旅のプロ、ダージリン コズエによる連載。世界中のあらゆるデスティネーションを行き尽くし、現在も国内外問わず旅に赴く玄人トラベラーが語る、“人生最高の旅”。

パリへ引っ越して1年ちょっと。今年の夏はヴァカンスをヨーロッパで過ごすことにし、プチヴァカンスとして、フランスのブルゴーニュ地方、コート・ド・ボーヌにある「モンラッシェ」へひとりふらりと行ってきました。

ワイン好きな方はモンラッシェと聞くだけで「わー♡」となる、ブルゴーニュ地方を代表する世界最高峰の白ワインの産地です。ブルゴーニュのコート・ド・ボーヌに位置し、ピュリニー・モンラッシェ村と、シャサーニュ・モンラッシェ村にまたがる地域です。
今から20年以上前の話になりますが、私が海外旅行の編集者として駆け出しの頃、ワインについて基礎知識を学ぶ必要があるなと思い、ワインスクールに通い始めました。各学期で学ぶワインが異なるのですが、入学したタイミングで開講されていたのがブルゴーニュワインの講座。
ブルゴーニュのシャルドネ、ピノ・ノワールを学び、すっかり魅了されてしまい「これだ!」と、他の地域のワインを学ぶことなく終了。あとは各地の旅先でワイナリーへ行き、話を伺いながら、実践で学んでいます。
そんなことで、「ボーヌ」は長年行ってみたいと思っていた憧れの場所。そこに、大好きなコモ ホテルズ アンド リゾーツの「コモ ル モンラッシェ(COMO LE MONTRACHET)」があることに気づき、コモはご飯も美味しいし、しかも屋外にプールもあるから、「行くしかないでしょ!」と、出発の3日前に予約を取って行ってきました。

先に断っておきますが、いつも好きなホテルやよかった旅先のよかったことばかり書くので、案件と間違われやすいのですが、今回も自腹旅で、取材でも何でもなく、ただの旅好きの体験談です。


さて、ヴァカンスということもあり、今回の旅は、ゆる〜いリトリート旅。1番手頃な小さなお部屋が空いていたのでそこに滞在し、お部屋ではシャワーを浴び、寝るのみ。

ベースは午前中から夕方までホテルのプールサイドで日焼けしながら読書をし、夜に美味しいご飯とモンラッシェのワインを堪能。
加えて、ホテルでeBikeをレンタルし、日中2時間ほどモンラッシェ周辺のグラン・クリュやプルミエ・クリュ、お隣のムルソーの葡萄畑を駆け抜け、近くのワイナリーでワインテイスティング。

ブルゴーニュ、コート・ド・ボーヌのワインを知る上で面白いのが、「格付け」と「テロワール」の関係です。
例えばシャンパーニュでは、歴史的に村を単位とした格付けが知られていますが、ブルゴーニュでは「どこの村か」に加え、「どこの畑で育ったブドウか」がとても重要になってきます。

ブルゴーニュワインの格付けは、大きく4段階。最高位がグラン・クリュ、次にプルミエ・クリュ、そしてヴィレッジ(村名)、最後にリージョン(地域名)です。そして、この格付けと深く関係しているのが「テロワール」という考え方。
テロワールとは、土壌、水はけ、地質、標高や斜面の向きなど、その土地ならではの自然条件や、人々が積み重ねてきた栽培の歴史などを含むもの。ブルゴーニュでは、こうした土地の個性を持つブドウ畑の区画を「クリマ」と呼び、細かく区分しています。
そのため、同じ村の中でも、こっちはグラン・クリュであっちはヴィレッジ、というようなことが入り混じっているのです。道を1本隔てただけで格付けが変わり、ワインの名前まで変わってくる。これがブルゴーニュワインの面白さのひとつです。
畑の区画や格付けがわかるマップもあり、地元の人たちは、どこの畑がどの格付けなのかわかっているようですが、私のような旅人には斜面が傾いているところは何となくプルミエ・クリュやグラン・クリュだろうなということは想像がつきますが、あぜ道のような小さな道を挟んでなぜこっちがグラン・クリュで、あっちは違うのか?というのはさっぱりわかりません。
ちなみに、こうした土地の個性を重視するブルゴーニュのワイン造りは、長い歴史をもち、1930年代にはAOCの制度のもとで、産地や畑の区分が定められていったそうです。
世界有数の葡萄畑に囲まれ、ワイナリー巡りも楽しめるリゾート「コモ ル モンラッシェ」には、もちろんこのエリアのワインが豊富にあり、あれこれ試してみたいもの。しかし今回はひとり旅なのでボトルは飲みきれないな、とグラスワインを聞いたら、ありがたいことにモンラッシェ周辺のヴィレッジ、プルミエ・クリュなどがグラスでも提供されていました。美味しいご飯をいただきながら、ソムリエの方におすすめを聞いて、このエリアのプルミエ・クリュを。

ヴィレッジでもかなり好みだったのですが、プルミエ・クリュを口に含んだとき、舌の上を転がるとき、喉へと流れ込むときと、上品なミネラル感や果実味を感じながら口の中がドラマティックに変化していくのがとてもいい。
ちなみにホテルのレストランでのコース料理はアミューズ、前菜、メインとどれも美味しい。デザートの前にチーズカートが登場!ワゴンで運ばれてきたプレートには10種類以上のチーズがあり、好きなものを選ぶことができます。

チーズカートについ興奮し、ウェイターさんとおしゃべりしていると、隣の席にいたアメリカ人の年配4人組のテーブルからひとりのおじいちゃん(推定70代後半)が、私のテーブルにやってきて、「ぜひ君もキャマムベアを食べた方がいいよ!僕の人生で食べたチーズで一番美味しかったんだ」と。
明るく大きな声で力説するおじいちゃんのおすすめ、キャマムベアってなんだろう?とウェイターさんにこそっと聞くと、「カマンベールのことです」と。
えーっ!カマンベール!?
いいんですよ、個人の自由なので何を選んでも。でも、こんな初めて見るようなものばかりのチーズの中から、なぜここでカマンベール!?
そして、その日カマンベールがチーズカートにないと知ったおじいちゃんはとても残念そうにし、「本当に僕が人生で食べた中でいちばん美味しかったんだ、だから君にもぜひ食べてもらいたかったんだよ」と。
あまりにもしょんぼりとしている姿を見て、「ブリーもすっごく美味しいし、この地方のエポワスもありますよ。ちょっとクセはありますが、中のとろけ具合とか最高ですよ。カマンベールがお好きならぜひ試してみてはいかがですか?」と、なぜか私が慰める展開に。

しかし、なぜあのおじいちゃんはそんなにカマンベールを気に入っていたんだろうと思い、後日調べてみると、アメリカではフランス産の伝統的な生乳(無殺菌乳)のカマンベールは、FDA(食品医薬品局)の衛生規制によって輸入・販売が厳しく制限されているよう。
アメリカでは、生乳から作られたチーズは原則として60日以上の熟成が必要。そのため、短期間で熟成させる伝統的な生乳カマンベールは、アメリカでは通常販売することができないとのこと。
もちろんアメリカでもフランス産カマンベールを買うことはできるけれど、一般に流通しているものは殺菌乳などを使ったものが中心。つまり、フランスで味わう伝統的な生乳のカマンベールは、アメリカではなかなか出会えない味なのです。
そりゃ、人生で食べたチーズで一番美味しい「キャマムベア」がその日なくて残念がる気持ちもわかる。
ちなみに日本では百貨店や高級スーパーなどで、生乳から作られる「カマンベール・ド・ノルマンディAOP」を取り扱っているお店もあり、入手することができます。
モンラッシェで美味しいワインを堪能し、そのワインができる畑の格付けと、テロワールについて学ぶと同時に、ふとしたことでフランス産カマンベールのアメリカでの輸入規制についても知るという。人生、毎日が勉強、旅こそ新たなことを学ぶ最高の場だと改めて思わせられた旅でした。

ブルゴーニュワイン、特にモンラッシェやムルソーが好きな方はぜひ訪れてみてはいかがでしょうか?ゆっくりしながら世界有数のワインができる葡萄畑を眺め、ワイナリーでテイスティングするのもなかなかいい旅でした。パリから近いし、これはリピするかもしれません。
コモ ル モンラッシェ(COMO LE MONTRACHET)
URL/www.comohotels.com/jp/france/como-le-montrachet
ダージリン コズエが行く、人生最高の旅
Photos & Text:Darjeeling Kozue
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