
ロンドン、NY、香港、エルサレム、パリなど10カ国14都市で上演された野田秀樹演出の『THE BEE』(原作 筒井康隆「毟りあい」)が、東京で再演される。一人の平凡な男の家族が、人質に取られ、その瞬間から、被害者と加害者、正義と暴力との境界が崩れていく物語だ。
野田秀樹の代表作のひとつである本作の原作は、筒井康隆の短編小説「毟りあい」。主人公の井戸は、ごく普通のサラリーマンだ。帰宅すると、自宅は警察とマスコミに取り囲まれ、脱獄犯・小古呂が妻と子どもを人質に立てこもっている。家族を救い出そうとする井戸だったが、物語はやがて予想もしなかった方向へ転がっていく。
『THE BEE』の創作が始まったのは2003年。野田が英国の俳優たちとワークショップを行うなかで筒井の「毟りあい」を題材に選んだ年は、9.11への報復としてイラク戦争が始まった年でもあった。その後、日本と英国を往復しながら創作を続け、2006年にロンドンで初演。以来ニューヨーク、香港、エルサレム、パリなど10カ国14都市で上演されてきた。
作品の中心にあるのは、暴力がさらなる暴力を生み、それがいつしか「正当な報復」として受け入れられていく恐ろしさだ。しかし舞台には大掛かりなリアリズムのセットがあるわけではない。“鉛筆”をはじめと身近な物が別の何かに見立てられ、4人の俳優が瞬時に複数の人物を行き来する。観客の想像力によって、日常的なものが次々と暴力の道具へ変貌していくところに、この作品ならではの不気味さがある。
今回の俳優陣にも注目したい。高橋一生、二階堂ふみ、河内大和、川平慈英という4人の俳優で上演される。これまで、野田秀樹氏自身やキャサリン・ハンター、阿部サダヲらが演じてきた主人公・井戸を演じる高橋一生は、『フェイクスピア』『兎、波を走る』に続いて野田作品に参加。二階堂ふみは今回がNODA・MAP初参加となり、小古呂の妻とリポーターを演じる。河内大和と川平慈英は2021年版から続投し、いくつもの役を高速で切り替えていく。
そして、作品そのものの再演と同じくらい興味深いのが、本多劇場という場所だろう。1980年代、夢の遊眠社の本拠地でもあり、小劇場ブームの熱狂を支えたこの劇場に、野田が1986年『半神』以来40年ぶりに戻ってくる。世界を回った『THE BEE』が、わずか386席の濃密な空間で再び観客と対峙する様は、演劇ファンなら誰しも目撃したいと思うものだ。20年前に生まれた「報復」の物語が、分断と暴力が繰り返される2026年の芝居小屋にどう響くのだろうか。
舞台 NODA・MAP番外公演『THE BEE』
原作/筒井康隆「毟りあい」
日本語脚本・演出/野田秀樹
英語脚本/野田秀樹、コリン・ティーバン
出演/高橋一生、二階堂ふみ、河内大和、川平慈英
日程/2026年11月2日(月)~12月6日(日)
会場/本多劇場
料金/S席9,900円 U25席5,000円 当日券あり
URL/https://www.nodamap.com/thebee2026/
