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ヒップホップが生まれた時代の生々しい空気がよみがえる! 映画『Style Wars』

1970〜1980年代のNYブロンクス地区は貧困と犯罪が蔓延するエリア。しかし、そんな灰色の町からまったく新しいサブカルチャー、ヒップホップが生まれる。無数のグラフィティを描く少年たちはライターと呼ばれ、NY中を駆ける地下鉄の壁に自身の証を記した…。彼らの瑞々しい姿と新しいムーブメントが生まれる時代の空気をフィルムに捉えた貴重なドキュメンタリー『Style Wars』が、40年を経て日本でスクリーンデビューする。

アートか、犯罪か? N.Y.サウスブロンクスの伝説がよみがえる。
ヒップホップ黎明期を記録したドキュメンタリー映画が40年の歳月を経て日本初ロードショー!

「グラフィティは名前の通り、アートではありません。塗料を何かの表面に塗ることです。あそこの文字を見てください。これはアートでしょうか? 私は美術評論家ではないですが、あれが犯罪であることは明らかです」

ニューヨーク市交通警察の犯罪防止コーディネーターに任命されたという捜査官の中年男性は忌々しそうな顔でこう語る。時代は1981年から83年、N.Y.サウスブロンクスのアンダーグラウンドから立ち上がった伝説の記録(冒頭のテロップでは“New York City,1982”と表示される)。1983年に製作された『Style Wars』は、ヒップホップ黎明期の現場を生々しく捉えた傑作ドキュメンタリー映画だ。1984年にはサンダンス映画祭でグランド・ジュリー・プライズ賞を受賞。『ワイルド・スタイル』(1982年)などと並ぶヒップホップヘッズのバイブルとして、日本でもかつてヴィデオソフトやDVDが発売されていたが、劇場のスクリーンで公開されるのは今回のデジタル修復版が初めてとなる。

シュガーヒル・ギャングの1980年の名曲“8th Wonder”から始まる本作は、ヒップホップカルチャーの中でも、とりわけグラフィティ(直訳すれば「落書き」)に重点を置いている。NYを走る地下鉄車両にスプレーなどで“公共物侵害”を繰り返す、グラフィティ・ライターと呼ばれる10代のキッズたち。Netflixオリジナルドラマ『ゲットダウン』(2016~17年)、あるいはマーク・ウェバー主演の劇映画『ボム・ザ・システム』(2003年/監督:アダム・バラ・ラフ)などでも描かれているように、彼らのライティングは秩序への“BOMBING”(爆撃)を象徴する。ストリートの壁に描くアートフォームは1970年代初頭に誕生した。パイオニアの一人であるTAKI183という黒人青年のことなど、ヒップホップ以前のルーツも映画の中で丁寧に紹介されている。

本作にはのちにビースティ・ボーイズやパブリック・エネミーのロゴデザインなどを手がけるHAZEほか、実際のグラフィティ・アーティストがたくさん登場しているが、意外に白人も多い。『ワイルド・スタイル』や『YO! MTV RAPS』のタイトルロゴを手がけたことで有名なREVOLT(ヴァン・ヘイレンのTシャツを着ている!)はこう語る。「世間はグラフィティをやるのは黒人かプエルトリコ人だと思い込んでいるんだ。白人のライターもいっぱいいるよ」。

ヒップホップ並びにグラフィティというと「黒人文化」のイメージで語られがちだが、実際は当時から人種の限定性にも囚われていなかったことがよくわかる。グラフィティ・ライターたちの「敵」となるのは、彼らに理解を示さない母親、教師、警察、一般市民たち。さらにさまざまな著名人たちがグラフィティに警告する啓蒙ヴィデオや、ともにプエルトルコ系の人気ボクサーであるヘクター・カマチョとアレックス・ラモスをポスターに起用し、”MAKE YOUR MARK IN SOCIETY, NOT ON SOCIETY(壁に名を残さずに、社会に名を残そう)”というスローガンを掲げた落書き防止キャンペーンの様子なども紹介されている。

果たしてアートか、犯罪か――? この自由な若き表現者たちと堅固な体制側の”Wars(戦争)”をめぐるドキュメンタリー映画は、ひりひりした緊張感の中で新しいリアルカルチャーが醸成されていったことがよく伝わってくる。例えばバンクシーが奇妙なほど市民権を得て、異常な高値で取り引きされる現在、ストリートアートが既成の制度に取り込まれるという矛盾や本末転倒がなし崩しに許容されている。表現の本来的な価値とは何か?についての問題提起としても、約40年を経てよみがえる本作は必見だ。

『Style Wars』

監督/トニー・シルバー 
プロデューサー/トニー・シルバー、ヘンリー・シャルファント
出演/Skeme、Min、Seen、Dondi、Zephyr ほかグラフィティライター、Rock Steady Crew、Dynamic Rockers
2021年3月26日(金)より、ホワイトシネクイント、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
synca.jp/stylewars/

©MCMLXXXIII Public Art Films, Inc. All Rights Reserved

Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。『週刊文春』『朝日新聞』『TV Bros.』『シネマトゥデイ』などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。

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