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誰もが夢を叶える旅に出る!『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』

地味な小品かもしれない。だが観逃してほしくない珠玉の逸品! ヘタな大作に手を出すよりずっと満足度は高いはず。どこかノスタルジックな自然の風景が広がるアメリカ南部を舞台に、はみ出し者の青年二人(&聡明な女性一人)がひと夏の風変わりな旅に出る、とびきりチャーミングなバディムービーにしてロードムービーだ。

米南部の風景が優しい詩情を奏でるはみ出し者たちの旅。
まるで現代版『ハックルベリー・フィンの冒険』!?

監督は、企画を立ち上げたときはまったくの無名だった新人コンビ、タイラー・ニルソンとマイケル・シュワルツ。彼らが作った脚本とテスト映像の出来に惹かれ、『リトル・ミス・サンシャイン』(2006年)や『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(2013年)などを手がけてきたプロデューサーチームが全面バックアップ。豪華キャストを迎えて完成させ、2019年4月、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)映画祭で観客賞を獲得。やがて口コミで話題を呼び、全米で公開規模をどんどん拡大するヒットを記録した。

お話は主人公二人の奇妙な出会いを起点に動き出す。ジョージア州サバンナ郊外。最愛の兄を亡くしてから心が荒み、盗みを繰り返していた漁師タイラー(シャイア・ラブーフ)と、養護施設から脱走したダウン症の青年ザック(ザック・ゴッツァーゲン)。彼らはともに逃亡中の身であるという境遇から意気投合。タイラーはフロリダへ、ザックはその道中にあるエイデンの地を目指す。

実はザックの夢はプロレスラーで、エイデンには彼の憧れの悪役レスラー“ソルトウォーター・レッドネック”が開いている学校があるというのだ。そんなザックを捜して追ってきた施設の看護師エレノア(ダコタ・ジョンソン)も、やがてザックの夢を叶えるための旅に加わる……。

劇中、タイラーが「マーク・トウェインの世界だ」と自己言及的な台詞をつぶやくとおり、これはまさに『ハックルベリー・フィンの冒険』の現代版といえる世界だ。土着的かつ澄明感に満ちた少年性豊かな青年たちの自由な旅。全編にカントリー・ブルースが流れるなか、可愛い「自称・無法者コンビ」の冒険が開放感あふれるタッチで紡がれていく。

無垢で純粋だが並外れた怪力の持ち主、というザックを魅力的に演じるザック・ゴッツァーゲンは、本作が長編映画デビュー。彼は実際にダウン症で、監督の二人とは障がいのある俳優たちのためのキャンプで出会った。

この素敵な新鋭俳優の周りを実力派のキャストが取り囲む。まずは『トランスフォーマー』シリーズなどでおなじみのシャイア・ラブーフ。私生活ではいわゆるゴシップ記事を賑わせるお騒がせ俳優としても知られるが、今回はアウトサイダー特有の情愛と哀愁が漂っており、もう絶品。そして紅一点、エレノア役のダコタ・ジョンソンが放つ清涼感。さらにベテラン名優のブルース・ダーンや、ラッパーのイェラウルフなど、優しい物語を表情豊かに成立させる素晴らしい面々が揃っている。

そう、この映画は登場する人物にみんな嫌味がない。その人肌の温度感がハンドメイドな映画の感触にぴったり合っている。筏で川下りするシーンの美しさが印象的だが、まさに自然の中から採取した木々で手作りした船舶や、あるいはログハウスのような温かみのある映画だ。

『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』

監督・脚本/タイラー・ニルソン、マイケル・シュワルツ
出演/シャイア・ラブーフ、ダコタ・ジョンソン、ザック・ゴッツァーゲン

2月7日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
tpbf-movie.jp

配給/イオンエンターテイメント
© 2019 PBF Movie, LLC. All Rights Reserved.

Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「シネマトゥデイ」などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマクラブ』でMC担当中。

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