松尾貴史が選ぶ今月の映画『ノーヴィス』 | Numero TOKYO
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松尾貴史が選ぶ今月の映画『ノーヴィス』

大学女子ボート部に入部したアレックス(イザベル・ファーマン)は猛烈に練習に励み、同期にライバル心を燃やす。レギュラーの座をめぐって熾烈な争いが繰り広げられ、その強すぎる執着心は次第に狂気を帯びていく……。『セッション』や『ヘイトフル・エイト』など錚々たるハリウッド作品の音響で活躍してきたローレン・ハダウェイによる初監督作『ノーヴィス』の見どころを松尾貴史が語る。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2024年12月号掲載)

「努力」とは何か

大学の女子ボート部に新入り(ノーヴィス)として入部した主人公のアレックスは、苦手な科目を専攻しつつ学業と部活動を両立させよううとする女子学生です。というと、それは応援してあげなくてはと思ってしまう短絡な私ですが、冒頭からいきなり彼女の持っている、成果を残すためにはどんな努力も厭わないという執念が、次第に顕在化していきます。

上級生がケガで脱落し、その枠を手に入れるために熾烈な競争が始まるのですが、どういう展開になるのかはここでは触れないようにいたします。なるほど、皆で高みを目指すという姿は美しいものであると思い込みがちですが、枠が存在することによって美しくも汚くもなるのでしょう。

おわかりのとおり、努力をする人の話です。ひと昔、いやふた昔前の言葉で言うと「スポ根」ものです。すこぶる明快なのですが、この努力」というものが何であるかという定義について考える機会を、私たちは日常的に持ち合わせていません。テレビの影響が大きいかもしれませんが、「努力」=「素晴らしいこと」という固定観念は、残念ながら多くの人に根付いているでしょう。落語家の立川談志師匠に「努力というものは無能な者に残された最後の希望」と教えられたことを思い出しますが、つまり、同じエネルギーと時間を費やしても、それを苦に思わない、「自分は努力をしている」という自覚のない人だけが、偉業を成し遂げるのだと考えます。

私ごとで恐縮至極ですが、個人的に、「努力」というものが大嫌いなのです。関連して、「頑張る」「我慢する」という行為も、言葉自体も、好きではありません。なぜ嫌いかといえば、程度にもよりますが、努力をする人の周囲は、往々にしてはた迷惑なのです。

頑張ることは、文字通り頑なに張るわけですから、理不尽な状態である前提が間違っていることも多く、すこぶる不健康だと考えます。余談ですが、つい最近政権を投げ出してアメリカに卒業旅行に出かけた前総理大臣が、出発の直前申し訳のように震災と豪雨の被災地である能登半島へ行って、板に大きく「頑張りましょう! 岸田文雄」と書いたことには、悪印象しか残りませんでした。

話が逸れました。誰にでも、努力をした時期があるでしょうし、今も継続しているかもしれません。この作品は、それらについてじっくり見つめ直すきっかけとなる映画であると思います。第20回トライベッカ国際映画祭で作品賞と撮影賞、主演のイザベル・ファーマンは主演女優賞を獲得しています。もちろんですが、さすが音響の巧妙さには凄みを感じます。そして、スタイリッシュで洗練された映像で画面から目を離せません。「綺麗な絵ではなく、美しい絵だから」と言いたいのですが、共感していただけるでしょうか。

『ノーヴィス』
監督・脚本・編集/ローレン・ハダウェイ 
出演/イザベル・ファーマン、エイミー・フォーサイス、ディロン
全国順次公開中
https://www.novice-movie.com/

© The Novice, LLC 2021
配給:AMGエンタテインメント

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Text:Takashi Matsuo Edit:Sayaka Ito

Profile

松尾 貴史Takashi Matsuo 神戸市生まれ。俳優、タレント、創作折り紙「折り顔」作家などさまざまな分野で活躍中。著書に『人は違和感が9割』など。カレー店「パンニャ」 店主。

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