東京で、ローマで、アルフレド・ジャーのネオンに導かれる【私の土曜日16:00】 | Numero TOKYO
Art / Editor’s Post

東京で、ローマで、アルフレド・ジャーのネオンに導かれる【私の土曜日16:00】

中目黒にオープンしたばかりのギャラリーFARO WORKPLACEを訪問しました。これからオープンするシェアオフィスFARO中目黒の一角に設けられたこのギャラリー。エントランスは中目黒から徒歩15分ほどの菅刈公園近くの路地裏にあって、たどり着いたときの高揚感といったら……扉を開ける前から「来てよかった!」と思ってしまったほど。

さて。ギャラリーFARO WORKPLACEでは6月10日までアルフレド・ジャーの展示「The Future is Now」が開催中です。

哲学者エミール・シオランによるエッセイ集「A Short History of Decay」(崩壊についての短い歴史/1949) の詩の一節を引用した作品。

BE AFRAIND OF THE ENORMITY OF THE POSSIBLE
可能性のもつ非道さを恐れよ

鮮やかな赤、オレンジ、黄色という警告の色で注意を引くネオン。時代や鑑賞者それぞれの関心や状態によって、捉え方が全く違って見える作品ですが、悩み多きミドルエイジとなった現在の私は、この書体もあいまって優しさを感じます。

こちらはアメリカの写真家アンセル・アダムスの言葉

YOU DO NOT TAKE A PHOTOGRAPH. YOU MAKE IT.
写真は撮るものではなく、創造するものだ

を引用した作品。手前にポスターが彫刻のように積み重ねられていて、鑑賞者も手に取ることができます。70cm×70cmのポスター、額装したらとても素敵なはずなので、ぜひ晴れた日に訪れて持ち帰ることをおすすめします。

オーナーが細部までこだわり抜いたという空間はとても気持ちよくて、小さなギャラリーなのですが大きな作品も存分に堪能できました。ほかに、80年代にNYのタイムズスクエアの巨大な電光掲示板に流した作品を元にした写真作品「THIS IS NOT AMERICA」などもあり……(動画を見るとさらに面白いです!)。

そして。ギャラリー担当の方とのおしゃべりがはずんで、まだ内装準備中のシェアオフィスのほうもご案内いただけることに。

オフィスの中にもアート作品がそこかしこに自然と飾られていて、おしゃれなのですが床や家具の選び方のおかげか親しみやすさもある居心地のよい空間でした。

宮島達男、ライアン・ガンダーの作品も、めっちゃ贅沢に! こんな最高の環境で仕事してみたい……と妄想が止まりません。シェアオフィスをお探しの方は要チェックです。

さて。蛇足ですが、はじめに紹介したアルフレド・ジャーのネオンの作品。実は昨年末に滞在したイタリアで同じ作品を観たばかりだったので、空間によってこんなにも作品の見え方、捉え方が異なるとは! と、あらためて思い知らされました。

22年末、ローマで訪れた「CRAZY」展にて。
22年末、ローマで訪れた「CRAZY」展にて。

雑然としたモフモフ空間自体もう雰囲気からして別物なわけですが……。「BE AFRAIND OF THE ENORMITY OF THE POSSIBLE」はいくつかエディションがあって、よく見るとFAROで展示中のエディションとこちらは(Aの横棒の部分など)ちょっとだけ違うようでした。

この企画展では他にもジャーのネオンの作品がたくさん展示されており……

I CAN’T GO ON. I’LL GO ON.

サミュエル・ベケットの小説『名づけえぬもの』の一節も、よかった。

ちなみに7月から広島現代美術館で単独の展覧会があるとのこと。夏休みに行きたい場所、楽しみが増えました。

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Profile

井上千穂Chiho Inoue フィーチャー・ディレクター。『Numero TOKYO』創刊時よりエディターとして主に特集を担当。2011年よりウェブマガジン「honeyee.com」「.fatale」の副編集長をつとめ、19年より出戻り現職。作り手の話を聞き、ものづくりの背景を知るとお財布の紐が緩みます。夜な夜な韓国ドラマに、休日は自然の中に逃避しがち。子連れ旅もお手のものな二児の母。

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