私たちは自由のため、強いピンクが必要だった。
2022年7月28日(木)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2022年9月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズレター。
ピンク特集は創刊号から数えて二度目になります。初回は2010年6月号/37号の「ピンク好きはやめられない!」で「かわいい」を基準にした「愛されピンク」を特集しました。あれから12年。ピンクヘアで人生を謳歌している人、ピンクを楽しんでいる男性にも頻繁に出会うようになりました。女性の色とされてきたピンクが市民権を得て、自由な社会を表現するシンボルへと昇華したかのようです。そんなピンクの存在に心を動かされていたとき目に飛び込んできたのが、VALENTINO 2022秋冬コレクション。強くて鮮やかなピンクを全身に纏った男女のモデルたちがランウェイを埋め尽くしているではありませんか。衝撃が走りました。ついに新しいピンクについて考えるときがやって来たのです。では、今のピンクが発するメッセージとはいったい何なのでしょうか。
VALENITNOのクリエイティブディレクター、ピエールパオロ・ピッチョーリの言葉を紹介します。「“Pink is the color of love, community, energy and freedom(ピンクは愛、コミュニティ、エネルギーと自由の色)”これからも多様性を打ち出すシグネチャーカラーとして使用していきます」でした(本誌p.52〜)。この表明こそが、かわいい愛されピンクの終焉を意味し、能動的で強く意思表明をするための色、多様性を象徴する寛容の色として選ばれたことがわかります。
ピンクは女性の色というイメージは幼少期に刷り込まれました。例えば出産祝い。“女児にはピンク、男児には水色、性別がわからないときには黄色のものを”という習わしに問題意識すら持たなかった私も、出産祝いを選ぶ基準にしていました。今となっては社会通念のバイアスがかかった価値基準だと理解できます。ただ、男性優位な社会では、いまだにその概念が崩されていないという事実もあるようです。
フェミニズムとガールズカルチャーを象徴するピンクを、あえてアートの文脈で表現した金沢21世紀美術館の企画展「フェミニズムズ/FEMINISMS」(*展覧会は終了しています)。こちらをキュレーションした高橋律子さんにお話を伺いました (「ピンクとジェンダーを考える」本誌p.95)。ピンクという色が美術の世界で避けられてきたという事実に驚いたのですが、理由はずばり「美術の世界はまだまだ男性的」だから。そんな中、あえて展覧会のメインヴィジュアルに「ピンク」を用い、フェミニズムを題材に9人の作家の作品で構成するという挑戦により高橋さんがたどり着いた答えは「ピンクに対する偏見がなくなれば社会が変わる」でした。フェミニズムのみならず、社会に違和感を抱える人たちにも勇気を与える多様なあり方を提示できる貴重な色として、強いピンクが必要な時代となったのです。同展覧会でピンクを用いた作品で話題となった西山美なコさんにも取材をしました(「ピンクに魅せられたアートの軌跡」本誌p.96〜)。西山さんの作品は、ピンクが持つ払拭し難いイメージやレッテルを可視化させ、ピンクの奥深い魅力を表現しています。ピンクはなぜ惹かれる色なのかという、単純明快な社会行動を宇宙的観点から捉えた秀逸な見解もまた発見でした。
特集を通して、ピンクとの関わりを自問。ピンクのものを持ちたい? ピンクの服を着たい? 果てはピンクヘアを楽しみたい?私の答えはすべてイエス。だって私を自由にしてくれるから。「すでにたくさんのピンクを持ってますよ」との知人の声で持ち物を見渡してみると……愛用品、靴、手帳やケース、先日購入したドレスまですべてがピンク色でした。
ピンクの存在を通して現代社会を知り、ピンクの存在と向き合って自身の立ち位置を知る。ピンクは気づきを与えてくれる深い色。一緒にピンクを考え、楽しみませんか。
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