エディターたちは見た! 2020年秋冬コレクションダイアリー【NY編】 | Numero TOKYO
Fashion / Feature

エディターたちは見た! 2020年秋冬コレクションダイアリー【NY編】

長い歴史を重ねてきた従来のコレクションの形はこれで最後になるかもしれない。しかしデザイナーたちは、いま起きている世の中の変化を次なる進化の過程と捉え、すでに未来へと動き始めている。これからのファッションを楽しむヒントを現地で取材にあたったエディター視点で解説します。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年9月号掲載)

小さなコミュニティのブランドが増加新しいスタイルを模索するNY

古泉洋子 ファッション・エディトリアル・ディレクター。取材疲れを癒してくれたのは、SATCのドラマロケ地としても知られる緑豊かで美しいグリニッジ・ヴィレッジでの滞在。

──今回のニューヨークコレクションについて

「当時は新型コロナウイルス感染者も少なく、中国のジャーナリストは入国を制限され参加できない状況ではありましたが、NYコレクションは予定通りに行われました。全体的な感想は、盛り上がりに欠けて少し寂しかったな……というのが正直な印象。昔に比べると、ライフスタイルからクリーンでヘルシーになっているので、一丸となってまとまれば、まだまだパワーアップしそうだなと思いました。常に新しいことにチャレンジするのがアメリカ。そういったことで興味深かったのは、3.1 フィリップ リムです。ショーを中止にしてストアでのプレゼンテーション形式で行われて、今季の洋服をトルソーに着せて発表したのですが、デザイナーのフィリップ自身が自ら説明したり、直接着せ付けてみたりと相手としっかりとコミュケーションを取っていたのは、とても良いなと思いました。彼は「make less mean more(より少なく意味を増やす)」という考え方で、時間やデータに追われる日常ではなくサステナブルで効率的、そして幸せな環境をどのように作れば良いのかを模索しての表現だったみたい。このフィリップの決断やアイデアは、今後の新しい形を示唆するものなのかなと思う」

──今季押さえておきたいトレンドキーワードは?

「NYもこれまでのストリート感が抜けてきて、大人のファッションに変わってきています。特に今季はテーラリングに注目したいです。ジャケットやコートがオーバーサイズであったり、それぞれのブランドらしさが光っていた」

(左上)MICHAEL KORS(右上)THE ROW(左下)MARC JACOBS

もう一つは、アート インスパイア。コーチはバスキア財団と組んでいたりと、NYのシンプルでカジュアルなリアルクローズに、アートのエッセンスを効かせて世界観に深みをもたせたブランドが多く見受けられました」

(左上)LONGCHAMPS(右上)TORY BURCH(左下)COACH

──NYの若手ブランドの勢いはどうですか?

「このところのNYは固定のファンを持つ小さなコミュニティのブランドも増えて、勢いがあったと思います。特に評価が良かったのはジマーマン、コリーナストラダ、ウラジョンソンあたり。ヴィンテージやモダン、エスニック、ガーリーなどをすべてうまくミックスしている。小規模だけど好きなテイストを貫いていて、大きくなることが良いことだという考え方がそこまでなさそう。新世代というか変わり目の時なのかも。ただやはりこういう独立系の若手ブランドには新型コロナの影響は大きく、個人的に気に入っていたシエス・マルジャンはブランド終了することになってしまいました」

ZIMMERMANN
姉妹で立ち上げたブランド。花柄プリントなどでフェミニンなムードを漂わせながらもエレガントさも忘れないデザイン性が人気を集めている。

ULLA JOHNSON
マンハッタンで生まれ育ったデザイナー、ウラ・ジョンソンが2002年に立ち上げたブランド。プリントと刺繍、天然素材を使った現代のNYスタイルはユニークで魅力的。

COLLINA STRADA
2009年秋よりスタートしたブランド。ジェンダーレス、 黒人の人権 アンチトランプなど政治的なメッセージが込められており、洋服からもそのエネルギーがみなぎっている。

バーニーズ ニューヨーク閉店
NYはこれからどうなる?

今回の取材中、最も衝撃的だったのは閉店カウントダウンセールを行っていたバーニーズ ニューヨーク。華やかだった90年代後半の全盛期を見てきたものからすると寂しすぎる末路だった。今日ではハドソンヤードや425パークアヴェニューなど再開発ラッシュで勢いついている様子だったが、コロナ禍でその状況は一変しそうだ。今後どのように軌道修正するのか注目したいところである。

HIROKO’S COMMENT
限られた“生”の体験を大切に、ファッションに愛を込めたい

人間が生み出す“生”の熱量を享受できる機会は、たぶん今後少なくなってしまう。だからその貴重な機会には、少しも取りこぼすことなく吸収したい。空間、匂い、音、布の手触りまで、デザイナーが全身全霊で伝えるコレクションはもちろん、個人レベルでも直接人に会う、そのかけがえのない時間のために丁寧におしゃれしたいと思う。

エディターたちは見た! 2020年秋冬コレクションダイアリー

Illustration:Kaoll Edit & Text:Saki Shibata

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