気鋭映画集団「オムネス・フィルムズ」が放つ新時代の一本。『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』

クリスマス・イブの夜、ある一家が車を勢いよく走らせている。リッキー・ネルソン(リック・ネルソン名義)の1963年のヒット曲「Fools Rush In」(全米12位)が流れるなか、彼らが向かうのは米ニューヨーク州ロングアイランドの郊外にある年老いた祖母アントニア(メアリー・ライステッター)の家だ。イタリア系アメリカ人の家族の4世代、バルサーノ家の毎年恒例の集まりだが、このクリスマスパーティは、もしかしたら今年で最後になるかもしれない──。

イブの夜。ワケありのパーティー模様が綴られる──クリスマス映画の異色の傑作!
世に数多いクリスマス映画の中でも、とりわけ独特の語り口を持ち、きらめきと切なさ、混沌と安らぎなどさまざまな気持ちを体感させるスペシャルな一本。2024年の映画『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』は注目の新進気鋭、タイラー・タオルミーナ監督(1990年生まれ、ロングアイランド出身)の傑作だ。彼はロサンゼルスを拠点とし、エマーソン大学(ボストン)を母体とした個々の友情でつながる独立系の映画制作集団「オムネス・フィルムズ(Omnes Films)」の創設メンバー。本作の日本公開に先駆け、「タイラー・タオルミーナ監督特集」として監督デビュー作の『ハム・オン・ライ』(2019年)と第2作『ハッパーズ・コメット』(2022年)が限定公開された(配給:グッチーズ・フリースクール)。
撮影を務めているのは、先ごろ日本公開された『さよならはスローボールで』(2024年)の監督でもあるカーソン・ランド。そちらの作品ではタオルミーナがプロデューサーを務めており、「オムネス・フィルムズ」のメンバーはコレクティヴとしての自由な協同関係を結んでいる。2024年5月、第77回カンヌ国際映画祭の監督週間では、『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』と『さよならはスローボールで』がそろってプレミア上映される快挙を果たした。

さて、『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』の内容だが、時代設定は2006年らしい。陽気に飲み語らい、聖夜の祝宴に夢中になる大人たち。だが方々で交わされる会話の断片のなかで、大家族の中心である祖母アントニアが介護施設に入る必要があり、この家を売却することが明らかになってくる。一方、ティーンエイジャーのエミリー(マチルダ・フレミング)とミシェル(フランチェスカ・スコセッシ)はこっそり家を抜け出し、雪降る冬の街で友だちとの遊びに参加する──。

この説話構造はタオルミーナ監督の前二作『ハム・オン・ライ』と『ハッパーズ・コメット』はもとより、『さよならはスローボールで』との共通性が高い。『さよならはスローボールで』の舞台は1990年代のマサチューセッツ州郊外。取り壊しの決まった野球場で、地元の草野球チームに所属するおじさんたちが最後のゲームに臨む姿を描くもの。つまり「失われようとしている共同体の場所」での人間群像という点は『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』とまったく同じだ。そして物語ではなくシチュエーション(状況)を重視し、特定の中心点(主人公など)をつくらずに「集団」の有機性を捉えるべく、人から人へとスライドしていくように描き出して時間の流れを映し出す。通り一遍の“物語=システム”への回収を拒む点景や断片の連なりのような語りはなかなか尖った手法で、我々観客はこの「集団」の場に実際参加しているような感覚を覚えていくのだ。

ただしカーソン・ランドが『さよならはスローボールで』で採用したのは簡素なリアリズムだが(作品精神の象徴的なアイコンのようにドキュメンタリー映画の巨星、フレデリック・ワイズマンがラジオアナウンサーの声で参加している)、対してタオルミーナ監督の演出はどこかシュールで夢のような幻想性を帯びている。異色の青春映画『ハム・オン・ライ』は「デヴィッド・リンチが撮った『アメリカン・グラフィティ』」などと評され(ジェーン・シェーンブルン監督の2024年の怪傑作『テレビの中に入りたい』に通じる暗さもある)、全編さまざまな既成曲が流れるが、『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』のプレイリストは冒頭のリッキー・ネルソン「Fools Rush In」をはじめ、シェリーズの「That Boy of Mine」「My Guy」、フランク・シナトラの「Garden in the Rain」、ロネッツの「Baby, I Love You」、レオン・ピールズ&ブルージェイズの「Alice From Above」など、1960年代の楽曲を中心にしたオールディーズだ。
この時代のポップミュージックの連打と、流麗な映像の融合的スタイルから連想されるのは、リンチも多大な影響を受けたケネス・アンガーの実験短編映画『スコピオ・ライジング』(1963年)である。まさかこの異端のカルト映画の形式が、ホリデードラマ(実質「アンチドラマ」的だが)に応用されるとは! こういったアーティスティックな特異性を、飽くまで平明で人懐っこい映画の表情のなかに収めているのもタオルミーナ監督のすごいところだ。

この映画にはとんでもない人数のキャストが集い、複雑なアンサンブルをいきいきと紡ぎ出しながら、多様な愛の形を見せていく。その中にはマーティン・スコセッシの娘フランチェスカ・スコセッシ(1999年生まれ)や、スティーヴン・スピルバーグの息子ソーヤー・スピルバーグ(1992年生まれ)もいる。またパトロール中の風変わりな巡査を演じている人気俳優マイケル・セラ(1988年生まれ)は、本作のプロデューサーにも名を連ねている。
『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』
監督・脚本/タイラー・タオルミーナ
出演/マイケル・セラ、エルシー・フィッシャー、マリア・ディッツィア、ベン・シェンクマン、グレッグ・ターキントン、マチルダ・フレミング、フランチェスカ・スコセッシ、ソーヤー・スピルバーグ
11月21日(金)より、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開
www.christmas-eve-in-millers-point.com/
© 2024 Millers Point Film LLC. All rights reserved.
提供:JAIHO
配給:グッチーズ・フリースクール
Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito
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