Fashion / Editor's Post

ピーター・ドイグとスティーブン・ジョーンズが語る“Dior Doig”の裏側

ディオールウィンター2021-2022 メンズ コレクションで、ピーター・ドイグとのコラボレーションが発表されてからというもの、ドキドキしながら公開を待ち望んでいました。

©Adrien Dirand
©Adrien Dirand

そして迎えたショー当日、リアルタイムで配信されたランウェイ動画には、まるでドイグの絵画の中から飛び出したようなアウトフィットが続々と登場。キム・ジョーンズの都会的でハイブリッドなセンスとコラボレーションの才覚が存分に発揮され、かつメゾンのサヴォワールフェールも詰まったコレクションに心底惚れ惚れしました。こんなに美しいファッションと現代アートの邂逅を見られるなんて!

このコラボレーションにあたりメンズ アーティスティック ディレクターのキム・ジョーンズとピーター・ドイグを引き合わせたのは、ドイグとセントマーチンズの学生だった頃から40年以上も親交のあるハットデザイナー、スティーブン・ジョーンズだったそうです。二人がコレクションの舞台裏を語ったトーク映像はこちら。

素晴らしい動画です……。スティーブン・ジョーンズが作ったウールのフェルトハットには、ドイグが自らの手で自身の作品や記憶、ディオールとのつながりにインスピレーションを得たハンドペイントデザインを描いていったとのこと。帽子がメゾンにとっても作家にとっても重要なアイテムだということはコレクションによく表れていました。

水彩のニュアンスがモヘアで再現されたニットにも途方もない情熱を感じます。クリスチャン・ディオールの愛犬ボビーを想起させる犬モチーフ、ドイグの絵画で象徴的に描かれるライオンのモチーフ。またライオンは、1949年にディオールのアトリエにいたピエール・カルダンがムッシュ ディオールのためにデザインした仮面舞踏会用コスチュームを彷彿とさせるものだといいます。

今回、キム・ジョーンズは儀式用の服装に宿る贅を尽くしたマスキュリニティに着想を得たと表明していますが、ナポレオンジャケットの再解釈や額縁のようなバロック刺繍を施したガウンのディテールなども印象的で、前述の展覧会のメインビジュアルにも使用されていた「GASTHOF ZUR MULDENTALSPERRE(ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ)」の二人を思い浮かべた方も多いと思います。作品はダム湖を写した古い絵葉書と、ドイグが学生時代に英国国立歌劇場の衣装係として働いていた際に撮った写真に由来していますが、写真をもとに絵画が生まれ、その絵画の中の人物が再びファッションに書き換えられたことに、とても感動しました。

色彩豊かでありながらシックにまとまったカラーパレット、カモフラージュも見事でしたし、「MILKY WAY」を引用した夜空もさまざまなルックを飾るとともに、メゾンのラッキーモチーフである星と共鳴しています。また、「SPEAKER /GIRL」から取り入れたという音響システムが積み重ねられた舞台、クラフトワークらの曲を使用したBPMの速いサウンドも含めて、ショーの演出そのものがひとつの作品として仕上げられていました。

©Brett Lloyd
©Brett Lloyd

ピーター・ドイグの膨大なアーカイブ作品からの引用、クチュールメゾンとしてのサヴォワールフェールの体現、アイコニックなモチーフのジュエリーへの落とし込みまで、ともすれば盛りすぎのコレクションが、フレッシュでモダンかつエレガントに、ディオールらしい世界観でまとめあげられている。あらためてキム・ジョーンズの優れたバランス感覚に感銘を受けました。服を手に取って見られる日を待ち望みながら、今は着せたいセレブリティを思い浮かべてはあれこれと妄想しています。(スペースコロニーを舞台にしたSFドラマとかも、観てみたい!)

Profile

井上千穂Chiho Inoue ウェブ・コンテンツ・ディレクター。『Numero TOKYO』創刊に参加し、エディターとして主に特集を担当。2011年に卒業後、ウェブマガジン「honeyee.com」「.fatale」の副編集長をつとめ、19年よりNumero TOKYOへ出戻り。外出自粛生活を機に念願のクラシックギターを購入。映画『ビフォア』シリーズのセリーヌ(ジュリー・デルピー)と『はじまりのうた』のグレタ(キーラ・ナイトレイ)のような弾き語りを理想に掲げ、イメトレには余念がない、二児の母。

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