国境の向こう側を“体験”する。KAAT×阿佐ヶ谷スパイダース『ジャングル』 | Numero TOKYO
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国境の向こう側を“体験”する。KAAT×阿佐ヶ谷スパイダース『ジャングル』

「場所」はいつ、「居場所」になるのだろう。そして、誰がどこに線を引き、その内側と外側を決めるのか。

KAAT神奈川芸術劇場と阿佐ヶ谷スパイダースが挑む『ジャングル』は、フランス北部の港町カレーに実在した難民キャンプを舞台にした作品だ。中東、アフリカ、アジアなどから逃れてきた人々が集まり、イギリスへ渡ることを願いながら暮らしていたその場所は、「ジャングル」と呼ばれていた。

戯曲を書いたのは、英国の劇作家ジョー・マーフィーとジョー・ロバートソン。二人は実際にカレーの難民キャンプで仮設劇場を運営し、そこに暮らす人々と7か月にわたり活動をともにした。その経験から生まれたのが『The Jungle』だ。2017年にロンドンのヤング・ヴィック・シアターで初演され、その後ウエストエンドやニューヨークなどで上演。15万人以上の観客に届けてきた。

描かれるのは、難民問題という大きな言葉だけではない。異なる言語、宗教、文化を持つ人々が同じ場所で暮らし、助け合い、時には衝突する日常だ。イギリスへ渡れるかもしれないという希望と、政治的な無関心や暴力、差別。そこで生まれる連帯と分断を通して、「共に生きる」とは何かを観客に突きつける。

今回の日本初演で、演出を担当するのは長塚圭史。上演に当たってのメッセージでは、神奈川県の中にも移民の話がある、と前置きした上で「演劇というのは、いろんな世界の事象、なかなか触れることのない世界に体ごと触れてみることができる」と、この物語を演者も観客も体感することの必要性を語る。その姿勢は、坂本慶介、藤間爽子、大久保祥太郎、森一生、李千鶴、伊達暁、中村まこと、中山祐一朗、千葉雅子といった俳優陣に加え、公募による神奈川在住・在勤者も作品づくりに参加する構成としたことにも見られる。神奈川という地域に根付く劇場で、県自体をテーマにした作品を創作、上演する中から感じ取った問題と世界を結び付けていく。まさに、コミュニティに根差した文化活動と言えるだろう。また、音楽を担当する阿部海太郎は、パリ第8大学への留学を機にユダヤ系思想や中東文化に触れてきた人物だ。

今作『ジャングル』のもう一つの大きな特徴が、臨場感あふれる舞台美術と客席空間によって、その世界の一員となるような没入感のある劇場体験ができること。会場内では飲食物も販売され、客席で食べながら観劇できるという。遠い国で起きている出来事を、安全な客席から「見る」のではなく、同じ空間に自分の身体を置いてみる。その距離の揺らぎ自体が、この作品の重要な仕掛けなのだろう。

移民や難民をめぐって世界のあちこちで線が引き直され、不寛容さが可視化される今。「彼ら」の物語を見ることから、「自分ならどこに立つのか」を考えることへ。劇場という仮設の共同体だからこそ、試せる問いがある。

舞台 KAAT×阿佐ヶ谷スパイダース『ジャングル』
日程/2026年10月10日(土)~11月1日(日)
会場/KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
作/ジョー・マーフィー&ジョー・ロバートソン
翻訳/小田島創志
演出/長塚圭史
音楽/阿部海太郎
出演/坂本慶介 藤間爽子 大久保祥太郎 森一生 李千鶴 伊達暁 中村まこと 中山祐一朗 千葉雅子ほか
料金/一般¥6,500 神奈川県民割引¥5,800 U24¥3,200 高校生以下¥1,000ほか
公式URL/https://www.kaat.jp/d/jungle2026

Text:Reiko Nakamura

 

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