日常のなかにアートが息づく街、パリ。異国の空気に身を置きながら自らのルーツを探り、自分らしさを模索する日本人女性クリエーターたち。皿の上に季節を映し、土に触れ、花と対話する。そんな彼女たちの現在地を見つめる。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年7・8月合併号掲載)
西村麻美
陶芸に湧くパリでの教室

パリのアトリエで土に触れる麻美さんは、バイリンガルならぬ6カ国語が操れる。「語学も好きだったけど、ずっと美術をやりたい気持ちがあって」。ブラジルを経て、フランスへの短期留学が人生を変えるきっかけとなる。わずか数カ月の滞在が、そのまま進路を変えた。「フランスは国立の学校が充実していて、しかも無償。だから日本の大学はやめて入り直す決意を」

やがてボザールに進み、多岐にわたるメディアを使用した作品を制作するが迷いもあったという。「作ったモノが消費された後、捨てられてゴミになっていく過程を見て、違和感を感じて。だからこそまったく残らず、消えていくパフォーマンスをしたり」。その過程で出会ったのが陶芸だ。「永遠に残る土の作品を残していこうと。1万年前に作られた縄文土器が今でも残っているように」

現在は自身のアトリエを構え、月に100人以上が訪れる。「パリの人は、頭だけで働く生活に疲れている。土に触れて、実際に“ものが出来上がる過程”そのものに癒されているんだと思う」。また手作業だからこそ生まれるいびつで、アシメトリーなものこそ自然に近いという発見も陶芸をする魅力だという。「日常生活であまりにも大量生産の工業品が多くて、感覚がずれてきているけど、自然の中にそもそもシンメトリーなものはそんなにない。そんな気づきが新鮮なのかも」

一方で、日本人としての立場は確かな強みになる。「フランス人は日本が好き。“日本人”というだけで好意的に受け取られることも多い」。さらに、日本の陶芸については「装飾や技法のバリエーションが圧倒的」と語る。「ここまで突き詰めている国は少ない」

彼女がいま挑んでいるのは、アートと実用品の境界を揺さぶることだ。「フランスでは“使えるものはアートじゃない”と言われるけど、私は“アートは自由なもの”と思っている。(アートとは何かと)定義があってはいけない。今お箸も作っているのだけど、箸ひとつでも彫刻になり得るのではと思うほど美しい」


最後にこれから海外に出るかどうか迷っている人へのアドバイスを聞くと、「人生は短いから、やりたいことをやったほうがいい。後悔するのが一番悲しい」。何も持たなくても、どうにかなる。異国で土をこねながら紡がれるその実感は、軽やかでいて力強い。

Photo: Yusuke Kinaka Interview & Text: Hiroyuki Morita Edit: Shiori Kajiyama
