脚本家・坂元裕二が贈るラブストーリー。映画『花束みたいな恋をした』 | Numero TOKYO
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脚本家・坂元裕二が贈るラブストーリー。映画『花束みたいな恋をした』

脚本家・坂元裕二が2020年の東京を舞台に、今を生きるすべての人へ贈るため書き下ろした最新作、映画『花束みたいな恋をした』がいよいよ公開される。主役を演じるのは実力派俳優、菅田将暉と有村架純。2021年のラブストーリー決定版と名高い本作、お見逃しなく!

「時代」を描き続ける稀代の名脚本家、坂元裕二。
菅田将暉&有村架純と共に打ち上げる、「今」に贈る珠玉のラブストーリー

トレンディドラマの代表作『東京ラブストーリー』(1991年/フジテレビ系)から、シリアスな社会問題を扱った『Mother』(2010年/日本テレビ系)や『Woman』(2013年/日本テレビ系)、『それでも、生きてゆく』(2011年/フジテレビ系)や『問題のあるレストラン』(2015年/フジテレビ系)。さらに『最高の離婚』(2013年/フジテレビ系)、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016年/フジテレビ系)、『カルテット』(2017年/TBS系)、『anone』(2018年/日本テレビ系)など、いつも時代に寄り添いながら、長きに渡って連続テレビドラマの第一線を歩んできた名脚本家、坂元裕二。

そんな彼が長編映画として書き下ろした新作が、珠玉のラブストーリー『花束みたいな恋をした』だ。坂元裕二が映画の脚本を手がけるのは『世界の中心で、愛を叫ぶ』(2004年・伊藤ちひろと共同)など希少であり、オリジナル作品では監督も務めた『ユーリ』(1996年)以来となる。

主役を演じるのは、菅田将暉と有村架純。執筆段階から坂元が主演に想定していたふたりによる初のW主演が実現。

監督を務めるのは、昨年の『罪の声』のヒットが記憶に新しい土井裕泰。『愛していると言ってくれ』(1995年)や『ビューティフルライフ』(2000年)から、『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年)や『凪のお暇』(2019年)など、長年TBS系ドラマの金字塔群を演出してきたベテランのトップディレクターであり、有村架純主演の『映画 ビリギャル』(2015年)ほか、『いま、会いにゆきます』(2004年)などのヒット映画も手がけている。坂元とはドラマ『カルテット』で組んで以来、映画では初のタッグ。まさに日本のテレビドラマ界を代表するW名匠が、映画という場所で勝負を掛けた一本だ。

冒頭シーンは2020年。同じカフェ内に居合わせた2組のカップルの、それぞれ片方の男女の目が合う――。

時代は遡り、2015年。東京・明大前駅で終電を逃し、偶然に出会った21歳の麦(菅田将暉)と絹(有村架純)。それまでまったく見知らぬ仲だったふたりなのに、同じ白のジャックパーセル(コンバースのスニーカー)を履き、カフェの中で見かけた押井守監督(ご本人が特別出演!)を「神」と呼び、ともに映画の半券を文庫本の栞代わりに使っている。

あっという間に恋におちたふたりは、やがて多摩川沿いのマンションで同棲生活を始める。アルバイトや就活など、いつでもふたりで一緒にいた20代の日常 ―― そして知らず知らずのうちに起こっていくすれ違いや関係の亀裂。感情の機微がいっぱい詰まった忘れられない5年間の行方を描く。

例えば『ラ・ラ・ランド』(2016年/監督:デイミアン・チャゼル)のように、これはボーイ・ミーツ・ガールを起点とした「恋愛という時間の一部始終」を見つめた作品だ。ただし映画の出だしで、ふたりはもう別れている、ということを提示してから、回想に入り、終わった恋の次第を丁寧に追っていく構成が大きなポイントになっている。

また本作は、2015年からの時代的に重要なトピックが刻まれた最新のクロニクル(年代記)でもある。好きな音楽や映画や小説や漫画がほとんど同じだった麦と絹。瑞々しいカルチャートークに彩られたふたりの日常には、様々な作品が生活必需品のようにともにある。

きのこ帝国の「クロノスタシス」をカラオケで一緒に歌い(ちなみに劇中には実在のバンドとして、Awesome City Clubが登場。メンバーのPORINはファミレスの店員役を演じる)、今村夏子の小説『ピクニック』や、野田サトルの漫画『ゴールデンカムイ』などを愛読。映画ではホン・サンス監督の『自由が丘で』やロマン・ポランスキー監督の『毛皮のマリー』、2017年に4Kデジタルリマスター版が公開されたエドワード・ヤン監督の『牯嶺街少年殺人事件』(1991年)などについて言及される。同時にこの時期はストリーミングサービスの台頭も。Netflixの日本配信がスタートしたのは2015年9月。絹は米ドラマシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』や『マスター・オブ・ゼロ』を追いかけている。そして2017年のクリスマスに、麦と絹が渋谷のミニシアター「ユーロスペース」で観るのはアキ・カウリスマキ監督の傑作『希望のかなた』だ。

このままふたりでずっと一緒にいたいと何度も思いながら、いくつもの季節、恋する月日を過ごし、やがて別れを迎える麦と絹。ビタースウィート、あるいはハッピーサッドな結末 ―― しかしこの映画が与えてくれるのは、あまりに絶妙な後味だ。なんだか爽やかで前向きな気分になる、最高の余韻にぜひ浸っていただきたい。

『花束みたいな恋をした』

脚本/坂元裕二  
監督/土井裕泰
出演/菅田将暉、有村架純、清原果耶、細田佳央太、オダギリジョー、戸田恵子、岩松了、小林薫 ほか
2021年1月29日(金)より、全国公開

配給/東京テアトル、リトルモア
© 2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「シネマトゥデイ」などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマクラブ』でMC担当中。

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