パントビスコの不都合研究所 vol.13 飯島望未
世の中に渦巻くありとあらゆる“不都合”な出来事や日常の些細な気づき、気になることなどをテーマに、人気クリエイターのパントビスコがゲストを迎えてゆる〜くトークを繰り広げる連載「パントビスコの不都合研究所」。今回のゲストは、バレエダンサーの飯島望未。
パントビスコ「今日は飯島さんの所属するKバレエカンパニーのスタジオにお邪魔しています。こういった場所に来るのは初めてなので、いろいろと気になることがあります。今日はよろしくお願いします」
飯島望未「お越しいただきありがとうございます! 今はちょうど3月の公演『白鳥の湖』に向けてリハーサルの真っ只中です」
パントビスコ「早速なのですが、お互いの似顔絵を描いていただけますでしょうか。そのイラストをこの対談のアイコンにしますので」
飯島望未「似顔絵ですか、なかなか難しいですね…」
似顔絵、完成!
(左)パントビスコが描いた飯島望未 (右)飯島望未が描いたパントビスコ
「特徴を掴んでいますね! お上手です」
「犬のぺろちにいつも癒されているので、隣に描いていただけてうれしいです」
「ぺろちの頭の上には、トウシューズを描きました。ところで、本題に入りますが、普段日常生活で不都合に感じていらっしゃることって何かありますか?」
「なんだろう…。そう言われると、パッと思い浮かばないですね(笑)」
「では私からいいですか。ネットで伏せ字を使う人がいますよね。例えば、企業や著名人の名前を出すときに、パン●ビスコみたいに。昔は、企業名や個人名を出さないための気遣いかなと思っていたんですよ。でもよく考えたら、自分が叩かれないための逃げなのではと気づきました」
「伏せているのにわかってしまいますよね。逆に全部言ってくれた方がいいのになって思います」
「あとは自転車が無敵すぎる件です。車道を走っておいた方が楽なときは車の顔ができるし、歩道を走っているときは歩行者の顔ができる。法律のいびつな部分なのですが、それを悪用して危険運転する人がいて何度も轢かれそうになりました」
「マナー違反はいけないですね。危ないし、怖い」
嫌なことがあっても、忘れるタイプ
「そうなんですよ。飯島さんは、そんな風に嫌な思いになったりすることはありませんか?」
「あまりないかもしれません。嫌なことがあっても、忘れちゃうんですよね。きっと何も考えていないからです(笑)」
「本当ですか? 僕の場合は意見が合わない人とはもう合わなくていいや、と思うタイプなのですが、それを気にしないというスタンスが羨ましいです」
「気にするときは気にしますけど、すぐに忘れちゃうんですよね」
「例えば人間関係で合う人、合わない人がいるとします。みんな人間なので。そういう人がいるときって、ずっと考えたりますか?『うわ〜この人苦手だなぁ』とか」
「苦手だなぁっていう意識はあるけれど、一回は仲良くなろうとはしますね。円滑に物事を進めるためにも、一応努力はしますが、相手の努力が見られないときは『あぁ無理だなぁ』って思います」
「こちらから歩み寄るんですね」
「それが仕事上なら、みんなが自分のやるべきことをやっているだけで、苦手だとしても気にしている暇はないので…。それ以外で考えると、日常生活で嫌なことってあまり思い当たらないかもしれないです」
「その考え方は素晴らしいですね!」
「猫の気持ちがわかるようになりたいっていうのが、唯一の悩みですかね(笑)」
バレエの世界における“不都合”とは?
「では、バレエの世界において、何か『こうだったらいいのにな』って思う点はありますか? 例えばトウシューズが100円だったらいいいのにな、とか。高いんですよね? どれくらい履き潰すんですか?」
「種類にもよりますけど、早くて1日〜2日ですね。潰れても、中にグルーを入れて固めるんですけど、それで長持ちさせています」
「消耗品なのでお金がかかりますよね。特にこれからバレエを頑張っていこうという若い世代の方は大変ですよね」
「そうですね。バレエ以外のことを心配しながら踊らなくてはいけないダンサーたちもたくさんいますし、これからもっとバレエが注目されるようになったらいいなと思います。Kバレエだけでなく、いろいろなバレエ団がスポンサーの支援も受けられたらいいですよね」
「いいものを表現して、多くの人に感動してもらうというが目的でもありますもんね。私は飯島さんは特殊な存在だと思っているんですよ。バレエを本業として、シャネルのビューティアンバサダーをされていたり、SNSでも割とラフに投稿されていて。バレエをやっている人って身近に感じていいんだって、第一線で発信されているという感じがします」
「そうですか? あまり意識したことはないです」
「それがいいんです! 僕たちもバレエを伝統芸能のように見ているところがあると思うんですよ。だから気軽にそういう世界に触れたりしてはいけないんじゃないかという気持ちもあって。その高尚なアートと、一般的な人の感覚との間にいらっしゃる存在だと思っています」
「私を窓口にしてバレエを知っていただけるきっかけになったら、うれしいですね。ただラッキーで、いろいろなことに興味があるので、そうなっているのかもしれませんが(笑)」
「逆は多かったと思うんですよ。舞台や作品を見て、その人が気になりだすというパターンが。そうじゃなく、あるときSNSのおすすめに流れてきたりして、『この人バレエもしてるんだ!』とか。そういう入り方って大事だと思うんですよね」
「私のフォロワーさんは、多分そういうルートから知っていただいた方が多いと思います」
言葉を使わない表現ゆえの難しさ
「バレエのお話が出たので、今度の作品のお話をお伺いしてもよろしいですか? まずは、こちらの「クレオパトラ in Cinema」。映画館で昨年公演された『クレオパトラ』を上映されるのですね」
「映像で見ると、いろいろなアングルだったり、表情や衣裳も細かいところまで見られるので、また違った体験ができると思います」
「3月22日からは、『白鳥の湖』がスタートしますね。今絶賛お稽古中だと思いますが、いかがですか?」
「本当に古典って一番難しいなというのを改めて感じています。それと、チャイコフスキーの音楽ってやっぱりいいなと思いますね。人気の作品なので、皆さんの期待値も高いと思いますし、こちら側もモチベーションを高く持って練習しなければと常々思っています」
「考えてみたら、バレエはセリフなしで、ストーリーや感情を表現するという芸術なのがすごいですよね」
「音楽と身体表現のみですね。だからこそ、見ている人を魅了するというか、また見たいと思わせてくれる芸術なんだと思います」
「それで言うと、非言語のアートって羨ましいなと思うんです。僕は言葉を使って作品を作ることが多いのですが、言葉のない芸術で感動させるということにすごく憧れがあるんですよ」
「でも言葉の表現って一番刺さるじゃないですか。言葉選びもセンスだし、きっと救われている人もたくさんいると思います。バレエは視覚的芸術なので、『あぁきれいだったなぁ』という感想ももちろんすごくうれしいのですが、物語などが伝わるように努力しなくてはなぁと思っています」
「やっぱり初心者や知らない人からすると、ちょっと難しそうって思っちゃいそうです」
「感じたままでいいと思うんですけど、初めて見る方たちにも伝わるように努力しますが、難しいですね」
「その『難しい』という言葉が、向上心ですよね。もうバレエのことは全部知り尽くしたというのではないですもんね」
「全然! まだまだです。毎日が学びです」
「なんだか、飯島さんは不都合とは程遠い存在ですね」
「いえいえ、不都合だらけで…。あ、小さな不都合を思い出しました。SuicaとかのICカードをタッチするとき、全然反応しないときはちょっとイラッとします(笑)」
「確かにありますね。後ろで人を待たせていると焦りますし。近年話題になっている、レジを通り過ぎるだけで決済を行うウォークスルー決済の導入が実用化に向けて進んでいますよね。駅でもそうなればいいですよね」
「そんなシステムがあるんですね!?」
「悩みや不都合も、ウォークスルーで知らぬ間に解決してた!という世界が早く来ませんかね」
熊川哲也 Kバレエカンパニー「クレオパトラ in Cinema」
日程/2023年3月3日(金)〜3月16日(木)2週間期間限定上映
劇場/全国ユナイテッド・シネマ、シネプレックス系全国42劇場
www.k-ballet.co.jp/contents/608123
熊川哲也 Kバレエ カンパニー Spring 2023 『白鳥の湖』
日程/2023年3月22日(水)~3月26日(日)
会場/Bunkamuraオーチャードホール
www.k-ballet.co.jp/contents/2023swanlake
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Photos: Takao Iwasawa Text & Edit: Yukiko Shinto