人々が交差し、絶え間なく姿を変える東京。その一瞬に心を動かされることもあれば、何げない日常にシャッターを切ることもある。記念すべき200号の特集ページに、6人の写真家が東京を体現する作品を寄せてくれた。写真に宿る東京の記憶をたどる。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年10月号掲載)
『Lonesome Day Blues』

2016年、キャノンギャラリー Sにて行われた「ロンサム・デイ・ブルース」展に展示した本作は、16年6月2日に撮影された。当時は写真展に向けて、毎週日曜日の午後に渋谷に的を絞って撮影していたという。「自分が何に反応してシャッターを切るのか」と確認しながら、とにかく撮影を楽しむという純粋な衝動から生まれた一枚。「この猥雑さこそが渋谷」だと感じさせる独特の熱量が漂う。東京を「わが街」と語る操上の視線が捉えた、モノクロならではの記憶が蘇る、存在感のあふれる作品だ。
操上 和美(くりがみ かずみ)
1936年生まれ、北海道富良野市出身。小誌にて大人気連載中の「男の利き手」を担当。主な写真集に『ALTERNATE S』『泳ぐ人』『陽と骨』『PORTRAIT』など多数。原美術館での「KAZUMI KURIGAMI PHOTOGRAPHS-CRUSH」、東京都写真美術館での「操上和美時のポートレイト」や、「Lonesome Day Blues」のキャノンギャラリーSなど、大規模な個展も多数開催している。
『Ginza,Chuo-ku, Jan.1996』

大勢の人々で賑わう銀座から人や車が消えたらどんな風景になるのか。そんな疑問から正月やお盆などのタイミングに大判のフィルムカメラを担いで街に繰り出した中野。代表作『TOKYO NOBODY 』の出版当時(2000年)はSF的で非現実的な表現と捉えられたが、20年からのコロナ禍で無人の風景が現実になるとは想像もしていなかったという。日々変貌を遂げ、建設中にしか見られない「期間限定の東京」と、インバウンドが求める「昭和の東京」が共存する、新旧混在のバランスに「東京」の魅力を感じていると語る。
中野 正貴(なかの まさたか)
1955年福岡県生まれ、翌年東京へ移住し杉並区で育つ。武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業。80年よりフリーランスフォトグラファーとして活動。2000年に写真集『TOKYO NOBODY』で日本写真協会賞新人賞、05年『東京窓景』で木村伊兵衛写真賞を受賞。08年『MY LOST AMERICA』でさがみはら写真賞を受賞。19年には東京都写真美術館で大型写真展「東京」を開催した。
『Tokyo Imperial Palace / 2022』

2022年1月に皇居で撮影した本作。コロナ禍において「何かを残さなければいけない」という強い思いから、意識的にフィルムで日常を記録していた時期の一枚だ。雪が降り積もり、人の気配が消えた皇居が、まるで墨絵のような世界へと変貌していく。その光景に黒澤明監督の映画『夢』のような美しさを見いだし、シャッターを切ったという。現在この写真を振り返り、「フィルムの価格をこの頃に戻してほしい(笑)」と、アナログ撮影への現実的な願いも吐露する。
鈴木 親(すずき ちかし)
1972年生まれ、千葉県千葉市出身。96年に渡仏し、フランスのインディペンデントファッション誌『Purple』で写真家としてのキャリアをスタート。その後、『i-D』や『Le Monde』をはじめ『GQ JAPAN』『VOGUE JAPAN』など国内外の主要な雑誌で活躍。さらにシャネルやジョンロブなどのコマーシャルヴィジュアルも数多く手がけている。
『無題』

2026年5月から6月上旬にかけて、夕暮れ時の光に照らされる人々や東京の街並みを捉えた本作。東急百貨店本店の跡地で行われている大規模な再開発の現場「Shibuya Upper West Project工事現場」に飾られている作品たちは、日常の愛おしい瞬間を切り取る川内らしい視線が光るプリズムのような世界だ。当時の情景を振り返りながら「もう少し撮影したい」と、写真への尽きない探究心を覗かせる。自身にとって東京とは働く場所であり、友人がいる場所。本作は27年9月30日まで渋谷松濤ウォールギャラリーにて展示される。
川内 倫子(かわうち りんこ)
1972年生まれ、滋賀県東近江市出身。2002年 『うたたね』『花火』で第27回木村伊兵衛写真賞を受賞。個展、グループ展も国内外で多数。近年の個展に「M/E 球体の上 無限の連なり」東京オペラシティアートギャラリー/滋賀県立美術館(22~23年)など。9月21日まで開催中の「TOPコレクション 明日の食卓」に参加。
『Times Square, 109 (2019年)』

世界各地の街角と東京のストリートを交差させる「crosspoint」シリーズの一枚である本作は、渋谷109とNYのタイムズスクエアを合成したもの。海外のゆかりのない街角にふと親近感を覚える、そんな記憶の着想から生まれた作品は、人々が集まり街を形成するときの多様な営みや、背後の文化を洞察する楽しさがあるという。P.M.Kenにとって、かつては地方から眺める憧れの場所だった東京は、今や住民の一員として互いに支え合い育んでいく人々のつながりやカルチャーそのものだと語る。
P.M.Ken(ピーエムケン)
愛知県名古屋市出身。1990年に東京造形大学卒業後、フリーのフォトグラファーとして独立。90年代に、デジタルフォトの初期よりPhotoshopによる合成写真に取り組み、独自のスタイルを構築。東京のストリートカルチャーを代表するフォトグラファーの一人として、音楽やファッションなどのクリエイティブに多く携わる。
『無題』

ネオンが滲む街の風景は2022年に渋谷で、桜とインコの色彩が呼応する写真は26年に中目黒で撮影されたもの。東京で生まれ育った蜷川にとって、発表や出版といった明確な目的を持たず、呼吸をするように、日々の生活の一部として東京を撮り続けることはライフワークそのものだ。自身にとって東京とは「ものすごいスピード感のなかで消費し、消費される場所」であり、その喧騒も含めて居心地の良い故郷。今回のセレクトを通じて「いろいろあるけれど、東京という街が好きだな」とあらためて実感したという。
蜷川 実花(にながわ みか)
東京都出身。写真家、映画監督、現代美術家。木村伊兵衛写真賞ほか受賞多数。2010年にニューヨークのRizzoliから写真集を出版。『ヘルタースケルター』(12年)などの長編映画5作や、Netflix『FOLLOWERS』の監督も。これまでに写真集を120冊余り刊行、国内外で150回を超える個展を開催。9月12日から11月29日まで川口市立美術館の開館記念特別展として「蜷川実花展 はじまりの光」が開催される。
Edit & Text:Shomi Abe
