異端にして王道のジュブナイル映画『ウィーアーリトルゾンビーズ』 | Numero TOKYO
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異端にして王道のジュブナイル映画『ウィーアーリトルゾンビーズ』

一癖も二癖もある、これまでに誰も観たことのない”超音楽冒険RPGムービー”『ウィーアーリトルゾンビーズ』が6月14日(金)に公開される。実力派の俳優陣の出演に加え、スタッフも豪華。リトルゾンビーズの衣装とヘアメイクにそれぞれ山縣良和、加茂克也、アートワークにmagmaとヌメロ・トウキョウでもお馴染みのクリエイターが名前を連ねている。

ジャパニーズ・ポップカルチャーの旗手として世界的に注目される新鋭監督・長久允。 サンダンスやベルリンで受賞の破格のデビュー!

映像×アート×ファッション×音楽への徹底したこだわりと、ポップかつ高速のストーリーテリングで、独自の世界を構築する才能。いま国際的にアツい注目を集めている新鋭の日本人監督がいる。その名は長久允(ながひさ・まこと。1984年生まれ)。

電通のCMプランナーとして頭角を現し、2017年、27分の傑作短編『そうして私たちはプールに金魚を、』が、サンダンス映画祭ショートフィルム部門(第33回)で日本映画初のグランプリを獲得。

そして待望の長編デビュー作が『ウィーアーリトルゾンビーズ』だ。すでに第35回サンダンス映画祭ワールドシネマ部門で審査員特別賞オリジナリティ賞、さらに第69回ベルリン国際映画祭ジェネレーション14plus部門スペシャル・メンション賞(準グランプリ)などを受賞。海外からの凱旋上映のような形で、いよいよ日本で劇場公開となる。

物語の主人公は両親を突然亡くした13歳の少年少女。火葬場で出会ったヒカリ(二宮慶多)、イシ(水野哲志)、タケムラ(奥村門土)、イクコ(中島セナ)は、悲しいはずなのにこれっぽっちも泣けなかった。やがて4人はゴミ捨て場の片隅でバンド“LITTLE ZOMBIES”を結成。孤児たちが組んだバンドという話題性と、中毒性の高いフリーキーな音楽性で瞬く間に人気を得て、社会現象が巻き起こっていく――。

「デフォルトで孤独」とうそぶき、“生きながら死んでいる”ゾンビのような子どもたちが、「感情」とやらを取り戻すための不思議な冒険。

長久監督は全編ハイボルテージで細かいカット割りを怒濤に積み重ねていく。なんと1800カット、180シーンからなる120分。劇中には90曲もの音楽が鳴り響く。ファミコンなどレトロな初期ゲームソフトの8ビット音楽をコンセプトにしたLITTLE ZOMBIESのオリジナル楽曲は、ブルックリンのエレクトロポップユニット、LOVE SPREADとの共作だ。

他にもパンクやジプシー音楽、オペラ『蝶々夫人』の「ある晴れた日に」、コンビニのチャイム音、ゴダイゴの「憩いのひと時」(日本映画『青春の殺人者』のエンディング曲)など、多種多様な音楽がごった煮のように詰め込まれている。さらに映画『オズの魔法使』や『台風クラブ』からカフカの小説『城』まで、さまざまなカルチャーからインスパイアされた膨大な情報量。まさにおもちゃ箱を引っ繰り返したようなワンダーランドだ。

内容はブラックコメディ的なシニカルさを基調としつつ、それでいてヒューマンな温かみにも満ちている。異端の作風にして、王道のジュブナイルもの。キャストには俳優のみならず菊地成孔、いとうせいこうなど文化人もゲスト的に迎え、新人監督のデビュー作としてはすべてが破格だといえる。

ちなみに長久監督は約10年前、『ゼロ年代全景』(2009年)というオムニバス映画の一篇『FROG』を発表しており、この知られざる初期作は『ウィーアーリトルゾンビーズ』とつながる要素がたくさんある。この機会に再上映希望!とリクエストしておきたい。

『ウィーアーリトルゾンビーズ』

監督・脚本/長久允
出演/二宮慶多、水野哲志、奥村門土、中島セナ、佐々木蔵之介、工藤夕貴、池松壮亮、初音映莉子、村上淳、西田尚美、佐野史郎、菊地凛子、永瀬正敏
2019年6月14日(金)より、全国公開
URL/https://littlezombies.jp/

©2019“WE ARE LITTLE ZOMBIES”FILM PARTNERS

Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

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