独創的アイデアで人を巻き込む “共感ビジネス”の作り方
スープストックトーキョーやパスザバトンといったユニークなショップやブランドを手掛ける「スマイルズ」代表・遠山正道。“共感ビジネス”の第一人者ならではの、ユニークな経営哲学やアイデアの生み方とは?共感力を磨くヒントが満載のインタビューをお届け。(「ヌメロ・トウキョウ」2018年7・8月合併号掲載)
「パスザバトン」は持ち主の顔写真とプロフィール、品物にまつわるストーリーを添えて新たな持ち主にバトンする
──遠山さんのお仕事には、“共感ビジネス”というワードが登場しますが、共感とビジネスの関係性とは?
「例えば私が最初に手掛けたスープストックトーキョー。97年に構想を立ち上げたときに、「スープのある一日」という企画書を書きました。形としてはスープを売ってはいるけれど、スープ屋ではないと記しています。スープを媒介にして価値観に共感した仲間が集まりその思いがお客さまにまで広がっていく……というビジネスをやりたかったんです」
──そういったアイデアはどうやって生まれのですか?
「サラリーマンをやって10年目という年に、自分の絵の個展を開いたんです。まったく初めての試みだったのですが、友人たちが協力してくれたり、叔父が買ってくれたりして、出品した70点の絵をすべて売ることができた。そのときに私は、『ああ、彼らが僕のアクションに一票を投じてくれたんだ、応援してくれたんだな』と実感したんですよね」
──同じ思いを共にした人々の応援があったからこそ成果が出た、と。
「はい。アートというものは合理的な説明がつかないものだと思うんです。絵描きはただ描きたいから絵を描くのであって、買い手はその絵が気に入ったからお金を出す、というものだから。サラリーマンの私がいたビジネスの世界は、売り手がいて買い手がいて、お互いのニーズがあって、マーケットが生まれて……という合理的な仕組みがあったから、売り手と買い手の間にはいわば対立関係にあるとでもいいましょうか。それぞれが見ているものが違うんですよね。でも、私の個展では、売り手も買い手も一緒の方向を見ていた」
──応援したいという気持ちが、遠山さんの絵を売った。いいと思うものを多くの人と分かち合うことが、ビジネスを動かすというわけですね。
「はい。その後に立ち上げてきたのはネクタイブランド『ジラフ』やセレクトリサイクルショップ『パスザバトン』、ファミリーレストラン「100本のスプーン」と、業態はバラバラですが、どれも自分たちがやってみたいという気持ちや素直な興味に基づいて生まれたプロジェクトです。すでに世の中にあるものも、自分たちならどうするか?、こうだったらいいよね、と考えるのが基本。つまりマーケティング頼みではなく、自分たちの中にやりたいという動機や理由があって始まっているんです。この、自分たちの中に動機や理由があるということは、我々にとってはとても大事なことですね」
──それはなぜですか?
「理由が外にあると、なぜやっているのかと立ち止まったときに、意義が見つけにくいと思うんです。ビジネスを立ち上げて走り続けていくうちに、何を目的にやっていることなのかを整理する必要も出てくるものですから。だけど、自分たちがやりたいことや興味を持っていることならば、目的を見失うことはないだろうし、方向性が変わったり気になる点が出てきたりしたら、変えていけばいい。必要に応じて変化していくことが可能なんです。そして何より、成果が出たらみんなで喜ぶことができますしね」
「The Chain Museum」は新たなプロジェクトで、小さくてユニークなミュージアムを、世界にたくさん差し込んでいくというもの。
──スマイルズでは、どんなふうに企画が生まれるのですか?
「社内で新しいことをスタートするときの四行詩というのがあって、そこには、『やりたいということ』『必然性』『意義』『なかったという価値』と書いてあります。これがベースにある考え方ですが、企画案そのものはといえば、実はランチタイムや移動中に飛び出すことが多いですね。つまり、雑談から。あとは、ちょっと変わったところだと、私の見た夢」
──眠っているときに見た夢ですか?
「はい。まだ実現はできていないけれど「満場一致」という名前のお店で、業態は簡単にいうとスーパー銭湯。日中はお年寄りが集まるような具合で、夜はスナックやバーとしても使えるという、24時間営業のカオスな空間。企画書もかなり本格的に作ってあります。こうしたストック案は結構たくさんあるんですよ。ほかには、ホックニーの絵を眺めていて構想が広がっていったサンドイッチ屋というのもあります」
──遠山さんにとっての“共感”は、現代のインターネット社会にある“共感”とはまた違うもののようですね。
「そうですね。私が考える共感とは、生身の人間が実際に集まって、対話をしながら面白いことを提案する。そしてそれに共感した人たちがさらに集まる……といったイメージです。だからこそ、マーケットや世の中の事情よりも、一人一人がリアルに気になったことや熱意が大事。それがパワーになると思うんです」
Text:Chiharu Masukawa Edit:Etsuko Soeda