『カメ止め』に続け! 注目のインディ映画『メランコリック』 | Numero TOKYO
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『カメ止め』に続け! 注目のインディ映画『メランコリック』

『カメラを止めるな!』以降、日本発のインディペンデント映画に注目が集まるなか、長編一作目となる新人監督が国内外の映画祭で連続受賞の快挙。8月3日に公開の、オリジナリティあふれるストーリー展開から目が離せない映画『メランコリック』とは。

ポスト『カメ止め』のつもりで観ると、さらに驚く!?
憂鬱な日常の表と裏をスリリングに描く、新時代のハイブリッド型娯楽映画

低予算でも、無名のキャストでも、冴えたアイデアと新鮮なサプライズがあればヒットを生み出すことができる――。昨年(2018年)の驚異的なマネーメイキング作『カメラを止めるな!』の登場により、日本映画界はインディペンデント系娯楽映画への関心が高まっている。「次の『カメ止め』は何か?」をめぐって、かつてハリウッドで『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年)、あるいは『エル・マリアッチ』(1992年)などが注目された頃のような熱気を帯びている様相だ。

そのネクストブレイク期待作の筆頭に挙がっているのが、新人監督・田中征爾(1987年生まれ)の長編第一作『メランコリック』である。すでに昨年の東京国際映画祭で日本映画スプラッシュ部門監督賞を受賞。今年はウディネ・ファーイースト映画祭(イタリア)で新人監督作品賞(『カメ止め』は昨年の同映画祭で観客賞第2位)、ニッポン・コネクション(ドイツ)でニッポン・ヴィジョンズ観客賞を獲得しており、受賞歴の華々しさからも面白さは折り紙付きだ。

ただし“ポスト『カメ止め』”の心積もりで観ると、意外な印象を受けるかもしれない。わかりやすいギミックとか、伏線の回収で持っていくパズル的な快楽が打ち出されているわけではない。もっと一筋縄ではいかない骨太のストーリーテリングを装備しており、複雑な世界像のレイヤー(多層性)を意識させる演出だ。独特の噛み応えがある。

ジャンルでいえば、奇妙かつ絶妙な組み合わせのハイブリッド。基本は巻き込まれ型サスペンス。そこに冴えない男の自意識を軸にしたトラジコメディが合体しており、随所に犯罪アクションの要素もある。

主人公は東大卒の学歴を持ちながら、いいトシして実家住まいのまま、ほぼ無職の暮らしを続ける鍋岡和彦(皆川暢二)。彼はひょんなことから、近所の銭湯「松の湯」でバイトを始める。しかしそこは営業時間が終われば、殺人と死体処理の場として使われていた――。

おそらく我々が生きているこの世界には、表と裏がある。普段見慣れている何の変哲もない日常風景も、ヴェールを剥がせば過剰なほどドラマティックな人生模様が渦巻いているのかもしれない。そういった日常世界の裏側を、『メランコリック』は自由に想像力を駆使して、フィクションとして丁寧に構築している。

いわば簡単に割り切れない世界を、我々が辿ったことのないコースで案内してくれる映画。犯罪や殺人をオフビートに描きつつ、おおらかでヒューマンな肌触りに作品全体が支えられているのもユニークだ。ぜひヤバい展開のスリルと、後味として残る不思議な清涼感を味わってほしい。

『メランコリック』

監督・脚本・編集/田中征爾
出演/皆川暢二、磯崎義知、吉田芽吹、羽田真 、矢田政伸 、浜谷康幸、ステファニー・アリエン、大久保裕太、山下ケイジ、新海ひろ子、蒲池貴範
2019年8月3日(土)、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、イオンシネマ港北ニュータウンほか全国順次公開
URL/https://www.uplink.co.jp/melancholic/

Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「シネマトゥデイ」などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマクラブ』でMC担当中。

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