戦前と戦後でエンターテインメントはこんなに違う[前編]/菊地成孔×伊藤俊治 対談連載 vol.11
Vol.11 戦前と戦後でエンターテインメントはこんなに違う[前編]
ドイツでは若い世代が戦争や東西の壁の記憶を失いつつあり、それが問題視されているという。では日本ではどうなのか? 戦前から戦後、そして現代にかけて移り変わってきた若者カルチャー。映画や芸能を絡めながら日本の戦前と戦後について見つめる。
戦後の芸能にあふれていたバイタリティ
──伊藤先生は海外から戻られたばかりとのことですが、今回はどちらへ行かれたんですか?
伊藤俊治(以下I)「「ドクメンタ」を見に行ったドイツからスタートして、フランス、イタリア、オーストリア、チェコ、スロバキアを回りました。ドイツで特に感じたのが、若い世代が戦争や東西の壁の記憶を失いつつあって、それが問題視されているということ。冷戦構造が終わった1989年以降生まれの22、3歳くらいの人たちって、かつて東西を分ける壁があったとか、DDR(東ドイツ)時代のことを全然知らないという事態が起こっている。ドイツは戦争責任を徹底的に国家として引き受けた国だから、若い世代が歴史や時代を正確に感知していないことが大きい問題になっているんです。ダニエル・リベスキンドという、9.11のワールドトレードセンター跡地再開発のコンペで優勝したスター建築家がいますが、彼が設計したドレスデンの戦争博物館も今年完成したということで見に行きました。新古典主義の建物に巨大なガラスの楔(くさび)が打ち込まれているような異様な博物館でびっくりしたんだけど、それをドイツ連邦軍が百数十億をかけて造ったんです。ヨーロッパの中枢部で戦争がない状態が70年近く続いているのって今がはじめてでしょう。そんな状況もあって、ドイツは今、戦争を徹底的に問い直そうとしている。歴史を知らない若者たちのために、実は今、壁をもう一度ある部分だけ造ろうという計画すら持ち上がっているらしいです。日本とはやはりちょっと違いますよね」
▶続きを読む/日本の戦争を振り返るという企画に参加しました