ロックと自由を追い求める姿に熱くなる! 映画『LETO -レト-』 | Numero TOKYO
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ロックと自由を追い求める姿に熱くなる! 映画『LETO -レト-』

カンヌ国際映画祭にてサウンドトラック賞最優秀作曲家賞を受賞した映画『LETO -レト-』。ロシアの伝説的バンド「キノ」のヴォーカルであるヴィクトル・ツォイのデビュー期を基に、彼の才能を見出したロックシンガーのマイク・ナウメンコ、そしてその妻ナターシャの3人をモデルとし、ペレストロイカ目前のレニングラードで純粋に〝自由″と〝音楽″を追い求めた若者たちのひと夏を描く。

自由と音楽を追い求めたレニングラードのひと夏。
モノクロームで描かれる旧ソ連ロックレジェンドたちの青春

なんてイノセントな輝きにあふれた音楽青春映画だろう。時は1981年の夏。ブレジネフ時代末期の旧ソ連――資本主義諸国の西洋文化が厳しく統制されていた頃、レニングラードでは、英米のロックの影響を受けたアンダーグラウンド・ロックシーンが芽生え始めていた。

本作はロシアの伝説的バンド「キノ」のヴォーカルであるヴィクトル・ツォイ(映画『僕の無事を祈ってくれ』(1988年/監督:ラシド・ヌグマノフ)の主演でも知られる)と、その先駆者的存在であったロックシンガーのマイク・ナウメンコ、また彼の妻ナターシャの3人をモデルとした実話ベースの物語だ。ペレストロイカ(ゴルバチョフ政権が行った改革運動)目前のレニングラードで、自由と音楽を追い求めた若者たちのひと夏を描く。美しいモノクローム映像(時にパートカラーが入る)で綴られる青春の風景は、ノスタルジックでありながら瑞々しい澄明感に満ち、甘酸っぱくもほろ苦い情感にあふれている。

物語は人気沸騰中のバンド「ザ・ズーパーク」のパフォーマンスで始まる。当時のライヴでは共産党の監視のもと、観客は静かに座ってステージを鑑賞することを強要された。さらにミュージシャンは歌詞をチェックされる。ソ連ではロックミュージシャンにも、体制の指導方針に沿う模範的な人格が求められたのだ。

そんな制限下で精一杯の活動を続け、困難な状況を切り開いてきたカリスマにして「ザ・ズーパーク」のリーダー、マイク・ナウメンコ(ローマン・ビールィク)のもとに、ある日、ロックスターを夢見るヴィクトル(ユ・テオ)が訪ねてくる。彼の才能を見い出したマイクは、ともに音楽活動を行うようになるが、その一方で、マイクの妻ナターシャ(イリーナ・ストラシェンバウム)とヴィクトルの間には淡い恋心が通い始めていた……。

マイクとナターシャ、ヴィクトルの浮遊した三角関係を物語の軸としつつ、この映画の生命線となるのはロックへのピュアな「憧れ目線」だ。
1960年代後半から1970年代にかけての英米(つまり本場)のロックレジェンド ―― T・レックス、デヴィッド・ボウイ、ボブ・ディラン、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、セックス・ピストルズなどなどについて熱く語り合い、オープンリールのテープで楽曲を聴かせ合い、非合法なのでなかなか手に入らない貴重なレコードのジャケットを模写する。純情という言葉が似合うさまざまなロックアイテムの引用。日本の音楽シーンも英米ロックへの憧れが原動力となり、成果と更新を積み重ねてきた歴史があるが、このロシアンロッカーたちの姿勢は輪をかけてストレートに思える。

特に演出的なハイライトは、列車の中でトーキング・ヘッズの「サイコ・キラー」が、バスの中でイギー・ポップの「ザ・パッセンジャー」が流れ、乗客たちが歌い継ぐ祝祭的な流れの中に、簡素なアニメーションが重なるところ。このミュージカル風のシーンを“踊ってはいけない国”のファンタジーとして差し出す。不自由な時代状況だからこそ妄想を働かせた遊び心も素敵だ。

全編には英米ロックの音源や伝説のロシアンロックのカヴァーのほか、オリジナル曲も使われる。東西文化のミクスチャーともいえる音楽を手がけたのは、マイク・ナウメンコ役を演じたローマン・ビーウィク。彼はロシアの人気ロックバンド「ズベリ」のヴォーカリスト兼ギタリストであり、本作で第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門のサウンドトラック賞最優秀作曲賞を受賞した。

ちなみにヴィクトル・ツォイは1990年8月15日、公演先の交通事故で死亡。享年28歳。マイク・ナウメンコも、翌91年に36歳で死亡。奇しくも夭折の悲劇が続き、ともに永遠のロックアイコンとなった。

監督は1969年生まれのキリル・セレブレンニコフ。演劇を中心にテレビ、映画と幅広く活動する演出家だが、反体制的なアート活動が要因で国に拘束され、現在もロシア政府の監視下にある。この『LETO -レト-』は一年半に及ぶ自宅軟禁のさなかに完成させた。
セレブレンニコフ監督はいまも裁判で係争中だが、一方で『惑星ソラリス』(1972年)や『ノスタルジア』(1983年)の監督であり、表現の自由を求めてソ連からパリに亡命した映画作家、アンドレイ・タルコフスキー(1932年生~1986年没)の伝記作品をリミテッド・シリーズで製作することが予定されている。

『LETO -レト-』

監督:キリル・セレブレンニコフ  
出演:ユ・テオ、イリーナ・ストラシェンバウム、ローマン・ビールィク
7月24日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
leto-movie.jp

(C)HYPE FILM, 2018

Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「シネマトゥデイ」などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマクラブ』でMC担当中。

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