Numero TOKYO おすすめの9月の本 | Numero TOKYO
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Numero TOKYO おすすめの2019年9月の本

あまたある新刊本の中からヌメロ・トウキョウがとっておきの3冊をご紹介。

『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』

著者/ルシア・ベルリン
訳/岸本佐知子
本体価格/¥2,200
発行/講談社

絶望に屈しない、たくましくしなやかな心

レイモンド・カーヴァーなどさまざまな作家たちに影響を与えながらも、寡作ゆえに名を遂げることなく世を去ったルシア・ベルリン。死後10年を経て出版された短篇集によって再評価された彼女の初邦訳作品集となる本書。アルコールに溺れる親族と過ごした幼少期の思い出、4人の子どもを抱えながら働くシングルマザー、アルコール依存症との闘い、末期ガンの妹と過ごすメキシコでの日々など、収録された24編の中で描かれる内容はすべて著者の体験に根ざしているという。

しかし、どの作品も決して悲痛ではなく、忍び寄るタナトスをもウィットで手懐けてしまうような彼女特有の賢明さを感じられる。独特の爽やかさとシャープな苦味を併せ持つライムのように、弛んでしまった心に小気味よい刺激をもたらしてくれる注目の一冊。

『グスコーブドリの太陽系—宮沢賢治リサイタル&リミックス—』

著者/古川日出男
本体価格/¥1,700
発行/新潮社

恒星として再話された物語が放つ、切なる祈り

震災以降、朗読活動において宮沢賢治の詩編を読む意味が根底から変わったという古川日出男。彼が文芸誌での連載において再話=リミックスした賢治作品を太陽系になぞらえつつ編纂した本書だが、災害の犠牲となって人々を救う『グスコーブドリの伝記』に関する最終章からその構造は一変する。

物語を論じる文中に《福島の子》である自身を導入し、幼少期に「身近だ」と感じていた——幸せと無限性を感じた場所だとすら過去に語っていた——郷里の森が人災の結果により消えたことをも開示する中、融化しはじめる伝記と自伝。俯き、考え、歯噛みしながら創作の道を歩み続けた賢治との同行の果てに語られる再話は、悲しみの連鎖が断ち切られることへの痛切な願いに満ちている。賢治を歌い、賢治と向き合い続ける小説家の根底に触れられる魂のドキュメント。

『なめらかな世界と、その敵』

著者/伴名練
本体価格/¥1,700
発行/早川書房

美しく清らかな才知が生んだ光彩陸離の傑作

寡作ながらも各所で高い評価を獲得し、日本SF界の逸材と謳われてきた伴名練の初短編集。無限の並行世界を行き来する少女たちの青春を描く表題作、未曾有の災害に巻き込まれた修学旅行生たちをめぐる書き下ろし作品「ひかりより速く、ゆるやかに」など、収録された全6編はそれぞれ変幻自在に文体を変えながら、心揺さぶる情景をひたすら美しく描き出す。

秘密を共有する女性同士の関係性を描く“百合”と呼ばれるジャンルの作品やジュブナイルとして捉えることも可能だが、全体主義の世界の中でかき消される個の声をすくい上げた各作品は、様式という領域すら軽やかに超越する普遍的な力を宿している。普段SF作品とはなじみがないという人にこそ手にとってほしい、奇跡の才能が紡いだ傑作集。

Text:Miki Hayashi Edit:Sayaka Ito

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2024.11.28 発売

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