マリオン・コティヤール インタビュー「自分の内側は息子のためにある」 | Numero TOKYO
Interview / Post

マリオン・コティヤール インタビュー「自分の内側は息子のためにある」

旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。 vol.3は女優、マリオン・コティヤールにインタビュー。

アカデミー賞女優マリオン・コティヤールを主役に、パルムドールに二度も輝いている実力派、ダルデンヌ兄弟が監督を務める新作映画『サンドラの週末』が公開となる。本作で、体調不良の休職から復帰するやいなや不当解雇を強いられる女性、サンドラを演じる彼女の素顔とは? 撮影秘話や仕事への向き合い方、知られざるプライベートにも迫ったインタビューを公開。

──『ロゼッタ』や『ある子供』で知られるダルデンヌ兄弟は、あまりスターを起用することがないので、あなたが主演するのは意外な印象がありましたが、お互い以前から一緒に仕事をしたいと思っていたそうですね。

「私も彼らがそう言っていると聞いたときはびっくりしたわ。そんなことを言ってもらえるなんて、想像したことがなかったから。ダルデンヌ兄弟の映画が大好きだけど、一緒に仕事をすることができる機会が来るなんて、考えもしなかった。どこか近づき難い印象があって(笑)。たしかにこれまで幸いにも、マイケル・マンやティム・バートンなど、観客として彼らの映画が好きでも俳優としては夢のまた夢のような監督と仕事をする機会に恵まれてきた。ただ彼らと比べても、ダルデンヌ兄弟は私にとって雲の上の人という感じだったの。一度だけ、ジャック・オディアール監督の『君と歩く世界』を撮っているときにちらっと会ったことはあるわ。彼らはあの作品の共同プロデューサーだったから。でも本当にすれ違った程度。今回最初に会ったときのことを白状すると、とてもあがっていたからほとんど覚えていないの(笑)。きっと彼らも、まるでチョコレートアイスを前にした小さな娘のような私の反応に、びっくりしていたと思う(笑)。この映画のポスターを見て、やっと一緒に仕事をしたんだという実感が湧いてきたほどよ」

──彼らは要求が厳しい監督と聞きますが、何度もテイクを重ねたのですか。

「ええ。とてもこだわりのある監督たちよ。たしかにマイケル・マンや、ギョーム(・カネ/コティヤールのパートナーで俳優兼監督)など、他にも要求の多い監督を知っているけれど、彼らはトップ(笑)。とくに難しかったのは長回しのシーンね。長いテイクのなかで大きな感情の変化があるときは、難しかったわ。50回、80回と撮ったシーンもある。でもそういう経験は、俳優として自分を知るいい機会になった。毎回新しいイマジネーションを求められるから、イマジネーションというものがいかに創造的なものかを知ることができた。私は常に、キャラクターの人生を創造するために、その経歴や過去を考えて、メモをとることにしている。それでも今回の経験は、これまでになかった類いのものになったわ。私の場合、自分なりの決まった仕事のやり方があるわけではなく、毎回その作品や役柄によってアプローチの仕方が異なるの。抽象的なことだから、とても説明しづらいのだけど」

──あなたが演じるヒロインのサンドラは、自分が解雇されるか、さもなければ同僚にボーナスを諦めてもらうしかないという窮地に立たされ、同僚を説得しにまわります。決して楽しい役柄とは言えませんが、こういう役を演じる場合、毎日仕事を終えて帰ってきたときの状態はどんなものですか。オンとオフを区別するのは難しくないですか。

「そうね、たしかに私は切り替えがあまり得意な方ではない。『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』を撮影したときは、ずっと役柄に入ったままだった。でも今は母親になったから、自然に自分に戻ることができるようになったわ。小さな頭が自分を必要としているのを見て、変な言い方だけど、自分の内側は彼のためにあると実感するの。だから息子の存在が、自分自身に戻る手助けをしてくれる。それでも役柄によってはとてもタフなものよ。サンドラはそうでもなかったけれど、その後に撮影した『マクベス』はとてもハードだった。私が演じたマクベス夫人は、とても鬱屈したキャラクターだから。サンドラにはどこか太陽があって、たとえ困難な状況でも希望があるけれど、マクベスは真っ暗なキャラクター。演じているのは、決して気分がいいものではなかった。だから自分自身、気持ちをコントロールしなければという自覚が強かったの。それで一時ギョームに、息子を連れてバカンスに行ってきてと頼んだほどよ(笑)」

──自分に近い役と遠い役、どちらが演じやすいですか。

「私の場合、絶対に自分とは遠いキャラクターを演じる方がやりやすいわ」

──パートナーの監督作と他の監督の作品ではどちらが?

「役にもよるけれど、ギョームは私のことをよく知っているという点で安心できるから、やはり他の監督とは異なるわ」

──すでにハリウッドで何本も撮影されていますが、外国人としてハリウッドで働くのは、フランスでの仕事とはやはり異なるものですか。

「誰も自分を知らない、という点で逆にリラックスできる。自分自身どこか仕事的に、ゼロから誰も知らないところで出発したいと思うところがあって、アメリカの体験は実際にそれを経験させてくれた」

──ところで、ティム・バートンの『ビッグ・フィッシュ』に出演したとき、自らチョコレートケーキを焼いてセットに持っていったそうですね。

「ええ、だってアメリカのケーキは砂糖の固まりみたいだったから(笑)」

──ダルデンヌ兄弟のときは、何か持っていきましたか。

「ケーキどころじゃなかったわ(笑)。ナスのキッシュとかいろいろ。撮影の終わりのほうでね。というのも、私たちは予定より3日早いスケジュールで進んでいて、ただでさえ終わってしまうのが嫌だったのに、3日も早く終わるなんて信じがたかったから(笑)。借りていた家を解放して、みんなを招待していろいろと料理したの。素晴らしい思い出になったわ」

映画『サンドラの週末』の情報はこちら

Interview & Text:Kuriko Sato

Profile

マリオン・コティヤール(Marion Cotillard)1975年フランス、パリ生まれの女優。オルレアンの演劇学校で演技を学び16歳で映画デビュー。『ロング・エンゲージメント』(2004年)にてセザール賞助演女優賞を受賞。『エディット・ピアフ ~愛の讃歌~』(2007年)でフランス人女優として史上2人目となるアカデミー賞主演女優賞に輝く。『ミッドナイト・イン・パリ』『ダークナイト ライジング』などにも出演。『サンドラの週末』は2015年5月23日よりBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー。

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