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アルモドバル監督が贈る人生賛歌『ペイン・アンド・グローリー』

スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督が70歳という円熟期を迎え、初の自伝的な作品を完成させた。6月19日(金)に公開される『ペイン・アンド・グローリー』だ。

スペインを代表する映画監督のエモーショナルな集大成
巨匠ペドロ・アルモドバルの自伝的な愛の賛歌

フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』(1963年)をはじめ、ウディ・アレンの『スターダスト・メモリー』(1980年)や北野武の『TAKESHIS’』(2005年)など、映画監督の苦悩や葛藤といった自己言及性をフィクショナルに昇華して描く作品群がある。その系譜に大物の新たな一本が加わった。『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年)や『トーク・トゥ・ハー』(2002年)などの傑作を生み出してきたスペインを代表する名匠、ペドロ・アルモドバル監督の自伝的作品。昨年の第72回カンヌ国際映画祭でアントニオ・バンデラスが主演男優賞を受賞。今年の第92回アカデミー賞でも2部門ノミネートを果たした。

主人公はマドリードで暮らす映画監督のサルバドール(アントニオ・バンデラス)。国民的作家と呼ばれるほどの大きな成功を収めつつ、数年前の母の死のショックと、さまざまな体調不良から引退同然の生活を送っていた。

創作への情熱も、生きる気力すら失っていた彼。そんな折、シネマテークで過去作の再上映が行われることに。この企画をきっかけに、むかし仲違いした俳優のアルベルト(アシエル・エチュアンディア)と和解の機会をつかむ。少しずつ前向きな活力を取り戻してきたサルバドールは、やがて別れた恋人とも再会することになる……。

劇中では1951年生まれで68歳になったアルモドバル自身の、人生の断片と重なる数々のエピソードが語られる。少年の頃の想い出(聖歌隊のソリストとして才能を示した、というのも実際の話だ)や、かつての熱愛、性的な目覚めなど。『セクシリア』(1982年)で映画デビューして以来の盟友にして名優、アントニオ・バンデラスがアルモドバルの分身的な主人公を親密な一体感で演じ、『ライブ・フレッシュ』(1997年)や『ボルベール〈帰郷〉』(2006年)などアルモドバル組常連のペネロペ・クルスが、サルバドール最愛の若き日の母親を演じる。

もともと虚実皮膜の間にある作風のアルモドバルだが、彼が映画監督を主人公に据え、愛や欲望といった回路を通して自己表出を反映させたのは今回が三作目。初期の『欲望の法則』(1987年)、中期の『バッド・エデュケーション』(2004年)に続くものだが、円熟期の今回はとりわけ深い洞察と哀切に満ちており、実に奥深くエモーショナルだ。否応なく忍び寄る死の気配を見つめながら、人生の精算と再生を志し、傷口からも濃密な愛の追憶がにじみ出す。“痛みと栄光”とのタイトルに込められた心情がわれわれにも染み渡ってくる。巨匠が一人の人間として、パーソナルな想いを赤裸々につづった感動の集大成だ。

『ペイン・アンド・グローリー』

脚本・監督/ペドロ・アルモドバル
出演/アントニオ・バンデラス、アシエル・エチェアンディア、レオナルド・スバラーニャ、ノラ・ナバス、フリエタ・セラーノ、ペネロペ・クルス
6月19日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国公開
pain-and-glory.jp

配給:キノフィルムズ
©El Deseo.

Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「シネマトゥデイ」などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマクラブ』でMC担当中。

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