小谷実由 インタビュー。東京は”何でもあるけれどなんでもない(特別ではない)街”
生まれも育ちも、そして現在拠点としているのも東京というモデルの小谷実由。東京を"何でもあるけれどなんでもない(特別ではない)街"と表現しつつ、今の暮らしに必要なものはこの街にすべてあるという。彼女のスタイルを形づくる場所と愛猫との生活。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2022年10月号掲載)
駄菓子屋のように 毎日でも通いたい書店
──小谷さんにとって書店はどんな場所ですか。
「私にとって書店はいつでも行きたい場所。子どもにとっての駄菓子屋さんみたいな感じですかね?街で書店を見つけると吸い込まれるように入り、とりあえず何かが欲しいという一心で棚を見る。気になる本があったらこの本には出合うべくして出合ったに違いない!と、無理やりこじつけて買います(笑)」
──多くの作品が電子化する時代ですが欲しくなるのはいつも紙の本?
「そもそも本という存在自体が好きなんです。形のあるモノとして所有して、あの書店で買ったなあなどと思い返しながら読みたくて」
──だからこそ、行きつけの書店に対する思い入れも強い?
「そうですね。ここ、スノウショベリングは店主の中村秀一さんがとにかく面白いんです。話を引き出すのが上手で、時々核心を突くイジワルな質問もされ(笑)、ついいろんな話をしちゃいます」
──お店の名物「Blind Date With a Book」がお気に入りだそうですね。
「Blind Date With a Bookは作品名と著者名、表紙が見えないように文庫本が紙に包まれていて、そこに綴られた中村さんの作品に関するワンセンテンスを頼りに、未知の本と出合えます。私はカバーを見て本を買うことが多いので、この企画で普段は手に取らない本を知るきっかけになるから、すごくいいなと」
──SPBS本店とロスパベロテスを選んだ理由は?
「奥渋谷のSPBS本店は、昔近所に住んでいた頃の行きつけ。夜も営業しているので、友達と外食して解散した後、よく寄り道していました。ここで買って大好きになった本がたくさんあります。ロスパペロテスも、近くに住んでた頃からよく通っています。カルチャー系の古本が充実していて、私が集めている『カラーブックス』の棚もあるんです。欲しい本を探してもらったり、私が好きそうな本を教えてくれたり、店主の野崎さんにはいつもお世話になってます」
──幼い頃から読書家でしたか。
「いえ、実はじっくり読むようになったのは約4年前です。お恥ずかしながら、それより前は携帯ゲームづけでした。時間を見つけては即ゲーム。本当にやりすぎてましたね…。一方カバーが気になる本を買い集めていたにもかかわらず、読まずにただ積んでいて、そういう状況に心のどこかで罪悪感が。そこでゲームアプリをすべて消して、それまでゲームに充てていた時間で本を読むようになりました」
──ここ数年はエッセイをよく読まれているとか。
「近年執筆のお仕事も増えているので、100%趣味というよりは、言い回しや書き方などの気づきを得たいという気持ちも強いです。先日、27〜30歳の間に書いたエッセイをまとめた『隙間時間』が刊行されました。もしこの本を何十年も大事にしてくれる方がいたとしたら、その方の子どもが本棚から取り出して読んでくれるかもしれない。例えば30年後、この本に書いた27〜30歳の私に、同年代の女性が本を通して出会ってくれたらすごくうれしい。そういうきっかけになり得ることも、本の魅力だと思います」
誰かのため自分のために通う都心部の秘密の花園
──インスタで#花壇ウォッチャーの投稿をするほど、花は小谷さんの暮らしにおいて身近なものなんですね。部屋に飾る習慣ができて10年以上たつということは学生時代から?
「初めてお花を買ったのは学生の頃ですね。当時お金もなく、学校やバイト先と実家を往復する毎日に倦んでいたのですが、偶然通りかかったお花屋さんの小さなブーケに目が留まりました。毎日眺めるたびに変化があって楽しかった。それから家族に買って帰ったり、知人のお花屋さんを手伝っていた時期もありました」
──小谷さんにとって花はどんな存在ですか。
「花は日常に余裕を与えてくれる存在です。私は性格的に忙しくなると時間に追われるタイプですが、そんな日々でもお水を換えるときだけはきれいだなという気持ちで満たされます。お花屋さんに行くと季節を感じられるし、素敵なお花があったからと人にあげるのも楽しい。好きなお店は何軒もありますが、店主さんの人柄がお花に投影されているようなお店には通いたくなります。ドゥフト店主の若井さんはかわいらしい雰囲気をお持ちの方ですが、並んでいるお花や内装を見ると私は芯の強さを感じる。それが楽しいです」
──#花壇ウォッチャーの投稿し続けるのも、これに近い理由が?
「昔から公園などのパブリックな場所や住宅地などでいいなと思っ花壇を見つけたら写真を撮っていました。公園の花壇は一面同じ花ということも多く、圧倒されます。住宅地ではたまに発泡スチロールを鉢にしていたり、菜箸が剌さっていたりして、そういう生活感がある花壇も大好きでスルーできません」
東京暮らしはこの子とともに同棲歴7年目の愛猫
──ここ数年の小谷さんの日常を誰より近くで見つめているのは、猫のしらす。7年前から共に暮らし、今はズパリどんな存在?
「神様です!…って飼い主としてはどうしても言いたくなっちゃう(笑)でも神様のように感じる瞬間が生活の中に数知れずあります。日中、どんなに嫌なことや悲しいことがあっても、家に帰ってしらすを見たら、それだけで全部どうでもよくなっちゃう。しらすは特別なことをわざわざしないでいいし、寝ていてもいいんです。居てくれるだけでうれしくなります」
──しらすとの出かけ先で最も多いのが、同じ東京に暮らす両親の家というのもなんだか癒やされます。
「一泊でも家を留守にするときは、今住む家の近所にある実家に預けます。しらすがまだ子どもの頃からたまに連れていっていましたし、親も大の猫好き。実家は猫を飼っていませんが、祖父がしらすのために用意したキャットタワーもあります。だから私の用事が済んで迎えに行くと、どこか帰るのがイヤそうな顔に。楽しめてよかったねと思う半面、少し悲しい」
──しらすのいる東京ライフになってから生活のリズムに変化は?
「前は外で遊ぶのが大好きでしたが、しらすを迎えてからは”早く帰らなきゃ!”と。あと仕事の合間があるときは、1秒でもしらすに会いたくて帰宅。で、何してたの寝てたのと聞きまくり、少ししたらまた行ってくるねーといなくなる。しらすは『せっかく寝てたのに!』と思ってるかもしれないんですが。一緒に暮らして早7年、しらすは今も毎日かわいくてたまらない子です」
Photos:Ayako Masunaga Text:Nao Kadokami Edit:Saki Shibata