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あのカルト的人気映画がアニメになって帰ってきた! 『クー!キン・ザ・ザ』

カルト的人気を誇る映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』のダネリヤ監督自身が同作をアニメ化した『クー!キン・ザ・ザ』が公開! 著名なチェリストのチジョフとDJ志望の青年トリクは、雪に覆われたモスクワの大通りでパジャマ姿の裸足の宇宙人と遭遇する。そして思いがけずキン・ザ・ザ星雲の惑星プリュクにワープしてしまう……。

ロシア名物のカルトSF映画がアニメーションになってやってきた!
不思議惑星で繰り広げられるシュールな名作を、奇才監督が自ら再構築

あなたは熱狂的なファンを数多く持つ、とっても可愛いカルトSF映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』をご存じだろうか?1986年のロシア――つまり旧・ソ連で製作された、やたら呑気なノリとローテク&ローファイな特撮でゆるゆると展開する、シュールなディストピア風刺もの。ソ連製のSF映画において「硬」の代表がアンドレイ・タルコフスキー監督の『惑星ソラリス』(1972年)や『ストーカー』(1979年)だとするなら、「軟」というか「珍」のシンボルが『不思議惑星キン・ザ・ザ』だ。日本では初公開が1991年。2001年にはニュープリント上映、2017年にはデジタル・リマスターが公開と、毎度皆が忘れかけていたタイミングでふわふわ~っと襲来してくれる。

そしてこの2021年に、なんとアニメーション化された“ニュー・キン・ザ・ザ”が日本にやってくる。2013年に製作された『クー!キン・ザ・ザ』だ。監督はオリジナル実写版と同じ、ゲオルギー・ダネリヤとタチアナ・イリーナ。ダネリヤ監督は2019年に88歳で逝去し、本作が遺作となった。第7回アジア太平洋映画賞最優秀長編アニメーション賞、第27回ニカ賞(ロシア・アカミデー賞)最優秀アニメーション賞を受賞している。

実写版はハリウッドの豪奢さから遠く離れたチープシックな味わいが魅力だったが、27年の歳月を経てアニメになっても、唯一無二の世界観はそのままなのが凄い。ほぼ同じルールとモチーフを基にした新しいヴァリエーションといった趣きだ。その背景にあるものを読み解けば、前作と今作の間に東西冷戦は終焉を迎え、社会主義国家のソ連からロシア連邦へと国家体制は移行したが、市場経済の混乱や監視社会の強化などが起こり、むしろ何が変わったのか?――という問い掛けを含んでいるようにも思える。

お話はモスクワの街角から始まる。主人公は著名なチェロ奏者のチジョフと、DJの若者トリク(実写オリジナルでは建築技師マシコフと音大生ゲデバンというキャラクター設定)。彼らはいかにも怪しげな裸足の異星人にうっかり関わってしまい、“空間移動装置”によって広大な砂漠にテレポートしてしまう。そこはキン・ザ・ザ・星雲の惑星プリュク。途方に暮れたふたりの前に、空から錆びた缶詰のような釣鐘型の宇宙船がやってくる――。

この惑星には独自の社会制度や言語体系が敷かれており、中盤に「チャトル=パッツ語小辞典」なるものがテロップで出てくる。プリュク星人たちは「クー!」のひと言でほとんどの言葉を済ませてしまうのだが(他に罵倒語は「キュー」、宇宙船は「ペペラッツ」など)、チジョフ&トリクの思考をトレースすることでロシア語を喋り始める。恐ろしく頭の良い宇宙人だ。こうして銀河の最果てにおける不思議な異文化交流が行われていく。

同時にプリュク星のハードコアな階級制度が明らかになってくる。支配階級のチャトル人と被差別側のパッツ人で二分化構成されており、履いているズボンの色で階級が分かれている。地球では世界的な名声を得ているチジョフも、ここでは完全に無能扱いだ。いったいどうすれば元の世界に戻れるのか? 必死に地球への帰還を模索するチジョフ&トリクだが、気がつけば「ママ、ママ、どうしよう~♪」という変な歌を合唱している……。

このように内容はなかなかピリ辛の風刺が利いているのだが、こちらの時間感覚を間延びさせるテンポがとにかく素敵で、ほのぼのと心がなごむ。釣鐘型の宇宙船がやってくる画だけで癒やされてしまう。つい何度も観たくなる……またキン・ザ・ザ惑星に行きたくなる中毒性を備えているのは、アニメ版も実写版と同じだ。今回のロードショーでは、嬉しいことに『不思議惑星キン・ザ・ザ』も同時リバイバル上映とのこと!

『クー!キン・ザ・ザ』

監督/ゲオルギー・ダネリヤ、タチヤナ・イリイナ
声の出演/ニコライ・グベンコ、イワン・ツェフミストレンコ、アンドレイ・レオノフ、アレクセイ・コルガン、アレクサンドル・アダバシヤン
5月14日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
実写版『不思議惑星キン・ザ・ザ』も同時リバイバル上映予定
URL/www.pan-dora.co.jp/kookindzadza/

© CTB Film Company、Ugra-Film Company、PKTRM Rhythm

Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。『週刊文春』『朝日新聞』『TV Bros.』『シネマトゥデイ』などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。

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