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あの伝説の作品が復活!『マトリックス レザレクションズ』

誰も観たことが無い未曾有の映像体験で世界中を熱狂させ、社会現象を巻き起こした映画『マトリックス』。私たちの生きるこの世界が実は「仮想世界=マトリックス」であるという衝撃的な設定だ。今もなお影響を与え続けているこの作品が、主人公ネオ役のキアヌ・リーヴスやトリニティー役のキャリー=アン・モスらに新キャストを迎えて『マトリックス レザレクションズ』として再登場する。(一部ネタバレを示唆する記述があります。気になる方はお気をつけください)

約20年ぶりにやってきた伝説のSF超大作『マトリックス』新章の内容はいかに!?
衝撃の「復活」(=レザレクションズ)を詳しくレポート!

まさかこんな事態が訪れるとは――! 21世紀になる目前、1999年に放たれた伝説のSF映画『マトリックス』が2021年の世に帰ってきた。主演はもちろんキアヌ・リーヴス。われわれが生きるこの世界が、実はサイバースペースに設計された「仮想現実」だったという衝撃的な設定。さらにバレットタイムと呼ばれる撮影法や、カンフーあるいはワイヤーアクションとVFXの融合など、アクション映画の概念を塗り替えた映像革命の数々。多くの「発明」とともにアイコニックなシーンを生み出した本作は、シリーズ第2作『マトリックス リローテッド』、第3作『マトリックス レボリューションズ』(ともに2003年)と続く『マトリックス』トリロジーとして、全世界で空前の社会現象を巻き起こした。のちのキアヌ主演作『ジョン・ウィック』シリーズ(2014年~)の成果なども、『マトリックス』の達成なくしては考えられない。

この三部作として一度完結したはずの、アクション超大作の約20年ぶりとなる新章『マトリックス レザレクションズ』が、いよいよベールを脱ぐ。

監督はラナ・ウォシャウスキー。彼女と一緒に共同脚本を務めたデヴィッド・ミッチェルの弁によると、「本作はトリロジーの“続編”ではありません。これまでの『マトリックス』三部作の要素を独創的な方法で取り入れた、独立した作品です。とても美しく奇妙な作品なのです」とのこと。実際、いわゆる前回までのお話の続きとは異なる趣向で、メタレベルの視座に立った切り口で新しい物語が展開していく。

まず主人公のネオことトーマス・アンダーソン(キアヌ・リーヴス)は、第一作ではハッカーという裏の顔を持つ大手企業勤務のプログラマーとして登場するが、今回はかつて伝説的なゲームソフト『マトリックス』を発表した高名なゲームデザイナーという設定になっている。
巨大な社会的成功を手にし、経済的には何不自由ない生活を送っているトーマス。しかしそのゲームの作品内容は、自分が実際に体験したものではないか――。「夢とは思えない夢を見た」と彼は頻繁なフラッシュバックに悩まされ(この描写で過去三部作のシーンがたっぷり引用される)、まるで魂の抜け殻のように、虚無的で情緒不安定な日々を過ごしている。劇中でワーナー・ブラザースが強引に『マトリックス4』の制作を進めていたりなど、笑えるパロディ要素もあるが、偉大な自作の呪縛に苛まれている点は、ラナ・ウォシャウスキー監督の自意識が率直に反映されているのかもしれない。

そんなトーマスのセラピーを担当している新キャラクターが、青い眼鏡をかけた心理カウンセラー(ニール・パトリック・ハリス)だ。彼はいつもネオに大量の「青いピル」を処方している。過去作の設定をおさらいしておくと、マトリックスの真実を知ることができる「赤いピル」に対し、何事もなかったように今までの生活に戻れるのが「青いピル」。かつてのトーマスは「赤いピル」を飲むことを選択し、救世主ネオとしての覚醒への道に進んだのだが……。これを踏まえると、このカウンセラーはトーマス/ネオの“覚醒”を阻害しようとする人物だと判断できる。

さて、そんなトーマスを新たな道へと導くのは、やはり新キャラクターのバッグス(ジェシカ・ヘンウィック)だ。彼女は伝説の救世主ネオを崇拝する青い髪の若い女性。腕には白ウサギのタトゥーを入れている。これは第一作でも引用されたルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』で、少女アリスを異世界へと通す回路となる「ウサギの穴」を指すもの。また挿入曲として、この主題にちなんだサイケデリック・ロックバンド、ジェファーソン・エアプレインの1967年の名曲「ホワイト・ラビット」が流れる。

そしてバッグスとコンビを組むのが新生モーフィアスだ。過去シリーズではローレンス・フィッシュバーンが演じてきたモーフィアスだが、その名前と役割を引き継ぐ形で、本作では『アクアマン』(2018年)のブラックマンタ役や『キャンディマン』(2021年)の主演などを務めるヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世が演じている。

こうして虚ろな“現実”を生きているトーマスは、救世主ネオを求めるバッグスとモーフィアスから「赤いピル」を差し出される。果たして彼にはどんな冒険と試練が待ち受けているのか――!?

先ほど「メタレベルの視座に立った切り口」と紹介したが、全体としては第一作の主題を新しい観点で語り直したような作風といえようか。そこで最大のキーパーソンとなるのは、過去三部作でネオの恋人だったトリニティー(キャリー=アン・モス)である。彼女は「ティファニー」という名の主婦として登場。かつてネオとともに人類を救う闘いに身を投じた戦士トリニティーの面影は感じられず、夫と子どもを持つ穏やかな女性としてネオの前に現れる。本作の二人は初対面のようだ。しかし握手を交わした瞬間、彼女は思わずネオに対し「前に会った?」と声をかける。

そこからデジャヴ(既視感)を映画的に活用したヒロインの二重性――ネオとトリニティー/ティファニーの関係をめぐって、アルフレッド・ヒッチコック監督の『めまい』(1958年)を彷彿させるラブストーリーやミステリーが展開する。だが物語の核心としては、いったい誰が世界を救うのか――すなわち「救世主の再定義」が肝となる。

今回浮上したのはジェンダー問題だ。周知の通り、かつて「ラリー&アンディ・ウォシャウスキー兄弟」と名乗っていた『マトリックス』の監督は、やがてトランスジェンダーであることを公言し、性別適合手術を受けて「ラナ&リリー・ウォシャウスキー姉妹」となった。そしてもともと『マトリックス』は、トランスジェンダーの葛藤を反映させた物語でもあった、という最近のリリーの発言もある。
こうして満を持して、旧三部作でやり残したこと――男性優位の「旧世界」を打ち破る世界観を今回打ち出した。#MeToo運動などと連動・同期するかのように、世界を新しく作り直すためには、「空を虹色(レインボウ)に染める」ことが必要だと――。

レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの「WAKE UP」を主題歌として据えた『マトリックス』は、システムの奴隷であることから目覚めよ、との思想性が核にある。今回は女性ヴォーカル――BRASS AGAINST(ブラス・アゲインスト)のカヴァーによる「WAKE UP」でエンディングを締めていることは象徴的な“変換”だ。

また、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)や『AKIRA』(1988年)、あるいは『ドラゴンボール』(1986年~)など、日本のアニメーションからたっぷり影響を受けていることも『マトリックス』トリロジーの重要な特徴。今回は悪夢のモチーフが共通する『鬼滅の刃 無限列車編』(2020年)への茶目っ気たっぷりのオマージュが楽しい。
まさしく2021年の「今」にふさわしいニューヴァージョン――『マトリックス』の華麗な復活を見届けよう!

『マトリックス レザレクションズ』

監督/ラナ・ウォシャウスキー
出演/キアヌ・リーヴス、キャリー=アン・モス、ジェイダ・ピンケット・スミス、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、
プリヤンカ・チョープラー・ジョナス、ニール・パトリック・ハリス、ジェシカ・ヘンウィック、ジョナサン・グロフ、クリスティーナ・リッチ
12月17日(金)より、全国公開
matrix-movie.jp

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Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。『週刊文春』『朝日新聞』『TV Bros.』『シネマトゥデイ』などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。

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