんだんに使い、少し強めの塩とオリーブオイルで素材の良さを引き出した料理には、どれもぐっと引き込まれてしまうほどの強さを感じる。迷ってしまうほどたくさんのメニューがあるけれど、あれこれ少しずつ楽しむより、一皿に真剣に向かい合いたくなるはず。由比ヶ浜で過ごす時間や、海の街に似合う洗練されたインテリアを含めて、「食の喜び」を体感できるお店だ。
住所/神奈川県鎌倉市長谷2-4-7
TEL/0467-23-6336
営業時間/12:00〜14:00(L.O.)、18:00〜20:30(L.O.)
定休日/日、第1・3・5月曜、年末年始
季節料理・酒処 さそう
日本料理のテクニックをベースに、エスニックのアイデアがちりばめられた「さそう」の料理は、その時期に一番おいしい旬の食材と野菜がたっぷり。カウンターに7席のお店は、女性が一人でふらっと立ち寄ることも。
お酒のラインナップは自然派ワイン、ビール、日本酒、焼酎、国産のウイスキーやラムなど。季節ごとに漬ける、自家製果実酒も見逃せない。
住所/東京都世田谷区池尻2-30-12 OSビル1F
TEL/03-5432-9665
営業時間/平日18:30~23:00(L.O.)、土・祝18:30~22:00(L.O.) ※日曜は貸切のみ予約可
定休日/不定休
URL/sasou-kisetsu.com
ワインの樹
神奈川県三浦市の野菜に惚れ込み移住した佐久間さんが、新鮮な素材で作るイタリアの地方料理と、イタリア全土のワインが楽しめる「ワインの樹」。
シグニチャーは、フレッシュトマトと塩だけを4時間煮込んだプーリア州のパスタ料理。トマトが採れる夏限定のメニューだ。シンプルだが凝縮された旨味に、トマトソースの概念を覆されるに違いない。
住所/東京都渋谷区東2-15-2
TEL/03-6427-3815
営業時間/火〜金18:00~24:00(L.O.)、土13:00~20:00(L.O.) ※営業日・時間の詳細はFBにて
定休日/日・月ほか不定休
URL/www.facebook.com/Wainnoki
Photos:Yufuko Uehara(MANNA), Aya Kawachi Text:Miho Matsuda Edit:Yuuka Shiomi