中村倫也インタビュー「不正解を選んでも自分のなかに確かな価値があればいい」
旬な俳優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.130は俳優の中村倫也にインタビュー。
賞金1000万円を賭けた生放送クイズ番組の決勝で、対戦相手が問題文を1文字も聞かずに正解してしまう——。小川哲の傑作ミステリー小説を原作に、”クイズ界の絶対王者”三島玲央を主演の中村倫也が演じる映画『君のクイズ』が5月15日に公開される。「クイズ」という誰もが知るゲームを入口に、回答に人生が滲み出るクイズプレイヤーたちの物語を描いた本作は、検索すれば即座に正解が手に入る時代に、「あなたにとっての正解とはなにか」を静かに問い返してくる。
「この映画が終わるころ、超人的なクイズプレイヤーたちの思考と日常の端々で無数にある選択を繰り返す私たちの人生はきっと交錯するはず」と話す中村に、役への向き合い方から、長い下積みを経て掴んだ「自分の正解」の見つけ方、そして最近の「OFF」の過ごし方までを聞いた。
繊細さと大胆さ。一人の人物が持つ多面性を大切に演じた

──今回の作品は「クイズ」という一つのテーマからこんなにも世界が広がるんだという驚きがありました。改めて見どころを教えてください。
「僕自身、これまでクイズ番組には、『物知りが早押しで競っている』くらいのイメージしかありませんでした。もちろん物知りには違いないんだけど、その回答の瞬間に至るまでには練り上げた戦略があって、さらにその裏側には、それぞれの性格や個性、いろんなものが影響している。それって役者も含む、すべてのものづくりにおいても言えることだと思います。クイズという知っているようで知らない世界、その奥深さを知れるのは、この映画の面白さの一つだと思います。

そして、『クイズ番組の優勝者はなぜ問題を1文字も聞かずに正解できたのか』という大きな問い。謎解きに関わる三島(中村倫也)と本庄(神木隆之介)と坂田(ムロツヨシ)、3人の人生がクロスオーバーしていくなかで、観客は自分の日常や人生の選択を不思議と振り返ってしまうはずです」
──吉野監督とは『ハケンアニメ!』『沈黙の艦隊』でもタッグを組んできましたが、今回は何か変化を感じましたか?
「三島という人物は、これまでの吉野監督作品の中で最もものを語らない役でした。原作では三島のモノローグで読者を引っ張っていくんですが、映画では一見何を考えているかわからない存在として設計されていて。周りの人物からの情報を通じて、観客はその内面を探っていく。そういうちょっと不思議な構造が、吉野さんが作る独創的なビジュアルの面白さと相まって、とても魅力的な作品になったと思います」

──三島という役に向き合う上で大切にしたことはありましたか?
「クイズ界の絶対王者である三島が、周りの人や物事に翻弄されながら、徐々に人間味を見せていく。その翻弄のされ方をいかに三島らしくできるかという精度にはこだわりました。現在・クイズ番組のスタジオ・回想で描かれる三島は、それぞれ全く異なる人物のように見えるんですよね。そのあたりの繊細さというか、大胆さというか、一人の人物の持つ多面性を意識しました」
──神木隆之介さん演じる本庄は、三島のライバルでありながら、クイズを通じた理解者でもあります。長年共演を重ねてきた神木さんと演じることで、役どころとリンクするような、語らずとも通じ合う感覚はありましたか?
「ありましたね。リュウ(神木隆之介)とのシーンは、距離感を探る必要がそもそもないから、お互い好きなことができるんです。僕の演じる三島が、常に翻弄されているようなキャラクターなので、リュウにブンブン振り回してもらって、とても楽しかったしありがたかったです」

──三島にとってクイズで正解することは、世界に肯定されるような感覚につながっています。中村さん自身も仕事を通じて自己肯定感が揺らいだ経験はありますか?
「若いときは、自己肯定感だけを高く保つことで、自我を保って生活していた時期がありました。なぜなら全く肯定されないから。強がりだけが肥大化してモンスター化しつつあったころに、ムロツヨシさんがみかねて『それじゃダメだぞ』と変わるきっかけをくれました。それで自己肯定感が一気にゼロまで落ちて。それからは赤ちゃんのつもりで一つ一つ経験と自信を積み上げていくしかないと思えるようになりました」
──今は仕事において自分を肯定できていると感じますか?
「今はもう毎日肯定されていると思っています(笑)。屋根の下で寝られて、飯が食えて。そんなありがたいことないじゃないですか。やっぱり若い時って、傲慢だったと思うんです。特に自分は可愛げもフレッシュさもなく、自意識と自我だけがでかくて。それで『ありのままで受け入れられたい』なんてうぬぼれもいいところですよ。『ありのままで勝負できるお前なのか』って。そういう自分の傲慢さをへし折ったことで、今があると思っています」
正解・不正解を超えた先にある、自分にとっての価値

──クイズプレイヤーと役者、回答にも演技にも人生が滲み出るという意味で通じるものがありますね。年齢を重ね、経験を積むなかで、表現できるものが変わってきた実感はありますか?
「役者の仕事は年を重ねるとキャラクターも役割も変わっていくので、そういう生身の人間だからこその面白みがありますよね。だから、見た目や体力が変化することへの怖さより楽しみの方が大きい。年老いている人も社会になじめず苦労している人も、舞台の上には必ず居場所がある。物語の登場人物なんて、みんな厄介な変わり者だったりするじゃないですか。この仕事にはそういう豊かさというか、包容力みたいなものがある気がします」
──キャリアや経験を積み重ねられてきた中村さんが、お仕事の上で「正解」だと思っていることはありますか?
「この映画が問いかけていることも、まさにそういうことなのかもしれませんが、正解・不正解を超えたところにこそ、やりがいや枠に縛られない素晴らしさがあると思うんです。人と作用し合うことで、思ってもみなかった感覚を得られたときは楽しいです。自分にとっての正解があるとするなら、そういうことなのかもしれませんね」

──検索すればすぐに正解がわかる時代、「正解か不正解か」という二択の見方が強くなっているような気もします。不正解を怖れて動けなくなる人に、中村さんはどんな言葉をかけますか?
「ファッション誌でこんなことを言うのはどうかと思うのですが(笑)、僕はブランドの名前にあまり関心がないんです。何が言いたいかというと、自分の軸は『ものの価値を自分で決めること』で作られていくと思うんです。人から褒められる正解でも、自分にとって価値のない経験なら何もないのと同じだし、人から否定される不正解でも、自分のなかに確かな価値があればそれでいい。
とはいえ、どこかの組織に属する以上、人が言う正解を出さなきゃいけないときももちろんある。そういう一個一個が生き方につながっていくと思うんです。自分で価値を決めて、その責任を引き受けた上で周りにも誠実でいられたらそれでいいんじゃないかな」

──最近のOFFの時間についても聞かせてください。今ハマっていることはありますか?
「やっぱり料理でしょうか。気分転換になるし、外食のときも『これ家で作れないかな』と考えながら食べています。今作りたいのは、エビのビスク。年明けに自動調理ポットを買ったのですが、これがすごい。スープとかポタージュって、家で作るとすごく手間がかかりますよね。それなのにこの調理ポットはボタンひとつで全部やってくれるんです。本当にありがとうって言いたい(笑)」
──仕事とプライベートの切り替えはどうされていますか?
「僕は隙あらばオフに回路が行くんですよ。今回の役のように現場では気を張っていなきゃいけないときも、家に帰ればスッとオフモードになれる。忙しい時期を経て、体に染み込んだ護身術なのかもしれません」
──今年40歳を迎える中村さんですが、これからどんなふうに過ごしていきたいですか?
「今年40歳ってこと、正直忘れていました(笑)。でも39歳の最後の日と40歳の最初の日で、考え方がいきなり変わるわけでもないと思うんですよね。僕は毎日くだらないことで笑いながら生きられればそれでいい。飯食って、一生懸命仕事して、寝る。そういうことをこれからも大切にしていきたいです」
『君のクイズ』
原作/小川哲『君のクイズ』(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
監督/吉野耕平
脚本/おかざきさとこ、吉野耕平
出演/中村倫也、神木隆之介、森川葵、水沢林太郎、福澤重文、吉住、白宮みずほ、大西利空、坂東工、ユースケ・サンタマリア、堀田真由、ムロツヨシ
2026年5月15日(金)全国ロードショー
https://yourownquiz.toho-movie.jp
Photos:Na Jinkyung Styling:Yusuke Matsumoto(anahoc) Hair & Makuep:Emiy (Three Gateee LLC.) Interview & Text:Renna Hata Edit:Miyu Kadota
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