アーティスト舘鼻則孝を探る解体新書
レディー・ガガのヒールレスシューズを生み出したデザイナー。日本の文化の止揚に挑むアーティスト。そんな舘鼻則孝の起源と軌跡、未来を、3つのキーワードでひも解く。(ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2017年11月号)
これぞ舘鼻則孝を象徴する唯一無二のフォルム。『Heel-less Shoes Series』(2014年)© NORITAKA TATEHANA, 2017
解剖 その1
『ヒールレスシューズ』の衝撃
ファッションの道を志し、東京藝術大学で染織を専攻した舘鼻。花魁の高下駄に着想を得て、『ヒールレスシューズ』を卒業制作で発表する。デザイナーの道を歩むべく送った写真がニコラ・フォルミケッティの目に留まり、レディー・ガガの専属シューメーカーに。一躍、脚光を浴び、作品はニューヨークのメトロポリタン美術館にも収蔵された。以降、友禅染など日本の高度な工芸技術を用いて実験的なデザインを展開し、現在に至る。
舘鼻則孝をめぐる証言
ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)博物館館長
Valerie Steele(ヴァレリー・スティール)
「初めて『ヒールレスシューズ』の写真を見て、収蔵を決意しました。花魁の高下駄から着想を得た独自性と職人技術で靴の外見を一変させたことで、舘鼻則孝は現代の最も重要なシューズデザイナーの一人になったのです」
『舘鼻則孝 リ・シンク展』展示風景より、パリのカルティエ現代美術財団で上演された『TATEHANA BUNRAKU: The Love Suicides on the Bridge』(2016年)の衣装と舞台美術
解剖 その2
アート×工芸の表現者
“レディー・ガガの靴のデザイナー”というイメージを、いかに打破できるか。表現を模索する舘鼻の背中を押したのは、『ヒールレスシューズ』に込められた日本固有の文脈を評価する声だった。漆や螺鈿など工芸技法を用いて花魁のかんざしをオブジェ化した作品、パリのカルティエ現代美術財団では舞台美術や衣装、演出を手がけた人形浄瑠璃文楽を発表。岡本太郎の呪術的な表現力と対峙した展覧会にはガガも駆け付け、舘鼻を祝福。現代アートを主戦場に定め、新たな挑戦が始まった。
『TATEHANA BUNRAKU: The Love Suicides on the Bridge』(2016年)公演風景(Photo: GION)
個展『CamelliaFields』(KOSAKU KANECHIKA/2017年)展示風景。手彩色した鋳造の椿を敷き詰めた(Photo: GION)
『舘鼻則孝 リ・シンク展』で発表された『Theory of the Elements』の新作、JTの蒸気式タバコ「プルーム・テック」専用アクセサリーとそのケース。なお、同展は過去の常識を見直し新しい文化を創出する「JT Rethink PROJECT」の概念に舘鼻が共感したことをきっかけとして、表参道ヒルズ「スペース オー」で8月12日〜20日の期間開催された。
解剖 その3
拡張する創造の地平
『ヒールレスシューズ』を作りつつ、現代アートの価値体系に臨む舘鼻。その世界は今、新たな展開を迎えている。8月の『舘鼻則孝 リ・シンク展』で発表されたプロダクトと、初の試みとなる食空間のプロジェクトから、その行方を予見する。
舘鼻がクリエイティブディレクションを手がけるベーカリーレストラン「COURTESY(コーテシー)」。“ミュージアムとレストランの融合”を掲げ、作品の設置のほか陶芸家の桑田卓郎氏やシェフとのコラボレーションなど、舘鼻の世界観を五感で味わう空間に。新商業施設「赤坂インターシティAIR」内に9月29日にオープン。(Photo: GION)
Portrait : Tadayuki Uemura
Interview & Text : Itoi Kuriyama
Edit : Keita Fukasawa