すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジー@金沢21世紀美術館 | Numero TOKYO
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すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジー@金沢21世紀美術館

アドリアン・ビシャル・ロハス『想像力の果てI』2022『消失のシアター』2017 「すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジー」展示風景 金沢21世紀美術館 2024/撮影:湯浅啓
アドリアン・ビシャル・ロハス『想像力の果てI』2022『消失のシアター』2017 「すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジー」展示風景 金沢21世紀美術館 2024/撮影:湯浅啓

金沢21世紀美術館にて「すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジー」展が開催されている。言葉を超えて共感する方法としてのダンス、そしてアートがそのダンスのためのプラットフォームとなる。現代アーティスト、金沢の華道家、シャーマンや神話を描くアマゾンやカナダの先住民族の芸術家、科学者や哲学者などの研究者、輪島塗、九谷焼や珠洲焼の職人、さまざまな世界からのクリエイター60組が参加している。2025年3月16日まで。

開館20周年を迎えた金沢21世紀美術館は、年間テーマとして「新しいエコロジー」を掲げている。それは、人間と自然といった二元論ではなく、社会や精神、情報をも含む総合的なエコロジー。本展ではこのテーマに基づき、アーティストたちの感性と観察により生み出された、多様な作品が展示される。なかには科学者や文化人類学者、哲学者などの研究者との協働により、専門性の高い内容を直感的に捉えられる作品も。美術館が「感覚を通した学び(Sensory Learning)」の場にもなる。

Fabbrica dell’Aria® PNAT 2023/©photo Takumi Ota
Fabbrica dell’Aria® PNAT 2023/©photo Takumi Ota

フィレンツェを拠点とする「PNAT」は、自然環境と人工環境の相互交換を引き起こすことを目的とするスピンオフ企業。本展では、金沢市内の樹齢1000年の大ケヤキの生体信号を受信し、展示室内のモニターに映像で表現するインスタレーション『Talking God(神と話す)』を制作。

エヴァ・ジョスパン『パラティンの森』2019-2020/Collection of Renschdael Art Foundation Photo ©Benoît Fougeirol courtesy Eva Jospin
エヴァ・ジョスパン『パラティンの森』2019-2020/Collection of Renschdael Art Foundation Photo ©Benoît Fougeirol courtesy Eva Jospin

パリ生まれのエヴァ・ジョスパンの巨大な彫刻作品は、厚紙や段ボールで造られた森。木材が原料の段ボールが、彫刻され、森になる……。細部を見ると洞窟や建築物にも思え、遠くから眺めたり、近づいたりすることで、その世界に吸い込まれていくよう。

(参考記事) Numero.jp「毎年注目の『ルイナール』アーティストコラボレーション、2023年はエヴァ・ジョスパンが制作」

AKI INOMATA 『彫刻のつくりかた』2018–2024 (ongoing)/CAFAA賞 2020-2021年 個人蔵および作家蔵 Photo by Keizo Kioku, courtesy of Contemporary Art Foundation
AKI INOMATA 『彫刻のつくりかた』2018–2024 (ongoing)/CAFAA賞 2020-2021年 個人蔵および作家蔵 Photo by Keizo Kioku, courtesy of Contemporary Art Foundation

AKI INOMATAは、人間以外の生き物や自然との関わりから生まれるもの、ヤドカリやミノムシなど、それぞれの生態を生かしたコラボレーションによって作品を制作している。本展では、水辺でダムを造る”ビーバー”との作品を。動物園に依頼し、ビーバーの飼育エリアに角材を設置。ビーバーたちが齧った木を集め、そのフォルムをもとに作品へ。ビーバーと木の関係、齧られた木に人間と機械が関わり、彫刻作品となった。

(参考記事)Numero.jp「コロナ禍に生まれたAKI INOMATAの新プロジェクトが公開中」

2024年1月の能登半島地震の後に、生まれた作品や取り組みも。
アルゼンチン出身のアドリアン・ビシャル・ロハスは、地震後に美術館を訪れ、震災前はガラス板だった天井に『消失のシアター』として、15世紀のイタリアの画家・ピエロ・デ・ラ・フランチェスカ『出産の聖母』を複製したものを張った。そして地上には『想像力の果て』と題した彫刻作品を。コンクリートや金属、廃車の部品からなる巨大なオブジェが設置されている。

Rediscover project 実行委員会
Rediscover project 実行委員会

「Rediscover project」では、破損した九谷焼や珠洲焼の破片を、二次避難をしてきた輪島塗の職人たちが金継ぎなどの技術でつないだ。同じ地域でありながらも、職域の違いにより、これまで出会う事のなかった職人たちによる、新しい創造の可能性を示した。

ジョゼッカ・ヤノマミ『Hwei xapiri Konori apatarɨ xapiri pë kãe wai yëɨ, ai xapiri pënë ihuru a tëhurupëhë hamë ãriãha kõahenë pë pihi kãe yëahërae huruma. Inaha xapiri pëha kuanë yanomãe thëpë haromaɨ he. Omoãri anɨ ihuru a tëhuruu makii, ɨnaha yamakɨha kurae hurunɨ ihuru yama a haromari』2011/The Museu de Arte de São Paulo © Joseca Mokahesi Yanomami
ジョゼッカ・ヤノマミ『Hwei xapiri Konori apatarɨ xapiri pë kãe wai yëɨ, ai xapiri pënë ihuru a tëhurupëhë hamë ãriãha kõahenë pë pihi kãe yëahërae huruma. Inaha xapiri pëha kuanë yanomãe thëpë haromaɨ he. Omoãri anɨ ihuru a tëhuruu makii, ɨnaha yamakɨha kurae hurunɨ ihuru yama a haromari』2011/The Museu de Arte de São Paulo © Joseca Mokahesi Yanomami

アマゾンやカナダの先住民族の作家の作品も展示。アマゾン地域に住む先住民族は「自然」という言葉すら持たないという。ジョゼッカ・ヤノマミによるドローイングは、幼い頃から聞いてきた神話や、シャーマンの詠唱に登場する場面や民族の宇宙観を描いている。

マリア・フェルナンダ・カルドーゾ『芸術の起源について I-II』2016/Collection of the artist © Maria Fernanda Cardoso
マリア・フェルナンダ・カルドーゾ『芸術の起源について I-II』2016/Collection of the artist © Maria Fernanda Cardoso

マリア・フェルナンダ・カルドーゾが映すのは、米粒よりも小さなジャンピングスパイダーと、知られざる求愛の儀式。クモ学者、昆虫学者、顕微鏡医、マクロ撮影家の協力を得て実現した。

言葉が生まれる前、私たちは身体の動きや音によってコミュニケーションをとっていたという。動植物も人間も分け隔てなく、感じ、交感すること。そして様々な分野を進むクリエイターたちが出会う地点で見えてくるもの。
本展で作品を知るほどに「すべてのものとダンスを」というタイトルが腑に落ちてくる。いつだって、どこでも、誰と、何とでも、私たちは感じ合い、踊ることができる。会期は2025年3月16日まで。期間中はさまざまなイベントや関連した企画も行われる。ぜひ金沢へ。

すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジー
期間/2024年11月2日(土)~2025年3月16日(日)
時間/10:00~18:00(金・土曜日は20:00まで)
会場/金沢21世紀美術館
休場日/月曜日(ただし2025年1月13日、2月24日は開場)、12月29日~2025年1月1日、1月14日、2月25日
TEL/076-220-2800
URL/www.kanazawa21.jp

Text:Hiromi Mikuni

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