 名和晃平『PixCell-Deer#74』2024 年、ポーラ美術館[左]Photo: Ken Kato](https://numero.jp/wp-content/uploads/2025/12/3092178bc5f8228acb1f09dcd2723612-1.jpg)
神奈川県箱根にあるポーラ美術館にて、開館以来はじめて「箱根」という土地に焦点を当てた展覧会「SPRING わきあがる鼓動」が開催。箱根をモチーフにしたコレクションから、名和晃平、杉本博司、大巻伸嗣ら現代美術家によるインスタレーションや新作も発表される。
国内有数の多様性豊かな自然がひろがる箱根。その地に佇むポーラ美術館は、「箱根の自然と美術の共生」をコンセプトに数々の展覧会を開催してきた。
初の試みとなる「箱根」という土地そのものに焦点をあてた本展のプロローグでは、豊かな景観を映し出す森とアートの共演からスタート。大巻伸嗣による布と空気の流れを用いたインスタレーションが、大地を動かすような巨大なエネルギーを想起させる。

かつて街道の要衝として宿場が整い、湯治や旅の文化が発展してきた箱根。歌川広重の「箱根越え」をはじめとする日本の絵師が描いた箱根の情景や、海外から訪れた旅する画家たちによる風景を公開。箱根町立郷土資料館が収蔵する貴重な浮世絵コレクションや町指定重要文化財の絵画を皮切りに、箱根をはじめとした東海道の風景から触発された表現を、江戸時代から現代に至るまで横断的に紹介し、古来より旅人を惹きつけ続け、アーティストの創造力を呼び覚ます箱根の魅力に迫る。

杉本博司や陶芸家の小川待子による新作など、現代美術家による作品にも注目だ。イケムラレイコは歌川広重『東海道五十三次』との対話を経て、不可思議な生き物や精霊たちが生息する、幻想的な山あいの湖畔を描き、時空を超えた物語の詩的な情景を提示する。ツェ・スーメイはアルプスの雄大な山岳風景を舞台に、チェロ奏者でもあるアーティスト自身が奏でる音が岩肌に反響し、空間全体へと不規則に広がっていく様を記録した映像作品『エコー』を公開。大地の奥深さや自然の営み、そこに脈打つ生命の在りようを探り出し、それらとの対話を通じて表現された絵画、彫刻、工芸、インスタレーションが約120点にわたって公開される。
![「3.地水火風/小川待子、パット・ステア」より 小川待子『月のかけら 25 − P』2025 年、作家蔵[手前]ほか Photo: Ken Kato](https://numero.jp/wp-content/uploads/2025/12/cddccef59c572343d702daa096e4701d.jpg)
![「5.共鳴の旅―彼方へ」より 青木美歌[ケース内]ほか Photo: Ken Kato](https://numero.jp/wp-content/uploads/2025/12/a61a515677ca05f9601a68c4c4bc7996.jpg)
またポーラ美術館のコレクションより、ルソーによる油彩画4点を含む絵画の表現に飛躍をもたらした画家たちの作品を紹介。光と色彩の揺らぎに対峙し、刹那の儚さと永遠への希求を絵画に託したモネやゴッホ、あるいは色彩と科学の出会いによって水辺の光景を再構築したスーラやシニャックなどの作品を見ることができる。
本展のエピローグには、名和晃平の代表的な「PixCell」シリーズを展示。2体の『PixCell-Deer』を対峙させ、不可視を可視化した空間が展覧会の終わりを飾る。
また同時期に、伝統的なモザイク技法を用いる気鋭の作家、ヤマダカズキの個展「地に木霊す」も開催。油彩画に比べて陰影や細密な描写を持たないモザイクの「解像度の低さ」に着目し、地域に伝わる民話や神話の不確かさと重ね合わせながら、曖昧さを含む伝承を石によって可視化する作品を制作する。

会期はいずれも5月31日(日)まで。ぜひお見逃しなく。
※掲載情報は12月29日時点のものです。
開館日や時間など最新情報は公式サイトをチェックしてください。
「SPRING わきあがる鼓動」
会期/2025年12月13日(土)〜2026年5月31日(日)
会場/ポーラ美術館
住所/神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
料金/大人2,200円、大学生・高校生1,700円、中学生以下無料
時間/9:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日/会期中無休
URL/www.polamuseum.or.jp/sp/spring_rising/
Text:Akane Naniwa
