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Lifestyle Trip

瀬戸内海に浮かぶ建築⁉︎ 客船「ガンツウ」

昨年10月に就航した、瀬戸内海を周遊することに特化した客船「ガンツウ(guntû)」。直島など建築・アートで知られるこのエリアに新たな見どころが加わった。一体どんな客船なのか?その建築的魅力に迫る。(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2018年1・2月号掲載

Photos:Yoshiaki Tsutsui, Tetsuya Ito Text:Minami Nakawada Edit:Sayaka Ito


穏やかな海と美しい風景で知られる瀬戸内海。そこを周遊するために造られた「ガンツウ」。建築家・堀部安嗣設計の、1泊40万~100万円というラグジュアリーな客船だ。

前代未聞“和”の客船「ガンツウ」はどうやって生まれたのか?

瀬戸内海に浮かぶアートと建築で知られる直島は、海外のラグジュアリーブランド関係者を中心に相変わらず高い人気と注目を集めている。しかし今「せとうち」といって最も話題に上り注目されているのは、建築で地域活性を図っている尾道・福山エリアだろう。戦時中に建てられた倉庫をサイクリスト用ホテルとして改装した谷尻誠+吉田愛/サポーズデザインオフィス設計の複合施設「Onomichi U2」や名和晃平/SANDWICH設計のアートパビリオン「洸庭」、中村拓志/ NAP建築設計事務所設計の二重螺旋で構成された「リボンチャペル」など挙げれば切りがない。そして今このエリアで高感度な人たちから注目を集める最新“建築”がある。それが「ガンツウ」。住宅づくりで定評ある建築家・堀部安嗣設計による、小さくもラグジュアリーな雰囲気を持つ客船だ。



〈随所に見られる職人技〉(写真上)漆喰で仕上げられた階段を見下ろす。(写真下)3階パブリックスペースに設けられた「縁側」。スチール製の柱の手が触れる部分には藤が巻かれているなど、こだわりが。

「ガンツウ」は一体どんな船なのか?

ガンツウは広島県尾道市にあるベラビスタマリーナを母港に瀬戸内海を1~3泊で周遊する全長約80m、3階建ての客船だ。客室はわずか19室。すべてスイートルーム仕様で、価格は1泊40万~100万円(1室を2名で利用した場合の一人料金)と高額だ。ただし、乗船してしまえばワイン、シャンパンなどの飲み物から食事、アクティビティ参加なども全て料金に含まれるオールインクルーシブになっている。


堀部が一番のオススメと語る、屋根に切り取られた海の風景。多島美がぐっとフォーカスされる。


全長11mもの長いテラスが特長の客室「グランドスイート」(80㎡)。19室中、2部屋のみ設けられたこのタイプの部屋のテラスには露天風呂も。客室にも木材がふんだんに使用されている。

19室ある客室のタイプは4つ。なかでも1室しかないザ ガンツウスイートは90㎡という広さで、露天風呂やテラスが付いている。が、しかし、この部屋の売りは広さや設備だけではない。通常操舵室が設けられる船の正面に客室がある。つまり客室にいながらにして、船長にしか見ることのできない進行方向180度のパノラマが、眼の前の広がるというわけだ。自分の部屋で映画『タイタニック』のあのおなじみのシーンを演じるもよし。これは味わった者でないとその魅力と感動はわからないかもしれない。


スパエリアに設けられた檜風呂。大きな窓からは瀬戸内の風景を眺められる。浴場にはサウナ好きを豪語する建築家・堀部安嗣が設計に力を入れたというドライ&ミストサウナも設けられている。

航路は大きく分けて2つ。国宝にして世界文化遺産にも登録されている厳島神社のある宮島などを巡る西回りコースと、ジブリアニメ『崖の上のポニョ』の舞台にもなった港町・鞆の浦や直島などアートの島を巡る東回りコースである。ちなみにガンツウは母港の桟橋を出た後はどこの港にも立ち寄らない。夜は沖で錨を下ろし停泊するだけだ。では宮島や直島といった離島を訪れたいときはどうするのか? 実はその際はガンツウに2艇搭載されている10人乗りの小型船(テンダーボート)を海に下ろし、ガンツウにセットされたポンツーン(浮桟橋)から目的の島へと向かう。テンダーボートで瀬戸内の島を訪れる「朝さんぽ」など、船外体験もこの船の魅力のひとつだ。


〈秀逸なラウンジ空間〉ラウンジスペース。和菓子を味わいながら抹茶やコーヒーを楽しめる。



(写真上)マルニ木工製作のガンツウオリジナルのラウンジチェア。(写真下)広島県竹原市の竹職人製作のスツール。

なぜ「和風」になったのか?

普通、客船というと白亜の豪華ホテルのようなものを思い浮かべるだろう。でもこのガンツウは違う。三角の大きな切妻屋根を載せた和風の外観。内部空間にはサワラ、栗、杉など10種類を超える木材がふんだんに使用され、サウナを備えた檜風呂の大浴場まで付いている。ギラッとしたいわゆる洋風のクルーズ船のイメージとは全く別物なのである。建築家の堀部安嗣は“和”になった理由をこう語る。

「ガンツウのデザインは海外滞在中に描いた一枚のスケッチから始まりました。船の上に三角の大きな屋根を描きましたが、これは瀬戸内海の集落にある民家の瓦屋根と馴染むように考えたものです」


〈木を多用した船内〉3階パブリックフロア。サワラやヒノキ、栗など11種類の木材をふんだんに使用した船内は、上質で落ち着いた雰囲気。これほど木材を多用した客船は世界にも例がない。

堀部は船の外観が周囲の環境に溶け込むことを念頭に置きデザインしたという。シルバーに塗られた船体もしかり。昼間は瀬戸内の海や空の色を受けて青く輝き、夕暮れ時には夕陽を浴びて船体は真っ赤に染まる。周囲の景色と同化するのだ。確かに大型クルーズ船が瀬戸内海を航行することもあるが、スケール感やデザインから完全に浮いてしまっている。でもこのガンツウなら周囲の風景に溶け込み、その一部になっている。



〈周囲に溶け込む切妻屋根〉ガンツウ最大の特徴は切妻屋根(シンプルな三角屋根)。(写真上)屋根の下は半屋外のくつろぎ空間。(写真下)瀬戸内海沿いの集落には切妻屋根の家が多い。その風景に溶け込むように三角屋根がかけられた。

内部空間はどうだろう。切妻屋根のかかった3階部分デッキ3には「縁側」と呼ばれる、まさに伝統的な日本の住居に備えられた縁側のような軒下空間がある。

「設計にあたって最初に考えたことは、美しい瀬戸内の風景を軒で切り取るということ。ただ目の前に広がる風景を眺めるより、軒先で風景をフレーミングすることで風景がよりドラマチックに感じられます。それを味わえる一つがこの縁側からの眺めです」


メインダイニングの料理は、原宿にある老舗割烹「重よし」が監修。瀬戸内海の幸をお好みで調理してくれる。


船内には6席のみの鮨カウンターも。知る人ぞ知る名店「淡路島 亙(のぶ)」監修の鮨を堪能できる。鯛をはじめとした白身魚の握りづくしは一度味わう価値あり。

盃を片手に、オランダ人医師シーボルトやツーリズムの祖といわれる英国人で実業家トーマス・クックがかつてこの地を訪れ“世界のどこよりも美しい”と絶賛した瀬戸内の風景を船上から眺める――。そんな至福の時は他にないだろう。

湖のように穏やかでゆったりとした瀬戸内を、海に浮かぶ高級旅館のような客船で巡る、今までにないスタイルの旅。ガンツウは国内のみならず、海外からも注目を集めるに違いない。

guntû(ガンツウ)
広島県尾道市にあるベラビスタマリーナを発着し、瀬戸内海を周遊する1泊2日~3泊4日のツアーを提供する客船。客室数は全19室でザ ガンツウスイート(90㎡)、グランドスイート(80㎡)、テラススイート(50㎡)、同・露天風呂付き(50㎡)の4タイプ。室料は1泊40万~100万円(1室2名利用の場合の一人料金)。飲食なども基本的に料金に含まれるオールインクルーシブ。運航はせとうちクルーズが行う。ガンツウのツアー申し込みは「ガンツウ ギャラリー(guntû Gallery)」(予約制)にて。

guntû Gallery
住所/東京都千代田区内幸町1-1-1 帝国ホテル東京本館中2階
TEL/03-6823-6055
営業時間/10:00~18:00
定休日/水曜
URL/guntu.jp/

Profile

堀部安嗣(Yasushi Horibe) 1967年、神奈川県横浜市生まれ。90年、筑波大学卒。94年に堀部安嗣建築設計事務所設立。「伊豆高原の家」「阿佐ヶ谷書庫」など、住宅作品を中心に80以上の作品を手がける。2002年「牛久のギャラリー」で吉岡賞受賞。16年「竹林寺納骨堂」で日本建築学会賞受賞。著書に『堀部安嗣 小さな五角形の家 全図面と設計の現場』(学芸出版社)、『堀部安嗣 作品集1994-2014 全建築と設計図集』(平凡社)などがある。

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