藤原ヒロシ、再び教壇へ。「FRAGMENT UNIVERSITY」第二期が始動
音楽、ファッション、カルチャー。ひとつの肩書きに収まることなく、活動を続けてきた藤原ヒロシ。そんな藤原には、いま、もうひとつの顔がある。大学講師だ。2023年秋に架空の大学「FRAGMENT UNIVERSITY」を開講。自身の仕事や思考を「非言語マーケティング」として読み解く半年間の講義には、600人を超える応募者のなかから60人が選ばれた。受講生は10代から50代までと幅広く、海外から訪れる熱心な受講生も。そして3年ぶりとなる第二期が、この11月に始まる。テーマは「一般教養(非一般教養)」。全9回、7名の客員教授を迎え、藤原自身も“教える人”であると同時に、“学ぶ人”として教壇に立つ。藤原にとって学ぶとは、知識を増やすことだけではない。ものの見方を変え、ときには自分の考えも更新していくこと。その先には、また新しい「知らない」が立ち上がる。
教えることで、学ぶ楽しさに気づいた

──Podcast『BAD PHARMACY』(藤原ヒロシ、映像作家の上出遼平、ラッパーのTaiTanによる音声プログラム)を聴いています。藤原さんがPodcastを始められたと知ったときは、ちょっと意外でした。そもそも、どういう経緯で始まったのでしょうか?
「FRAGMENT UNIVERSITY第1期の受講生のひとりから『ポッドキャストをやりませんか』と声をかけられて。当時僕はあまり興味がなかったんですけど、『じゃあ、やってみようか』と。そこからあの番組が生まれました」
──FRAGMENT UNIVERSITYでの出会いがきっかけだったんですね。今年11月からは、第2期がスタートします。そこにはどんな思いがあったのでしょう?
「第1期を開講したとき、個人的に得るものがかなり大きかったんです。教壇に立つということは、自分自身が教える以上に何倍も勉強しなきゃいけない。そのことに気づいたのが、すごく面白かった。そして、昔、編集部に行っていた頃の感覚も思い出しました。当時は徹夜も当たり前で、明け方までみんなでワイワイしながら仕事をしていました。第1期の授業内容をつくるときも、朝4時くらいまでスタッフみんなで集まっていたりしてそれがすごく楽しかったんですよ。なので、また大学プログラムを開催することができてうれしいですね」
──第1期では「非言語マーケティング」というテーマで、藤原さん自身の仕事や思考を読み解く講義をされました。第2期では「一般教養(非一般教養)」をテーマに、7名の客員教授を迎えます。藤原さん自身、学ぶ側へ立ち位置が変わったように思いますが。
「今期はいろんなゲスト講師に登壇いただきますが、いずれの講義も最初は僕が話をして、そのあとゲスト講師の方に話を聞きながら、ディスカッションするというスタイルを取る予定です。なので、教えながら、学ぶというポジションですね」
──ゲスト講師の顔ぶれをみたところ、コラムニストのジェーン・スーさんやラッパーのBoseさん、社会学者の古市憲寿さんなどかなりユニークです。
「人選はスタッフみんなで話し合いながら決めました。僕の知り合いの方も何人かいますが、いわゆるタレントみたいな人はいません。一方で、専門家や大学教授もおらず、その中間にいるような方たちにお声がけをしています」
──「占有論」「部外者論」「反体制論」など、かなり気になるテーマが並んでいます。こうした内容も、みなさんで話し合って決めたんですか?
「そうですね。たとえば、ASOBI SYSTEM代表取締役の中川悠介さんには『反体制論』について語っていただきます。中川さんを迎えるのであれば、一般的には『アイドル論』というテーマになりそうですが、僕はそれよりも中川さんが反体制の姿勢で事業を行なってきたことを詳しく聞いてみたいと思ったので。他の講師陣もどんな話に展開していくのか、未知数のところもあり、僕自身楽しみにしています」
「一般教養」の外側にあるもの

──今回は「一般教養(非一般教養)」というテーマを設けていますが、「非一般教養」とはなんでしょう?
「僕にとっての一般教養って、世の中の『非一般教養』なんじゃないかと思っているんです。僕自身、一般教養をきちんと学んでいないからわからないんですけど、例えば音楽のサンプリングの話は一般教養ではないですよね。でも、面白いし、現代のいろんなトピックを理解し、ドライブしていくうえでは、知っておいてもいいことだと思います」
──非一般教養を学ぶことには意味がある。
「そうですね。非一般教養を知っておくとコミュニケーションスキルが高まると思います。トリビアのような話って、『え、そうなの?』って、人のアテンションを引きやすい。あとは、他の人の考え方だったり、視点だったりを知ることで、『こういう世界もあるんだ』とか、『こんな考えをしてる人もいるんだ』と気づくきっかけにもなる」
──藤原さんは、新しい知識や非一般教養をどんなふうに得てきましたか?
「本を手がかりに知識を深めたり、同じ話題を共有できる人を見つけて話したり」
──今、個人的にもっと知りたいと思っていることはなんですか?
「それは第2期の講義にほとんど落とし込んでいるんですけど、それ以外であれば、人類の創世や物理学は昔から興味があるので、もっと知識として深めたいですね。
たとえば、『限界ってなんだろう』とか。光の速さにも限界があるし、温度にも限界がある。そう考えるとどんなものにも限界点はある。それについてもっと知りたいと思う。
また、人類の起源にも興味があります。近代の研究によって人類史は更新され続けていて、アフリカ単一起源説からさらに複雑化してきています。今後新たな化石や古代DNA、ゲノム解析が進めば、人類の起源はさらに書き換えられる可能性がある。
そう考えると僕は未来よりも過去、宇宙よりも深海の方に興味がありますね。過去や深海はまだ解明されていないだけで答えがある。テクノロジーが進化することで、明らかにされていく存在や物語があると思うと面白いですね」
センスとは、好奇心の先にあるアーカイブ

──藤原さんにとって、「教養がある人」はどんな人でしょう?
「単に知識があるだけではなくて、自分なりの角度を持って伝えてくれる人。難解な話も自分の言葉で説明できる人には教養を感じます」
──教養は学ぶことで身につけられるのだと思いますが、センスも磨いていけるものだと思いますか?
「『Numero TOKYO』のバックナンバーを読めば、センスは磨けるんじゃないでしょうか(笑)。というのも、センスって、知識の蓄積であるとも思うんですよ。例えば、レザーのジャケットを『いいな』と思ったとする。それをつくったのがイヴ・サンローランだと知り、そのサンローランはかつてディオールの元で学んでいたと、知識が深まっていく。そういう知識の積み重ねが、センスを磨くことにつながっていくんじゃないかなと。ただ、知識や経験が増えていくほど、考えが凝り固まってしまいがちですが、僕は考え方はどんどん変わっていいと思う」
──藤原さん自身も、考え方が変わったと感じることはありますか?
「ありますね。知れば知るほど、裏側にあるものが見えてきて、『こういう仕組みだから仕方ないな』とか、『綺麗事だけでもないんだな』と思うことが増えた気がします。とんがってる部分がなくなったと言えばそうかもしれないけど、自分の中で変わることって、そんなに悪いことでもないと思うんです」
AI時代に、信じられるものは何か

──AIによって、それらしい答えが瞬時に返ってくるようになり、知識や情報との向き合い方も変わってきています。これから先、「知っていること」の価値はどう変わっていくと思いますか?
「それはまさにオープンキャンパス(9月18日に開催)で話すテーマと重なっているんですけど、最近『記録と記憶』について考えています。以前、渋谷の街の歴史について調べていたんです。渋谷西武の開業ってすごく大きな出来事だったはずなのに、調べても写真がほとんど出てこない。それで、記録ってあるようでないんだなと気づいた。ただ、時代が移り2000年代以降になると、スマホが現れて世の中に写真が溢れるようになった。記録があることで、知ることができる。それはいいことだと思ってたら、TaiTanが『記録なんて信じられないですよ。だって、誰でも簡単に改ざんできるじゃないですか』って。確かに言われてみればそうだなと」
──記録できるようになったけれど、それによって「確かなものが増えた」ということにはならない。では、そんな時代に何を手がかりにすればいいと思いますか?
「やっぱり人の話を直接聞くことが大事なんじゃないかと思います。しかも、一人の人から聞くんじゃなくて、いろんな人に、いろんな角度から話を聞くのがいいと思う。そうすると、自分の中で、記憶ができてくる。もちろん、人の記憶だって完璧ではないです。でも、AIが生成した情報や誰かが改竄したかもしれない記録を信じるよりも、実際に人と会って、その人の話を聞くことに意味があると思います」
──第2期の講義が全て終わった時、藤原さん自身何が変わっていたらいいなと思いますか?
「第3期の準備をしていたいですね」
──いくつになっても学ぶ場を持ち続けたいということでしょうか?
「そうですね。年齢を重ねてから学ぶことのおもしろさを感じるようになりました。子供の時は、学校が好きだとは思わなかった。それは教える人に、あんまりセンスがなかったんじゃないかと思っているんですけど(笑)。もっと面白いやり方で教えてもらえていたら、勉強が好きになっていたかもしれない」
──「何を学ぶか」だけではなく、「誰から、どう学ぶか」?
「そうですね。知らないことって、いくらでもある。だからこそ、ただ知識を増やすというより、面白く教えてくれる人に出会って、その人の話を聞きながら知らないことを知っていく。そのほうが、僕は楽しいと思います」

FRAGMENT UNIVERSITY 第二期
期間/2026年11月13日〜2027年5月14日(全9回)
申し込み締め切り/9月28日(月)
受講料/220,000円(税込)
定員/70名程度(事前選考あり)
https://fragmentuniversity.com/
Text: Mariko Uramoto Edit: Yukiko Shinto
