パントビスコの不都合研究所 vol.12 SKY-HI
世の中に渦巻くありとあらゆる“不都合”な出来事や日常の些細な気づき、気になることなどをテーマに、人気クリエイターのパントビスコがゲストを迎えてゆる〜くトークを繰り広げる連載「パントビスコの不都合研究所」。今回は12月12日にニューアルバム「THE DEBUT」をリリースしたSKY-HIがゲストに登場!
パントビスコ「今日はお忙しいところありがとうございます。ようやくお会いできたので嬉しいです」
SKY-HI「こちらこそよろしくお願いします。パントさんとはかなり前からInstagramでフォローし合っていますよね。最初に認識したのは犬のぺろちかな?」
パントビスコ「それは結構前になりますね。描いててよかったです(笑)。この連載では、最初にお互いの似顔絵を描き合うのがお決まりになっていまして、早速なのですが描いていただけますでしょうか」
SKY-HI「はい、一枚目描けました」
パントビスコ「そんなに何枚も描くんですか(笑)?」
SKY-HI「納得いくまで描きたいと思います。ちょっとデフォルメして描くといいのかな。あ、いい感じになってきました」
似顔絵、完成!
(左)パントビスコ画「SKY-HI」 (右)SKY-HI画「パントビスコ」
「おぉ、うまい!さすがですね」
「帽子が小さいなぁ(笑)」
「ヒゲとメガネと帽子を描くとどうしても年齢が上に見えるとわかったので、3枚目であえて上に振り切りました」
(左)一枚目(右)二枚目
「3枚も描いてくださった人は初めてです」
「似顔絵って別に似なきゃいなきゃってこともないじゃん、と思って」
「おっしゃる通りです。これを記事内でアイコンとして使いますね」
「すみません、毎回『お茶』と話す人がいて(笑)」
どうすれば即興でラップできるようになりますか?
「SKY-HIさんは、会話でちょっとボケなきゃとか気の利いた返しをしなきゃって思うタイプですか?」
「う〜ん、思うタイプだし、勝手にやっちゃうのもありますね。高田純次さんスタイルです(笑)。そうしなきゃっていう歪んだサービス精神もありますし」
「エンターテイナーですね。それこそ、ラップのフリースタイルだったり、即興で披露する部分もあるじゃないですか。僕はどちらかというと熟考して、これとこれを排除してこれにしようって作品を作るタイプなんですけど、アドリブやフリースタイルで言葉が出る人ってどういう仕組みなんだろうっていつも思うんです」
「先日もイベントの一環でフリースタイルをする機会があったんですけど、英語とか自転車みたいなもので、そういう回路が頭の中にできると、言葉が出るようになる気がします」
「それって、わざわざその引き出しを仕込んでおいて、とかじゃないんですか」
「癖でよく踏んじゃう韻は多分あると思うんですけど、でもバトルだと8小節って決まってるんで。それと、ネタ仕込んでまでバトルやるなよ的なのもあるし」
「即興で言葉が出る人って脳みそがどんな感じなんだろうなって思うんですよね」
「普通に喋っていても、人間って結構韻を踏んでるんですよね。無意識でもそれなりにリズムもあるし韻も踏むから、気持ち良いフローに合わせながら、適度に落としていくみたいな」
「勉強になりますね。あとは、爆発力とか、度胸とかそういうのもあるのかな」
「あれはもう、サッカーとリフティングくらい違うものですからね」
「どちらがサッカーでしょう?」
「普通に曲を作る方かな」
「なるほど、なるほど」
「サッカーの試合中、リフティングし出す人はいないんで。リフティングがめちゃくちゃうまいけど、サッカー下手な人もやっぱいるし。あとまぁ大体みんなできるじゃないですか、プロはリフティング。サッカーとリフティングみたいな関係に近い気がしますね」
作品は誰に向けて作っている?
「不都合というテーマでちょっと考えたんですが、例えば、お仕事の依頼をいただくことがあるじゃないですか」
「タイアップとかですかね」
「そうですね。そのときに自分をどのくらいまで出していいのかを考えるんですよね。もう好きにやっていいよって言っていただく場合もあるんですけど、ただそれが広告的にはあんまり効果がなかったりすることを考えると、大衆向けにカスタマイズする作業をすることが多いんですね。そうなると、作品性が薄まってくるような気がして。音楽でもそういうことはありますか」
「タイアップをいただくことがあるので、往々にしてあります。まさにおっしゃった通り、好きなように作ってくださいというパターンもあります。でもタイアップである以上、オーダーが来ることも多くて。昔は過剰に意識しちゃったりして、うまくいかなかったことは正直ありますね。今はスタートからある程度額縁が決まっていて、描いていく方が割と苦ではないです。毎回これで大丈夫かな、と怖い部分はありますけど」
「SKY-HIさんでもそうなんですね。では、タイアップ以外の作品については、特定の誰かに向けて作っている意識はありますか。自分のためなのか、それともこういうのを書いたらファンの方が喜んでくれるかなとか」
「後者に関しては、僕は今ゼロですね。純度が落ちるっていうか、今周りにいる大切な人たちが頭の中を常に締めているわけなので、それを思い描いて書くようにしてるかな。ひょっとしたらトントンくらいで自分自身を喜ばせたいとか楽しませたいという気持ちがあるのかも。あとは、ざっくり人間をカテゴライズするのがちょっと嫌なのもありますね。ファンの人っていう表現の仕方は年齢も性別もバックグラウンドも雑すぎて、『それは一体誰?』っていう。なのでライブで目の前にしている時のコミュニケーションは好きですが、SNSなどでのざっくりしたコミュニケーションは避けているというか忌避しているところもあります」
「なるほど。僕はこれをやったほうがより多くの人にリーチできるだろうな、とか自分の仕事をいい方向に進ませると考える方が多いかもです。誰かに媚びを売ることはないですけど、この着地点でこのぐらいの人を喜ばせたいというのはありますね」
「確かにパントビスコさんは、よくファンの方とコミュニケーションを取られてるイメージがあります」
「やっぱり作品を発信するだけだったら、SNSを活かし切れていないなと思うので、参加してもらいたいなっていうのはあるんですね。だからインスタストーリーズのアンケート機能を使ってみんなで楽しんでもらう企画をやったりしてます」
「僕も参加してますよ。ほぼ毎回。自分が押したアンケートはほぼ全て少数派です(笑)」
「本当ですか? 変わり者ってことですね」
「パントさんは毎日とか毎週のペースで自信作を出していくわけにもいかないから、リリースの空いている期間に何をするかっていうのがありますよね。確かにそう考えると、今どき珍しいくらい顔の見える方ですよね。珍しくもないのか? SNSに1枚ずつ作品を上げていくスタイルで、作者本人に焦点が行くっていうのはなかなかないですよね」
「すごく嬉しいです。コンセプトとしているのは、自分が言いたいテーマに合わせて、キャラクターに代弁してもらってるんですね。なので、自分が抱えたキャラクターをプロデュースしてるような感覚です。それを逆から言われたのは初めてです。キャラクターを通じて、僕が思っていることを発信してるっていう」
「僕はいい意味でですけど、やっぱりどのキャラクターを見ても、パントビスコさんは今こういうことを思ってるだなぁって見てました」
「そう言われたら恥ずかしいですね、そういうことなんですよ」
気が付いたら床で寝ている!? スターの知られざる日常
「日常生活での不都合はありますか?」
「う〜ん。何だろう。結構、床で寝ちゃうことが多くて。あれ不都合ですね」
「それって気絶するみたいな感じじゃないですか。それ、良くないですよ」
「落ちた瞬間はあんまり気づかなくて。最近は場合によって計算することもあるっちゃあるというか。ここら辺で1回気絶しておいたら、何時頃には一度目が覚めるのでは、みたいな」
「神経が休まる暇ってあるんですか」
「神経のレベルになるとないですね。そもそも人間にスイッチがないのってだいぶ不便だなと思うんですよ。有機物と有機物を組み合わせて動かしているだけなので、なんかスイッチ欲しいよなって本当に思う」
「出ましたね。不都合なことが」
「緊張とかもそうだと思うんですよ。大事なところほど緊張するわけじゃないか。大事だと思ってるからこそ緊張してしまう礼儀みたいなものだと思ってはいるんですけど、多くの場合、身体的に良くない影響が出るわけじゃないですか。心拍数が上がるとか、息が上がるとか。大事なことって成功した方が人間にとっていいわけじゃないですか。なのに、失敗する確率を上げてるのが、体の仕組みとして不思議だなって」
「合理的じゃないですよね」
「そうなんですよ。みんな合理的に進化していってるわけでしょうっていう。人間を超える作業ってことですかね。(ジョジョの奇妙な冒険の)ディオ・ブランドーだ。『おれは人間をやめるぞ!ジョジョーーッ!』ってライブ前に叫ぼうかな(笑)」
“人生はいつでもデビューできる” ニューアルバムに込めた想い
「お客さんもびっくりしますね(笑)。今回のアルバムのタイトルが『THE DEBUT』ですが、僕もフォロワーの方から始めたいことがあるけれどちょっと踏み出せない、迷っているうちに過ぎちゃったという話をよく聞くんですね。そういう人に向けた言葉を何かいただけますか」
「スタートとして忘れがちなのは、生命活動を維持して、動物として日々を送っていること、生き物として存在しているってこと自体がすごいことなので、元々は別に何も始めなくてもいいと思うんですよね。その中で何かを始めたいと思った時に始められる、黄金期をいつでも作れる権利を持ってるっていうことが、すごい良いことのような気がする。3日坊主とかも、悪いことみたいに言われるけど、3日やるのって結構すごいことだと普通に思うし、全然それでいいと思ってて」
「確かに、3日続けてみて違うなって思ったんだったら、早めに辞めた方が人生の時間をコストとして考えた時にすぐにリカバリーできますよね」
「成功した物事に対して評価や称賛をもらうことは嬉しいし、むしろガンガンしてほしいんですけどね。別にやるぞって思ってやっていることに関しては、別に何も偉くはないと思うし。中学デビューとか、高校デビューとかって嘲笑の対象になりやすいけど、環境が変わるタイミングを見つけて、自分でなりたい自分にチェンジしてみるって、結構ワクワクすることだから、なんか全然いいじゃんっていう気がするんですよ。30歳の誕生日とか、11月1日とか、そういう機会に試しに1回ちょろっと 体験スタートしてみて、それから考えればいいっていうくらい、人生は締めるところは締めなきゃいけないけど、その分ラフなところはラフな方が、絶対ハッピーだとマジで思ってます」
「今の言葉に救われた人がたくさんいると思います。めちゃくちゃ良かったです。今サビでした」
「今の曲にしようかな(笑)。『THE DEBUT』というタイトルにした理由はいくつかあるんですが、それは一旦置いておいて、内容がどんどんクソガキみたいになっていっているのはありますね。理想の上司とか、チームマネージメントとか、若い世代との付き合い方といった特集に呼んでいただくことが増えて、ちゃんとしたことを考えて話すのを求められることが多くなったんですよね。それはもちろん有り難いのですが、その分バランスを取ろうとしているのかも。アルバムで真面目に良いことを言おうとすると、なんか説教臭く感じちゃって。みんなにとっては解釈一致でいいのかもしれないけど」
「それはすごく納得できます。今のお話を聞いて、もう一度アルバムを聴いてみたくなりました」
「いろんな自分がいると思うんですけど、このままで会議も出るし、人とも話すし、ライブもするし、常にオンの状態ですね。だからせめて寝るときくらいにスイッチが欲しいですね」
Photos: Kouki Hayashi Text & Edit: Yukiko Shinto