読んでから聴くか、聴いてから読むか。SUPER BEAVER・渋谷龍太 初の長編小説『都会のラクダ』 | Numero TOKYO
Culture / Feature

読んでから聴くか、聴いてから読むか。SUPER BEAVER・渋谷龍太 初の長編小説『都会のラクダ』

人気ロックバンドSUPER BEAVER(スーパービーバー)のボーカル、渋谷龍太による小説『都会のラクダ』。渋谷の友人であり、音楽番組やラジオ、雑誌などで活躍中のタレント、三原勇希がレビュー。その魅力と読むべき理由とは。

好きなことを生業にするすべての人の足元を照らす、地道で愛おしい復活の物語

いちロックバンドの歩みが、小説となってKADOKAWAから出版され、こうしてNumeroに書評が載る。そういった何かしらのアクションが起こるのには、必ず理由がある。そこには誰かの思いがあるのだ。つまり、このバンドのボーカルの自伝的小説を、感度の高いNumero読者にも届けたいと思った「誰か」がいるということだ。そしてその思いに私も大いに賛同するから、今こうして筆をとっている。この小説の著者は、そういう一人ひとりの思いを全部ちゃんと実感しながら、一歩ずつ、一文字ずつ、人生という筆を進めてゆく。そんな渋谷龍太という人は、どうしようもなく魅力的なのだ。

渋谷龍太。SUPER BEAVERのライブにて。Photo:Kazuro Aoki
渋谷龍太。SUPER BEAVERのライブにて。Photo:Kazuro Aoki

私と渋谷氏は、ある音楽番組で共にMCを務めている。ミュージシャンの彼が番組の進行を司るのはその番組が初めてのことで、既に5人いたMCの中でも渋谷氏が一番年上ながら、一番謙虚な姿勢で、でも堂々と加わってくれた初回をよく覚えている。それから一年半が経った今はどうだろう。たまにMC全員が集まる回となると、楽しくて大はしゃぎする私たち子どもらを一歩引いて見守り、全てのボケ(ボケになっていないハプニングも多々)に的確なツッコミを入れてくれ、番組を成立させてくれる兄貴的存在が渋谷氏だ。キャリアもキャラクターも十人十色のゲストとも、誰とでも適切な距離を持って、豊富な話の引き出しと頭の良さ、持ち前のユーモアで心地よく盛り上がれる。それでいて本人には、譲れないこだわりや変なクセもちゃんとある。みんな、ぶーやん(普段はこう呼んでいる)が大好きなのだ。

Photo:Kazuro Aoki
Photo:Kazuro Aoki

そんな人だから、さぞ人気街道を歩いてきたのだろうと思ったらそうではない。それどころか、壮絶な環境で心も身体も潰れてしまった日々のことも、この小説には書いてある。話の始まりは高校でのバンド結成で、そこから初ライブ、某大会、メジャーデビューからの挫折、アルバイト、自主盤の制作とライブの日々、レーベルの発足、初めてのフェスに武道館、メジャーレーベルとの再契約までの17年。コロナ禍の今を見つめた「あとがき」も必読だ。挫折を味わってからのSUPER BEAVERが一歩ずつ、地に足をつけて地道に進んで来た日々のことは、音楽での成功を志す人はもちろん、楽しいと思えることで生きていきたい全ての人の足元を照らしてくれる。普通の人が誠実に、しかも楽しみながら日々を生きることで多くのものを得てきた姿には、どんな自己啓発本よりも真似したいことが書いてある。自己啓発や処世術なんて既存の言葉の入れ物には到底収まらない、愛しくていびつなエピソードが、嘘みたいな本当が、ページをめくるたびに溢れ出す。

Photo:Kazuro Aoki
Photo:Kazuro Aoki

そこまで言ってしまえるほどに、渋谷龍太の筆致は見事だ。学生時代、授業中はひたすら読書に明け暮れていたという話も頷ける。バンド人生17年を象徴するいくつかの場面の切り取りかたは、落語さながらのユーモラスで美しい起承転結。そのスピード感も、言葉のアクセルとブレーキによって自由自在。何よりそこに居る彼自身の、ひとつひとつの感情が鮮明に伝わってくる。何が虚しいのか、何が悔しいのか、なぜ許せないのか、何が誇らしいのか、何が嬉しいのか、なぜ愛おしいのか。一人一人の思いを、全ての出来事の理由を、きちんと自分ですくい上げてきた人にしか掴めないものがある。そうして結実してゆく数奇な運命に、何度も目頭を熱くした。

この小説は、SUPER BEAVERの音楽を知らない人にも面白いものだと思う。反対にSUPER BEAVERの音楽も、この歴史を知らなくとも楽しいものに違いない。でもSUPER BEAVERの音楽が、この歴史あってこそのものだと知る日が来たら、それはさらに強固でかけがえのないものになるはずだ。

『都会のラクダ』

著者/渋谷龍太
価格/¥1,650
発行/KADOKAWA

Text:Yuuki Mihara Edit:Mariko Kimbara

Profile

三原勇希Yuuki Mihara タレント。1990年、大阪府生まれ。ティーン向けファッション誌『ニコラ』でモデルとしてデビュー。現在は、音楽、スポーツ、ファッションなど多趣味を生かし、ポッドキャストや雑誌、テレビなどでマルチに活躍している。出演中の番組に、スペースシャワーTV『スペシャのヨルジュウ♪』ほか多数。著書に『令和GALSの社会学』(共著、主婦の友社)。

Magazine

JANUARY / FEBRUARY 2025 N°183

2024.11.28 発売

Future Vision

25年未来予報

オンライン書店で購入する