見たことない!を届ける気鋭の表現者たち。vol.2 井野将之 × PZ Opassuksatit
「これいったい何!?」と思わず見入ってしまうような“普通じゃない”を覚える作品に、いまワクワクが止まらない。
それらを生み出し、私たちの感性を刺激してやまないアーティストやクリエイターをピックアップ!
第2回はdoubletデザイナー・井野将之、アーティスト・PZ Opassuksatit。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』12月号掲載)
世界を笑顔に巻き込む2人のタッグに世界が注目!
ブレインランゲージでの対話
──2人が知り合ったきっかけは?
井野将之(以下、I)「いろいろなデザイナーが集まってご飯を食べる会があったんですけど、そこで話したのが初めてだと思います。僕らがLVMHプライズを獲ったばかりの頃、インスタントヌードルのプロダクト(カップの中身を水に浸すとTシャツになる)をPZが気に入ってくれていたのを覚えています」
PZ Opassuksatit (以下、P)「私が日本で初めてインスタレーションをしたときね。そのときに見たカプセルボール(ガチャガチャ)のシリーズも素晴らしくて、日常に存在するものをコレクションに変換していることに感銘を受けて、『このブランドは何!?』って。その後にディナーをして知り合ったときに、『あなたのアイデアはすごくクレバー』と伝えたことを覚えています」
──初めてコラボレーションをしたのはいつですか?
P「最初はリングボックス。インスタントヌードルのアイデアが好きだから、リングボックスを水に入れるとビッグTシャツになるというアイデアを思いついて、私からコラボレーションしたいと伝えたの。それがよく仕上がったから、次のショーでもコラボレーションしましょうってことになったの」
──井野さんとお仕事をしたときの印象はどうでしたか?
P「いつも物静かだけど、一緒に作業しているとすごく楽しいので、私はいつも大きな声で笑ってる(笑)。私は“ブレイン・ランゲージ”と呼んでるんだけど、脳で会話をするというか、すごくシンプルな単語や手ぶりでアイデアを伝え合うの。そうやって私たちのクリエイティビティでお互い何が欲しいのかを理解していったんだけど、私にとっては家族や友達と創造力を拡張していくような感覚だった」
──コラボレーションの中で印象に残るものは?
I「6月にパリで発表したショー(2023春夏)のアートディレクションをPZにやってもらったんですけど、動いている35人のエキストラが突然止まるところからショーがスタートして、その中に『ストレンジャー・シングス』のイレブンというキャラに扮した人がいたんですよ。PZに『作品が最近すぎるからやめない?』って言ったんですけど、実際はめちゃめちゃ面白かった。そういう『楽しいことをやろうよ』ってアイデアを出すPZはすごく素敵なんですよね」
P「私も最新のコレクションは印象深い。その前のコラボレーションはコロナ禍になる前のことだったから、今回は何かを壊すようなフレッシュさが必要だと感じていたの。エキストラとモデルをコントロールするなかで大変なこともあったけど、やってみたらクールになった。『ストレンジャー・シングス』にはずっとハマっていて、あのときはちょうど最新エピソードが配信されたばかりだったから(笑)」
リアリティとユーモアを軸に
──これまで一緒に仕事をしてきて、お互い得たものは何でしょう。
I「ロンドンでは人の型を取って作ったたくさんの人形たちに服を着せたり、日本では“酔っ払いのサラリーマン”のインスタレーションをPZはやったことがあるんですけど、イメージをヴィジュアルで見せるということに関して彼女は本当に素晴らしくて、それは自分の考えにも近いところがあったので共感しました。印象的なアイデアに多大な影響を受けています」
P「私は彼が作る服が好きで、彼のクリエイティビティにカリスマを感じるし、エナジーと才能を感じる。各々のピースに素晴らしい物語があるし、さらに服のクオリティも高い。写真や画像で見ても、リアルに服を見ても素晴らしいの。ディテールに関しても細かくて、独特のものがある。私はそういったことにインスピレーションを受けています。あと重要なのは、ユーモアとコメディ要素を持ち合わせていること。ファッション業界はそれを持ち合わせていることが少ないから、彼のクリエイションは業界をリフレッシュさせてくれるのよ」
──2人の共通点が見えてきました。
I「決してSFではない、日常におけるユーモアとリアリティですね。現実と非現実の間を行き来する感じの表現だったり」
P「重要なのは、人々を笑顔にさせること。それには自分自身が笑えることを探すことが大事で、シンプルさの中に人間にとっての美しさとユーモアを見つけること。難しいことだけど、それが大切なんです」
──今日の取材でもPZさんは人を笑顔にさせてくれる方だなと感じます。ところでPZさんは普段はどのようなことをされているんですか?
P「インスタレーション、アート制作とやりたいことをやっているだけだけど、私自身はファッションとかアートとかの境界線を曖昧にすることを大事にしていて、さらに私は人をカテゴライズするのも好きではない。その中で自分が考えたアイデアを具現化するまでできることは何でもやるって感じね。今はアーティストという肩書きでやっているので、なんでもやっていいと思うし、直感を大事に自分が好きなことを追求している感じ」
I「その感覚に、僕は沁みるように同感なんですよね。あとPZのすごいところは、全部に対して手を抜かない完璧主義で、仕事がとても丁寧。完成度がそれぞれ非常に高いので、一緒に働いているとひとつ上のところに自分を持っていってもらえる、そんなアーティストです」
ストーリーを楽しく伝達
──クリエイトする上で、何を一番大切にしていますか?
P「どうしたら人々へストーリーを伝えられるか、意識することかな。人々にとって普通なことでも、それを変換して異なったストーリーを伝える。それと、作品をユニークな方向で見せていくということ。人々の日常にあるものにひねりを加えて違う方向で楽しく見せることをしたい。一緒に笑ってほしいの」
I「それがこちらからの一方通行ではなく、お客さんとの言葉のキャッチボールになればいいなって思いますね」
P「それってすごく大切なこと。前に井野さんのインタビューを見たときに『コメディアンになりたかった』って書いてあったんだけど、私たちは自分たちのアートをコメディ的な方向で表現しているのかも」
I「楽しいことが好きなんですよ。僕も何かを作ろうとしたときに、楽しいとかワクワクしないとやっぱりいいものが作れない。だから自分の好奇心を大切に、面白いと思うことを続けていきたいんですよね」
Interview & Text:Kana Yoshioka Translation:Hashim Kotaro Bharoocha Edit:Sayaka Ito, Mariko Kimbara