アンリアレイジ 森永邦彦×サラ・アンデルマン対談。パリから原宿へ、10年の交流から生まれたA to Z

森永邦彦による「アンリアレイジ(ANREALAGE)」が、パリでの25回目のコレクションとなる2027年春夏の発表を記念し、10月29日、東京・原宿に特別なショップ「JUST AN REAL AGE by JUST AN IDEA」をオープンした。パリの伝説的セレクトショップ「コレット(colette)」を手掛け、現在は「ジャスト・アン・アイデア(JUST AN IDEA)」を主宰するサラ・アンデルマン(Sarah Andelman)との協業により、10月2日から5日までパリ・マレ地区で開催された展覧会とショップを発展させたもの。
AとZが重なるブランドロゴにちなんで、店内にはサラがキュレーションした日用品のシリーズ「A to Z 26 Iconic Items」が並ぶ。AのApple(大理石のリンゴ)からZのZester(おろし金)まで、アルファベット26文字それぞれにちなんだアイテムが揃う。さらに、パリで発表してきた2015年春夏「SHADOW」から2027年春夏「SKIN」までの25のコレクションのルックも、入れ替えながら展示される。
2人の出会いは約10年前のパリ。長年の交流を経て実現した今回のプロジェクトについて、森永とサラに話を聞いた。
──お二人の出会いは、2016年春夏コレクション「REFLECT」のショーだったそうですね。当時の印象を教えてください。
サラ・アンデルマン(以下、サラ)「一目見て惹かれました。強いビジョンを持った、ほかにはないブランドだと感じたんです。クラフツマンシップと革新性が共存していて、『もっと知りたい』『この先どんな進化を遂げるのだろう』と思いました」
森永邦彦(以下、森永)「僕がパリで発表を始めたのは2014年ですが、サラさんが『コレット』を通して日本のブランドを紹介していたことは以前から知っていました。僕にとってはファッションの神様のような存在。東京にいた頃はショーを見てもらえるなんて想像もできませんでした。パリで初めて来てくださった日のことはよく覚えています。その後も服をオーダーしてくださったり、コロナ禍のデジタル発表でもアイテムのスワッチを取り寄せてくださったり。10年間交流が続いてきたことがうれしいですね」

──サラさんは最初に購入したアンリアレイジのアイテムを覚えていますか?
サラ「逆さまに落ちるドット柄のコートだったかしら」
森永「2021-22年秋冬『GROUND』ですね。モデルが逆さまになって天井を歩く映像で発表したシーズンで、水玉が重力に逆らうように落ちるデザインでした」
──サラさんはショップやプロジェクトを通じて、「コム デ ギャルソン」や「サカイ」といった多くの日本ブランドをパリで紹介してきました。日本のデザイナーたちに共通する魅力はどんなところにあると思いますか?
サラ「日本ならではの構築的な発想です。生地やものづくりのクオリティーは世界最高峰ですし、服の構造や形に必ずひとひねりがある。アンリアレイジの球のフォルム、サカイのボリューム、コム デ ギャルソンには多彩な表現があります。それぞれ独自の言語で、服を違う角度から見つめているところが好きです」

対話から生まれた「A to Z」
──この企画の構想はいつからスタートしたのでしょうか。
森永「1シーズンほど前から、過去のコレクションを見せる機会が作れたらと話していました。本格的に動いたのは2〜3カ月前。短期間で実現しました」
サラ「もともとは今年の春頃から何かできたらと話していたのですが、7月頃に森永さんの熱意が一気に高まって、『これは本当に実現するんだ』と感じました。そこから9月までの間に、一気に形にしていったんです(笑)。 このプロジェクトで最初に声をかけた一人が、ダフト・パンク(Daft Punk)のトーマ・バンガルテル(Thomas Bangalter)でした。アンリアレイジのショーのために制作された音楽をレコードとして残したいというのが最初に生まれたアイデアでした」
森永「トーマには2シーズンのショー音楽を担当してもらいました。彫刻家の名和晃平さんから振付家のダミアン・ジャレ(Damien Jalet)を紹介してもらい、二人のコラボレーションの舞台で僕らが衣装、トーマが音楽を手がけたのがきっかけです。トーマとサラさんも元々親交があって、すべての縁が自然につながっていました」

日本の手仕事と、パリのアトリエが出会う
──「A to Z 26 Iconic Items」はどのように制作していきましたか?
サラ「すべては会話の中から自然に生まれました。パリでの展覧会では、25回のコレクションを振り返る企画を考えていましたが、『ジャスト・アン・アイデア』らしい視点も加えたかったんです。そこで、AとZが重なり合うアンリアレイジのロゴに着想を得て、アルファベットごとに26のアイテムを制作することにしました。卓球のラリーのように、お互いにアイデアを投げ合いながら形にしていったんです」
──アイテムには、日本の職人やメーカーとの協業が多く見られます。
サラ「私は長年日本に訪れているので、風呂敷や手ぬぐい、お守りといった文化には親しみがありました。アルファベットの中には難しい文字もありましたが、例えば『K』は『けん玉』がぴったりでしたし、『M』は日本酒を飲む器として知っていた枡を選びました。一見ランダムに見えても、すべてアンリアレイジのDNAにつながるよう意識しています。花を閉じ込めたハンガーは以前からブランドにあったものですし、ベアブリック(BE@RBRICK)もアンリアレイジの世界観に欠かせないもの。高価なジュエリーから手頃な品まで、誰もがお気に入りを見つけられるラインアップにしたかったんです」
左から:KENDAMA ¥6,380、MASU ¥7,480、HANGER ¥31,900、CANDLE ¥19,800
──特に思い入れのあるアイテムを教えてください。
森永「ハンガーですね。東京でコレクションを発表する前から作っていたもので、洋服店に並ぶハンガーは黒か白が当たり前でしたが、ブランドのプロダクトとして販売されることはほとんどありませんでした。花を樹脂の中に閉じ込めているので、一点一点すべて表情が異なります。お守りはフォトクロミック素材を使っていて、室内では真っ白ですが、紫外線を浴びると色が現れます。パリでは完売しましたが、東京での開催に合わせて追加で制作しました」
サラ「もちろん全部お気に入りですが、一つ挙げるならキャンドルですね。パリのサントノーレ通りで、かつて『コレット』があった場所の向かいに工房を構える『アトリエ セラ(Atelier Cera)』が手掛けています。型を使いながら、一つひとつ手作業で制作されているんです。火を灯すと少しずつ形を変えていきますが、そのままオブジェとして飾っても美しいと思います」

──実現が最も難しかったものは?
サラ「おそらくキルトだと思います。過去25シーズンのコレクションの生地をパッチワークでつなぎ合わせたタペストリーになっていて、布のピースの数は……」
森永「約2000枚です」
サラ「2000枚! 本当にクチュールのような作品ですよね。25シーズン分の歴史が一枚の中に凝縮されていますし、とても特別なピースだと思います」
──パリで行ったイベントでは、25シーズンのルックを一堂に展示されました。原宿の店内でも、厳選した過去のルックを展示しています。
サラ「パリでは広い会場を生かして、25のコレクションから1ルックずつを展示しました。また最新の27年春夏コレクションの作品を展示する部屋や、トーマの音楽を流す部屋も設けました」
森永「原宿で常時展示できるのは6体ほどなので、入れ替えながら25体すべてを紹介します。10年前のルックもあれば、7年前、3年前のものも、もちろん最新作もあります。コレクションの実物を見る機会は限られているので、こうして実物を間近で見てもらえることを大切にしたいと思っています」
サラ「大変な作業だと思います(笑)。でも、その分、訪れるたびに新しい発見があるはずです」

ZからAへ、再び始まる物語
──森永さんは2014年にパリへ進出して以来、12年間にわたり年2回の発表を続けてきました。25回目という節目を迎えた今、どのようなお気持ちですか?
森永「半年に一度、新しいテーマを考え、ほかにないものを作ろうと挑戦し続けてきました。振り返ると、あっという間だったという感覚ですね。一方で、最初にやっていたことと今やっていることはつながっていて、変わらない部分と進化した部分がある。10年以上前に取り組んだ色が変わる糸も、今また新たな形で届けられているのがうれしいですね。ロゴの最後のZが最初のAにつながるように、今は新しい始まりの時期だと思います」
サラ「不死鳥のように、再び生まれ変わるということですね」
森永「まさにそうですね。不死鳥は2027年春夏コレクションのコンセプトでもありました。コム デ ギャルソンはパリでの発表を45年も続けていますし、僕も先輩たちの背中を追いながら、長く続けていきたいと思っています」
──サラさんは、これからのアンリアレイジにどんなことを期待しますか。
サラ「コム デ ギャルソンのように広く知られるブランドになってほしいですね。ビヨンセのツアー衣装を制作されたことも特別な出来事でしたが、ショーピースと日常で着られる服のバランスを見つけて、もっと多くの方に着てもらうこと。昨日と今日と原宿でアンリアレイジを着ている人たちを見かけて、とてもうれしかったんです。そして、アンリアレイジのビジョンは、香水やビューティなど、服以外の領域にも可能性があると思います」
──森永さんは11月に地元の国立駅開業100周年を記念したランウェイショーを行われますね。どんな思いで臨みますか?
森永「自分が生まれ育った街で、しかも100周年という節目の年にショーができるなんて、本当に夢のようです。パリのショーをまだ見てもらえていない両親や子どもたち、地元の友人たちも来てくれる予定ですし、小・中・高校生向けの招待枠も設けています。初めてファッションショーを見たときの衝撃や高揚感を届けられたらうれしいですね。ちなみに国立は、パリのシャンゼリゼ通りを手本に設計された街なんですよ」
サラ「日本のパリなのね」
──最後に、長年業界でご活躍する二人が仕事で大切にしてきたことを教えてください。
サラ「自分らしくあり続けること。そして、インスピレーションを与えてくれる人たちと仕事をすることです。人と人をつなぎ、クリエイティブな才能に光を当てる場をつくることは、これまでもずっと続けてきましたし、これからも続けていきたいと思っています」
森永「失敗を恐れないことですね。リスクがあっても、結果が約束されていなくても、挑戦しなければ今までにないものは生まれません。今回の原宿でのプロジェクトもそうですし、これから予定している地元・国立でのショーもそう。小さな挑戦を一つひとつ積み重ねていくことが大切だと思っています」

JUST AN REAL AGE by JUST AN IDEA
住所/東京都渋谷区神宮前6-29-10 ARビル1F
営業時間/13:00〜20:00
Photos:Masato Otsubo Interview & Text:Mami Osugi Edit:Miyu Kadota、Manami Hotta
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