編集部が選ぶ今月の一冊|舞城王太郎著『短歌探偵タツヤキノシタ』
あまたある新刊本の中からヌメロ・トウキョウがとっておきをご紹介。近年は小説に留まらず、漫画原作、翻訳やアニメの脚本なども務めている舞城王太郎の新作をお届け。
『短歌探偵タツヤキノシタ』
著者/舞城王太郎 短歌提供/木下龍也

価格/¥1,980
発行/ナナロク社
「短歌」と「謎解き」を掛け合わせた前代未聞の探偵小説
男子高校生ふたりの視点で七月一日から七夕までの七日間を二人の歌人が短歌で描いた『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』(ナナロク社)や、男性歌人と女性歌人が虚構のラブストーリーを短歌で編んだ『荻窪メリーゴーランド』(太田出版)など、物語のように楽しめる歌集はこれまで刊行されている。
そんな中、「短歌 × 謎解き」という斬新な切り口で短歌の魅力を描き出したのが、今回ご紹介する舞城王太郎による探偵小説『短歌探偵タツヤキノシタ』。「短歌探偵」という言葉がパワフルすぎるゆえにイロモノ作品だと思い込んでしまう人もいるかもしれないが、もしあなたが舞城王太郎作品が描く探偵小説のファン、かつ短歌に少しでも興味があるのであれば、手に取るべき一冊となっている。
物語は八歳のキノシタタツヤが、父親の実家がある福井県西暁町を初めて訪れ、西暁駅で見知らぬ女の子に謎めいた言葉を投げかけられたことから始まる。姉と兄とのやりとりを通して、投げかけられた言葉が短歌だと判明する中、父の従妹が数日前から行方不明になっていることをタツヤは知らされる。投げかけられた短歌を懸命に読み解き、歌に込められた真意を探るうちにタツヤは〈短歌探偵〉としての自分の役割に気づき……。
短歌と出会い、短歌探偵を名乗ったことによって生活が一変するタツヤの活躍が5つの章にわたって描かれる本作では、事件のあるところに必ず現れる一首の短歌が物語のカギとなっている。作中では、それぞれの短歌をタツヤが読み解いていく過程が綿密に描かれるのだが、この思考の軌跡とも言うべき描写が、読んでいて実に楽しく、短歌の読み解きと謎解きとの相性がこんなに良かったのかと驚かされる。
いわゆる正統派な探偵小説とは異なり、作中ではこの世の理から離れたことがいくつも起きるので、読む人を選ぶ作品かもしれない。しかし一首の短歌でも無限に解釈ができる可能性や、タツヤが言うところの「短歌ってものにそもそも備わってる読み方の自由さ」を感じさせる物語は、短歌のみならずあらゆる詩歌を読む楽しみをあらためて教えてくれ、知的好奇心を刺激してくれる。短歌探偵であると同時に、ひとりの少年であるタツヤの成長譚としても読み応えのある『短歌探偵タツヤキノシタ』、ぜひ続刊を期待したい。
Text:Miki Hayashi Edit:Sayaka Ito
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