『ヌメロ・トウキョウ(Numéro TOKYO)』200号(2026年10月号)では、ファッションからカルチャーまでさまざまな角度から絶えず姿を変え、蠢き続ける“トウキョウ”に迫った。インタビューでは、東京を拠点に活躍するアーティストやクリエイターたちに彼らにとっての東京の姿を聞いた。この街から生まれるクリエイティビティやコミュニティ、ここだからこそ描ける未来とは。第四弾はYOASOBIのコンポーザーで、ソロとしても活動し、今年5月にEP『dialogue』をリリースしたAyaseが登場。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年10月号掲載)

世界へ響く音楽を目指して
──1st EP『幽霊東京』の2019年頃と現在とでは、東京の捉え方に変化はありますか。
「当時は、ボカロPとして駆け出しの時期でした。それまで長くバンド活動を続けていましたが、音楽を生業にできるようになったのは、『幽霊東京』を発表した頃です。あの曲には、上京したばかりの気持ちが色濃く反映されています。山口県宇部市で育った僕にとって、東京は最先端のものが集まる大都会で、摩天楼に対する憧れと畏怖のような感情もありました。当時と比べれば、今は大きなステージにも立たせてもらい、胸を張って東京を歩けるようになったと思います。
今も渋谷のスクランブル交差点や新宿の高層ビル群をきらびやかだと感じる半面、東京を嫌だと思うこともあります(笑)。上京前に想像していたほどかっこいい人ばかりではないし、本質的に他人への興味が薄い。もちろん、夢と野望を抱いて頑張っている人もたくさんいるので、一概には言えませんけどね」
──Ayaseさんの楽曲には、「街」という言葉がよく登場しますが、それにはどのようなイメージを重ねていますか。
「『街』は、その人が暮らす環境全体を表現できるので、歌詞を書くうえで使いやすい言葉ではあります。同時に、人を語るうえで、住んでいる街はとても重要です。仕方なく住んでいる街もあれば、自分で選んだ街、憧れの街、嫌いな街もある。街はその人のパーソナルな部分と深く結び付いています。東京は街と呼ぶには大きすぎるけれど、例えば『原宿』であったり、その中のより細かいエリア単位で切り取っていくと、意外とオフラインなローカルコミュニティが存在する。そうした場所に、僕は『街』を感じます」
──今、東京からインスピレーションを得ることは?
「あまりないですね。上京して10年ほど経つので、東京から何かを受け取るフェーズは過ぎたのだと思います」
──最新のEP『dialogue』では、ご自身の内面に視線が向いているように感じました。
「そう意識したというよりも、結果的にそうなったという感覚です。YOASOBIでは、基本的に原作小説を音楽にするという方法で制作しているので、ゼロからテーマを決めて作品にするのは久しぶりでした。今回のEPには最近考えていたことも反映されていますが、YOASOBIを始めてからの約7年間で蓄積されたものから生まれた作品でもあると思っています」
──YOASOBIを含め、Ayaseさんの楽曲は海外で「東京的」と捉えられることもありますよね。
「それは少し不服なんです。僕としてはあくまで、日本から発信しているという意識です。東京が日本のすべてではないし、日本全体から見れば、むしろ東京のほうが異端です。日本の本質は地方にあると思うんです。食文化や経済状況、通勤・通学のインフラなど、リアルな暮らしを知りたいなら、地方を見たほうがいい。東京は大好きな場所ですが、『東京=日本』と思われるのは違和感があります」
──東京を拠点にする理由は?
「実務的な理由でいえば、仕事のスピードです。すぐに動ける場所にいるかどうかで、手にできるチャンスは大きく変わります。僕はすべてのプロジェクトやタイアップの楽曲制作を自分に任せてほしいと思うくらいたくさん仕事がしたいんです。それなら東京にいたほうがいい。NYやロンドンにも興味はありますが、まだしばらくは東京にいると思います」
──J-POPの魅力とは?
「世界中の音楽を聴いた上で、やっぱりJ-POPがいちばんかっこいいと思います。僕はそもそもJ-POPを音楽ジャンルだとは捉えていなくて、現象や状況に近いものだと思っています。ほかの音楽ジャンルには、リズムや構成など、ある程度の定義がありますが、J-POPにはそれがない。レジェンド的な先輩たちの作品という『教科書』はありますが、こう作ればJ-POPになるという『教則本』はない。
フリー演技のような懐の深さがとても面白いし、僕自身にも合っています。今、J-POPを発信する立場にいて、その純度を保ちながらかっこいいものとして磨いていくには、日本にいるべきだと思っています。日本独自のカルチャーやコミュニティの発達の仕方にこそ、新しいJ-POPを生み出す要素があると感じています」
Direction:Ako Tanaka Photo:Keiichi Nitta Styling:Ai Suganuma Hair & Makeup:Kato Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Mariko Kimbara
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