だって、私のが最強♡なんですもの。「カワイイ」がたどり着いた現在地点。
2021年5月28日(金)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2021年7・8月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズレター。
小誌創刊1周年を記念した2008年4月号(No.13)で初めて「KAWAII」を特集しました。そして2021年の今号で再び特集を組んだ「カワイイ」ですが、当時と今の「カワイイ」は少し異なるようです。それはいったいなぜなのでしょう?
その号では、『カワイイは日本の最大輸出品!?』と表紙に銘打ち、日本発世界的アイドルとなったキティちゃん旋風やカワイイ論争の事象を取り上げました。ハローキティ3代目デザイナーの山口裕子さんへのインタビューで「13年前のカワイイ」を表現するわかりやすい一文が載っていました。「『何歳になっても女性は女の子のままで、少女のままの心を忘れないからカワイイものが好きなのよ、とお母さんは言っていた』という話を聞いてやっぱりねと思いました。」山口さんが夢中になっていた洋服ブランド『ミルク』のデザイナー柳川れいこさんの生前の言葉を娘さんから聞き、山口さんがやっぱり!と納得したというくだりなのですが、当時、カワイイは子どものものとして扱われ、キティちゃんももちろん子ども対象のキャラクターでした。その境界を取っ払って、大人向けのハローキティを生み出したことで、大人になってもカワイイを好きでいいんだ!と、世界中の大人女子が飛びつき、「カワイイ」が年齢を超越し世界に広がった時代でした。当時、連載をお願いしていた『岩井志麻子のe-mail』でも時代を表す「カワイイ感」が述べられています。ゲイを公表しているコメディアンの方とのやりとりがあり、その最後に「男の中にこそ、ピュアな可愛い乙女はいる。乙女ってのは、本物の女の中にはいない。女が可愛らしさいじらしさを表に出すのは、戦略や攻略だもの(中略)」と締め括られています。岩井さん視点のゲイの方の話でしたが、まさか13年後は、もっと多様化したカワイイが存在しているとは、時代の変化を感じます。
「カワイイ〜〜」という言葉には “素敵” “好き” “いい感じ” などさまざまな思いが込められ、私を含め多くの女性が日々連発しています。が、今では、女性だけではなく男性にもこの言葉がフィットし、抵抗なく使われ始めました。先日、NuméroTOKYOのYouTubeチャンネルで、小誌エディターが「編集部員のバッグの中身を紹介する」動画を公開したのですが、彼女がバッグの中身を紹介している際、映像作家のTくんがカメラを回しながら「カワイイ〜」と言っているのを聞き、男子が発する「カワイイ〜」は柔らかくて親近感のある音で、聞いているこちらがキュンキュンするほどかわいくて、「カワイイ」は女性だけのものではないのだなと実感。
誰もが自分だけの「カワイイ」を追いかけ、認められる時代に入ったと『科学でひもとく「かわいい」の世界(p.74〜)』でお話を伺った実験心理学者の入戸野宏さんは説いています。自分だけの「カワイイ」を育てる感覚は推しを作る感覚と似ていますよね。『推しがいる生活って?(p.120〜)』では、それぞれの推しについて沼にハマる魅力を語っていただいているのですが、ディテールに宿る溺愛っぷりに微笑みすら生まれます。そこまで言うなら、その世界観を覗いてみようかなと思わせられます。「推し活」勝ちですね。ちなみに前述したハローキティ3代目デザイナーの山口裕子さんに今回もお話を伺っているのですが(p.67)、サンリオのキャラクターが長く愛される理由は「デザイナーやファンに育てられているから」だそう。やはり“推し”なのですね。私だけの「カワイイ」は他人に理解されたり、誰かに認めてもらわなくてもいいのです。でも誰かの「カワイイ」を理解して認め合えれば、寄り添い合えるより良い社会につながることもまた然り。現代版「カワイイ」は、本当の意味で多様化しています。