ジア・コッポラ監督による待望の新作! 映画『メインストリーム』 | Numero TOKYO
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ジア・コッポラ監督による待望の新作! 映画『メインストリーム』

長編映画デビュー作『パロアルト・ストーリー』から6年、ジア・コッポラから待望の新作が届いた。アンドリュー・ガーフィールドが暴走する狂気のYouTuberを怪演、相手役をマヤ・ホークが演じた『メインストリーム』だ。

アンドリュー・ガーフィールドが迷惑系YouTuberを爆演! 名門コッポラ・ファミリーの才媛が問い掛けるSNS時代の闇と罠

SNSを主題とした風刺劇。「誤解するな。俺は毒だ。フォローなんかよせ。何の価値もない男だ」などとうそぶきつつ、やがて「ノーワン・スペシャル(ただの一般人)」という名のカリスマ的な迷惑系YouTuberとして時代を撹乱しまくる。この謎めいたリンクという男を演じるのが、アンドリュー・ガーフィールドだ。 監督・脚本は1987年生まれのジア・コッポラ。ご存じ名門コッポラ・ファミリーが輩出した才媛であり、フランシス・F・コッポラの孫にして、ソフィア・コッポラの姪。ティーンたちの青春群像を繊細に描いた長編デビュー作『パロアルト・ストーリー』(2013年)に続き、今度は現代の闇と罠に警告を鳴らすような社会派エンタテインメントを放った。主演のアンドリュー・ガーフィールドは製作総指揮も兼ねており、運命が狂い出すヒロイン役にはマヤ・ホーク(ユマ・サーマンとイーサン・ホークの娘)を迎えている。

舞台はセレブカルチャーの中心地であるロサンゼルス。まずは「出会い」のシーンが秀逸だ。閑散としたモールの中にひとりぼっちで佇むフランキー(マヤ・ホーク)のもとに、ハツカネズミの着ぐるみをかぶった男が近づいてくる。マスクを取ると、無精髭に人懐っこい笑顔。まもなくリンクというこの青年は、行き交う人々に無視されている一枚の抽象絵画──ワシリー・カンディンスキーの「ブラック・アンド・ヴァイオレット」(1923年)の複製画を手にして即興のパフォーマンスを始める。その様子をスマホで撮影したフランキーは、“Eat Art”(アートを食らえ)というタイトルの動画としてYouTubeにアップ。彼女のささやかなチャンネルの中では破格の視聴回数を記録した。そして後日、フランキーはリンクと路上で再会する。チャーミングで自由奔放な彼は、私を退屈な毎日から助け出してくれる王子様かもしれない──。

もっともそれ以降のリンクは、素敵な王子様どころか、フランキーを後戻りのできない地獄巡りに導く悪魔メフィストフェレスと化していく。本作『メインストリーム』を牽引していくのは、まさしくガーフィールドのパワフルな芝居だ。レビューサイト「IndieWire」では「SNS界が生んだジョーカーのよう」とも評される爆演。ニセの巨大ペニスをぶら下げて、ハリウッド大通りをほぼ全裸で闊歩するシーンなどのインパクトは強烈!

かつてのガーフィールドの好青年的なイメージ――例えば『アメイジング・スパイダーマン』(2012年/監督:マーク・ウェブ)の高校生ピーター・パーカーや、『ハクソー・リッジ』(2016年/監督:メル・ギブソン)の敬虔な信徒の兵士(アカデミー賞主演男優賞ノミネート)、『沈黙-サイレンス-』(2016年/監督:マーティン・スコセッシ)の神父役といった生真面目で繊細な持ち味からすると、今回の“覚醒”ぶりには驚かされる。おそらく、やはりハリウッド・バビロンの香り漂うLAの街を舞台にした異色ノワールの『アンダー・ザ・シルバーレイク』(2018年/監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル)あたりから、演技並びにクリエイションのさらなる幅や多様性を求め始めたのかもしれない。

「私はアンドリュー・ガーフィールドの大ファンなのよ。私の世代で最高の俳優の1人だわ」──と、ジア・コッポラ監督は語る。『メインストリーム』の下敷きになっているのは、メディア風刺の重要な古典映画『群衆の中の一つの顔』(1957年/監督:エリア・カザン)だが、こういったレファレンスについての話も彼とはしっかり共有できたという。

1983年生まれのガーフィールドと、その4歳年下となる監督は、ともにデジタルネイティヴ初期のミレニアル世代に属する。SNSに対して批評的な距離を持つ比較的年長の彼らに対し、インターネットが完全にデフォルトになったZ世代のマヤ・ホーク(1998年生まれ)らを「翻弄される側」に据えるというのが、本作で設計された世代論的な構図だろう。ちなみに同じくSNSやセレブカルチャーを背景とするソフィア・コッポラ(1971年生まれ)の監督作『ブリングリング』(2013年)がX世代目線だとしたら、今作はミレニアル世代によるZ世代への提言といったようなバトンのつなぎ方がうかがえる。

またマヤ・ホーク演じるフランキーの良き友人であり、淡い恋心を向けるジェイク役のナット・ウルフ(1994年生まれ)は、ジア・コッポラ監督の前作『パロアルト・ストーリー』に続いての好演。今回は「現代の良心」を体現する優しい青年役だ。さらにYouTubeバラエティの先駆や原型とも評されるMTV番組『ジャッカス』の名物男だったジョニー・ノックスヴィル(1971年生まれ)が、インフルエンサーの若者たち(ローラも登場)を自身の番組に集めるベテラン司会者役で登場するのが興味深い。

インターネットの普及とともに、終わりなき名声や富を求める「ハリウッド的な病」は全世界へと広がった。ハリウッド・バビロン的な病が民主化した時代の道化たる「ノーワン・スペシャル」は、皆の欲望を反映する鏡のごとき装置として怪物化する。果たしてわれわれは何を「消費」しているのか? メディアの進化が孕む功罪について、鋭利な問題提起を放つ一本である。

『メインストリーム』

監督・脚本/ジア・コッポラ
出演/アンドリュー・ガーフィールド、マヤ・ホーク、ナット・ウルフ、ジェイソン・シュワルツマン
10月8日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開
happinet-phantom.com/mainstream

配給/ハピネットファントム・フィルム
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Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。『週刊文春』『朝日新聞』『TV Bros.』『シネマトゥデイ』などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。

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