普通じゃないことへの憧れと違和感が放つ心地よさ。
2022年10月28日(金)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2022年12月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズレター。
「違和感」という言葉が放つ感覚を最近ずっと模索し続けています。完璧なバランスのスタイリングや黄金比といわれる美しい姿や顔に、ある種の飽きのようなものを感じているからなのかもしれません。確かに美しいモデルが超エレガントなスタイルで、キラキラ光る美髪をなびかせながら颯爽と歩いてきたら、注視するどころか存在そのものへの畏怖のあまり卒倒してしまうでしょう。でも、何かが違う。残らない、というか最初からそこにたどり着けない諦めを感じているのかもしれません。ところがこの「違和感」に出合ったときは「なんか変なバランスだな」「落ち着かない配色だな」「これにコレ、合わせるの不思議だな」といった、軽い裏切りと不協和音にワクワクした感覚を覚えるのです。
「ワクワクすること」「楽しいこと」は物づくりへの原動力であり必要な感覚で、小誌160号の特集「これが私のいきる道」でも「好きなこと、やりたいことをやりたいようにやってきたら人生がひらけた」という脱力系を取材し、やりたいように生きるからには、ファンなこと、ワクワクすることをという流れでした。違和感はそこに通じるものがあり、むしろ“個性の表現”につながるのだと。
今号の表紙を飾るイタリアはローマ出身のロックミュージシャン「MÅNESKIN(マネスキン)」を撮影・取材しました(本誌p.38〜)。今回の来日で披露した豊洲ピットでの単独公演もサマーソニックのメイン会場でも、彼らは皆、上半身裸になり、ほとばしる汗をまき散らしながらシャウトするパフォーマンスで大いに観客を歓喜させていました。ちなみにベースのVictoriaも、他のメンバーに負けず劣らず上半身裸のスタイルでパフォーマンスを披露。彼女は、ともすればゴリっとしがちなロックバンドに華やかさを加え、他に類を見ない異色のロックバンドへと昇華させるに不可欠な存在です。そんな彼らが取材の際には時間を守り、周りを気遣い、着替えたものを自分で畳んで、最後のお疲れさま会で振る舞われたアルコールにはいっさい手をつけずアイスティーを飲んでいる。演奏中は火照ったカラダ中のタトゥが息づいているように妖艶になり、まるでロックの神が降りてきたような力強いパフォーマンスで観客を狂喜乱舞させていても、舞台を下りると素晴らしく人間味にあふれたメンバーになるのです。昔のロックミュージシャンのように遅刻をしたり、二日酔いで撮影にならないだとか、現場に来ないだとか、そんなお決まりのイメージとはかけ離れた、いい意味での“違和感”を放っていました。ロックの不滅を叫ぶ彼らに今号のテーマを伝え「違和感」について聞いてみると「誰もが何が正しいとか間違っているとか言うべきではなく、誰もが完全に自由で、自分らしさを受け入れるべきだよ」と、これからの時代を自分らしく生き抜くための明瞭な言葉が返ってきました。
さて、今号の「田中杏子のリアルモード」(本誌p.62〜)で度肝を抜かれたのはp.63に掲載したBALENCIAGAのルック。フェイクファーのコートに巻きつけているのはBALENCIAGAと名前が入ったダストテープ。これ、私のアイデアでもなんでもなくルックがそうなっていて、届いた荷物にダストテープが入っていたのです! 奇抜で自由な発想にノックアウト。残念ながらテープの販売はなく、参考商品でしたが。
右にならえ! と教えられてきた私にとって「違和感」は、自由を手に入れる鍵。大いに違和感を表現したいと心の底から渇望した特集でした。
10月28日に「Numero CLOSET(ヌメロ クローゼット)」という名のECサイトがプレオープン。私が普段から身に着けているものやスタイリングに愛用しているもの、またこれから使いたいと思うものなどを展開しています。ぜひ覗いてみてください。
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