【連載】松岡茉優の「考えても 考えても」vol.6 あなたへ | Numero TOKYO
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【連載】松岡茉優の「考えても 考えても」vol.6 あなたへ

圧倒的な演技力で唯一無二の輝きを放つ俳優、松岡茉優。芸能生活20周年を記念して、Numero.jpでエッセイ連載をスタート。vol.6はしんどい日々を乗り越えるための対処法について。

vol.6 あなたへ

チーム「しんどい」のみんな、深呼吸してる? ほんと、毎日参っちゃうね。
良いときは30分、悪いときは8秒に一度、嫌なことを思い出すか、嫌な想像をするか、不安で胸が掻きむしられそうになるよね。
嫌なことを思い出したときの対処法は身につけ始めたよ。それはね、何かを食べればいいんだ。満腹にすると、不思議と嫌な思い出はよみがえりづらくなる。
嫌な想像をしたときには、とことん想像させてあげることにした。その妄想は止まらないから、クライマックスまで見てあげるしかないよ。エンドロールまで流してやれば落ち着くからさ。

困ったのは、不安で胸が掻きむしられるとき。何が不安なのか、すぐに原因が見つかったなら、安心させるための一手を探すこともできるからまだ良いのだけど、何が不安なのか、理由が思い当たらないとき。こればっかりは、もう、どうしようもない。何かに集中しようが、気を逸らそうとしようが、のペり、とそいつがつきまとう。私が今、まさにその状態。
だから、チーム「しんどい」のみんなに宛てて、私が日々実践している対策を共有しようと思った。
普段は言葉遣いに気をつけているつもりだけど、今回は友達みたいに話させてもらう。同種のみんなに、仲間として。

近年のヒットはある絵本から。『だいじょうぶだよ、モリス』という絵本。その絵本の主人公モリスは、新しい幼稚園に転園するのが不安で仕方ない。家族にこの不安を解消する方法を尋ねていくのだけど、モリスのお姉ちゃんの薦める解消法が、素晴らしい。簡単に説明すると、胸の中にある不安を、くるくると回して遊んでいれば、そのうちどこかへ消えてしまうよ、というの。なにそれ? と思うかもしれないけれど、一度試してみてほしい。今あるその不安の塊みたいなものを、くるくる、ぽーいっと、投げてみる。イメージするのが難しかったら、動作をつけるのもおすすめ。
ちょびっとずつでいいから、くるくる、ぽーいっと投げていく。するとなんだか、ちょびっと不安が減る気がしないかい? 不安の全てが消えるわけではないけれど、私はこれで眠れない夜を何度も越えることができた。

最近発見して、続けているのは携帯の通知をオフにすること。特にメールやLINEって、大好きな人からの連絡もあれば、しんどい人からの通知もあるじゃない。それが、時を選ばずにやってくるのって、実はかなり負担なのでは、と考えたの。
思い切ってオフにしてみたら、俄然、楽。自分が「お、今なら開けるぞ」ってときに開くから、ある程度覚悟もできているし、少しは余裕のあるタイミングで見られる。
ぽんぽんと、通知がきて、突き動かされるように携帯を開かなきゃいけないのって、つらかったんだって、やってみてわかった。いかに自分の休息の時間が生まれない方程式だったのかって。
注意が必要なのは、自分の返事が遅いことで、相手に不利益を生むことね。スピードが大事なやりとりをしているときは通知をオンに戻しているよ。あと、電話機能だけは常にオンにしてる。仕事のことでなにか急ぎの用事あるかもしれないし、他のことでもね。

そしてこのエッセイを始めて実感したのは、書くことで、心と頭がずいぶん整理されるということ。頭の中のもやもやも、晴れない思いも、書くことで整頓されるなぁと実感する5カ月だった。
これまでも、子どものころから書く習慣はあって、それが日記だったり、メモだったりしたけれど、エッセイという場で、人に見せるつもりで書くことで、私はこうしたかったんだ、って、自分の心に出合う感覚がある。

あと、人に読んでもらうって思うと、言葉を調べるじゃない。これ、使い方合ってるのかな? とか、この言葉は使いたくないのだけど、言い換えの言葉ってあるかしら、とか。調べてみると、新しい言葉と出合えたり、もともと使っていた言葉の本来の意味を知ったりする。そうするとね、自分が言いたかったことが、すでに載っているのよ。 
きっと、大昔に、この言葉を使いたかった人がいたんだな。そして、何人もの人が使ってきたから、この言葉が今も残っているんだな、って思うとさ、一人じゃねぇなぁ、って思うのよ。

私はお金をいただいて書いているから、これ面白いのかな? って、もちろんずっと不安だし、1年といわずに3カ月後の自分が見ても、恥ずかしい! って感じると思う。でも、その気持ちをも乗り越えてくるほどに、書くことで救われてるの。

だから私はあなたの文章が読みたいと思う。「しんどい」あなたが、誰かが読むと思って書いた文章。私はそれが読みたい。あなたが紡いだ言葉たちが、また誰かの目に届いて、共感した人が、その言葉を使う。私やあなたの文章そのものは、100年後、残っていないと思うけれど、私やあなたの使った言葉は、きっと残っている。
そう思ったら、本当に一人じゃなくない?

今日も眠れないね。
明日が来るのが嫌だね。
会いたくない人に明日も会わないといけなかったり、自分ではどうにもできない悩みが四方八方から押し寄せてきたり、こんなにしんどい毎日なのに、読んでくれて、ありがとう。
ネットの海をさまよって、きっとあなたの文章を見つけるから。
だから今日、なにかを書いてみて。それを読ませてほしい。

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Text:Mayu Matsuoka Logo Design:Haruka Saito Proofreader:Tomoko Uejima Edit:Mariko Kimbara

Profile

松岡茉優Mayu Matsuoka 俳優。1995年、東京都生まれ。2013年、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』に出演し、一躍名を馳せた。16年に映画『ちはやふる 下の句』、『猫なんかよんでもこない。』で第8回TAMA映画賞 最優秀新進女優賞を受賞し、期待の若手俳優として注目を集める。18年、第42回日本アカデミー賞にて『勝手にふるえてろ』で優秀主演女優賞に、『万引き家族』で優秀助演女優賞に輝く。19年に『蜜蜂と遠雷』で、20年に『騙し絵の牙』でも同賞優秀主演女優賞を獲得。近年の出演作にテレビドラマ『初恋の悪魔』(日テレ系)映画『スクロール』『連続ドラマW フェンス』Netflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』ほか。23年7月期の新土曜ドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日テレ、7月より毎週土曜よる10時放送)で主演を務める。10月27日には主演映画『愛にイナズマ』(秋公開予定)も公開予定

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